日記風雑読書きなぐり

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help リーダーに追加 RSS 2001年5月12日 青来有一「聖水」に見る魂の救済

<<   作成日時 : 2005/02/10 01:05   >>

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この現世で生を得ている生身の健康人にとっては、来世の有無など丹波哲郎先生の領域とばかりにバラエティー番組に楽しみ、まして神仏の御加護などと当てにするもヘチマもなく、ただのうのうと、日々これ瀆神の行為を積み重ねしているのであるが、パチンコ屋の数ほどあると聞くあまた宗教・宗派のいずれかの門下信徒のかたがたであれば、「まったくもって道理である」と諭されるに違いないこのお話はむしろ凡人の無信心をいたく刺激し、揺り動かし、何やらを覚醒させる働きがあったのである。

ヤレ不良債権の最終処理と、人心を扇動するマスコミの犠牲者ではあるまいかと思いやるのは筋違いではあるが、芥川賞の題材にしては珍しく誠に風俗的な素材で、傾きつつある地方スーパーマーケットのオーナー経営者が登場、余命いくばくもない病床にあって、よくあることとは言え経営権の承継なる煩悩魔の虜囚におちいる。ここを先途と後継者を指名し、根回し万端抜かりなく、これで往生できるかと安らかなる境地で死を迎えるが、ところがどっこい、さにあらず、信頼していた部下の裏切りにあい、この思いが成就しなかったことを彼岸に渡る直前に理解してしまうものだから、とてもじゃないが死にきれないと、憤怒の焔メラメラと逆上で裏返る眼球が睨む、魂魄この世にとどめ置き恨みはらさで………、平将門や菅原道真公における非業の死もかくありなんとばかりの形相で息を引き取るその寸前………。

まあ、しかし、これは構造不況の犠牲者ではないな、経営における老害であって、この指名者を後継者にしていたら、瞬く間に倒産の憂き目を見るから、部下のほうがまっとうだなと、さらに、息子も会社はお父さんの意向どおりになったよと、嘘も方便、楽にしてあげるべきではないかなどと、俗人は思い巡らすのだが、これはこの作品のテーマではなかった。

で、これは本格推理小説ではないからネタバラシではない、その寸前にどこからともなく
伝説の隠れキリシタンの一行があらわれ、静かにオラショを唱和する、それは澄んで深く雨音に調和して響く。奇跡、これが現存する奇跡なのだろう、が起こる。

「生きていくには信心はいらないが、死んでいくには信心がいる」「このあたりが死を前にした今の日本人の基本姿勢なのだろう」、この池澤夏樹の言葉には得心するところが多い。

オジサンの書評集「よっちゃんの書斎」>「ミステリーの部屋」をごらんください。

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