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zoom RSS 03/01/13 これぞ忠臣蔵の決定版

<<   作成日時 : 2005/04/10 22:48   >>

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例年、正月の二日は10時間のテレビドラマを楽しみにしている。今年は「忠臣蔵」であった。この誰もが知っている美談をどう解釈しているかがもっぱら興味の対象であったが『仮名手本忠臣蔵』の素材をかなり取り込んで、世話物、人情噺といわば古典的解釈の「義士」を描くドラマで拍子抜けしたが、それでも、最近でははやらない挿話がむしろ懐かしく、年寄りと一緒に見て会話も弾んだものだ。

かつてNHKが長谷川一夫の大石内蔵助で大河ドラマを制作したことがあったが、この原作は大仏次郎の『赤穂浪士』である。大仏が『赤穂浪士』を上梓したのは昭和2年、金融恐慌で巷には失業者があふれていた。赤穂藩士を主君の仇をはらす忠孝の士すなわち「義士」としていたこれまでの「忠君愛国」思想を裏返した大仏は内蔵助を幕藩体制の批判者とし、藩士らを「浪人」と位置付けることによって、その時代にふさわしい忠臣蔵を創造したのだった。

そして平成4年、すでにバブル型の経済戦争は終焉し、経済の担い手たちはリストラ、吸収合併、倒産と生き残りをかけた消耗戦に追い込まれる。いまでいう「失われた10年」の序幕の時にあたる。この時代背景をえて『赤穂浪士』をはるかにこえる斬新な忠臣蔵小説が生まれた。池宮彰一郎のデビュー作『四十七人の刺客』である。

池宮内蔵助は
「これは単なる面当て、しっぺ返しの企てでもなければ、亡き殿の恨みを報ゆる仇討ちでもない。これは合戦だ」
とする。
そして
「合戦であるから吉良の白髪首一つとってよしとせず、相手の命を奪い、家を叩き潰し、領地を亡きものとする。後ろ盾となり謀略を構えた武門上杉の面目を泥土に押しつけ、踏みにじる」
のである。
「義士」から「浪人」とされた彼らは平成で「刺客」となった。

戦争に理由づけはいらない。大義名分はあとになって加えられるもの。これが古今東西、戦争というものの現実であろう。浅野内匠頭が刃傷に及んだ原因などはどうでもいい。史実として解明されていない刃傷事件の真相を逆手に取ったこの小説の骨格となる発想にまず驚嘆する。
さらに戦争とは戦力の差を謀略、諜報戦で凌ぐものである。池宮内蔵助が次々と仕掛ける謀略、諜報活動の凄さ、そのリアリティに舌を巻きながら時間のたつのを忘れ惹きこまれてしまうのである。インサイダー情報を得たのち公開される直前のマーケットにおける資産の高値売りぬけ、
破格のコストを投入した敵の信用失墜を謀る風説の流布などなど、
あらゆる意味でこれは今日的忠臣蔵である。
内蔵助に拮抗する智謀をもって上杉藩江戸家老色部又四郎が登場し丁々発止の攻防戦のサスペンスといい読みどころは満載されている。

しかも、時代考証に相当の時間を割いたであろう著者の真摯な姿勢がうかがわれる。特に、事件の背景にある将軍家、朝廷、上杉家、吉良家、柳沢吉保の微妙な政治的緊張関係を簡潔に記述してあるが、刃傷事件直後の非情な処断措置を合理的に説明できて、わたしとしては忠臣蔵事件とはこの考察で決定としか考えようがない、そのくらい説得力が光った考証なのである。

さらに加えて文章がすばらしい。感情を抑制した硬質の文体は死にむかう束の間の生を生きる男たちが拠りどころとするものをしみじみと伝え、今を生きるわらわれに深い余韻を残す。春を待つ木々の花芽はふくらみつつ清爽の気満つる思いで厳冬に読む、第一級の折り紙つき時代小説だ。


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