日記風雑読書きなぐり

アクセスカウンタ

zoom RSS 03/06/30 京極夏彦『覘き小平次』 怪談にして怪談にあらず、鏡に映る自分が怖い?

<<   作成日時 : 2005/04/25 00:15   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 2 / コメント 0

画像
怪談と申しますと文化・文政期の合本、読本、歌舞伎を真っ先に思い浮かべますな。人間界の邪悪な葛藤、その結果がひきおこす殺人、加虐、血みどろな幽霊と凄惨な復讐がおりなす、妖美・淫虐の世界でございます。

さすが京極夏彦です。
山東京伝の怪談『復讐奇談 安積沼』の主要登場人物を総動員し、
いくつかのエピソードをそのまま織り込んだ上で、
化政期怪談の様式を踏まえ、滑稽、グロテスク、残忍、悪、悲哀などを核として、
封建末期の下層社会の鬱積をえがきつつ、
これを見事に換骨奪胎、人間の深層部によどむ陰影のあやそのままにあの京極堂流観念に共通するあやしの世界を展開して見せてくれるのでございます。

いにしえの荘子がたとえし胡蝶の夢か、
当節の巷をにぎわすマトリックスの世界か。
われ思うゆえにわれはあるのか、
いやむしろ宇宙はこれ色即是空なるか。
「覘き子平次」と呼ばれる極めて抽象的存在が押入れの中にいる。
いやいないのかもしれない。
それを見るあるいは覘かれる妻も、
その妻に懸想する男もこの存在を心底憎悪している。
いやその存在、あるいはその不存在を憎悪しているのではない、
そこに己の意識下にあるよこしまな欲望を見出すのだ。
つまり鏡に映る己を憎悪しているのだ。
………と解釈すればいいのかななどと考えてしまう小説は正直申し上げれば怖い怪談ではないのでございます。

怪談は芝居・映画をみても、高座で噺を聞いても、年配者からうけたまわるにしても、怖かったですよ。それは、超自然現象そのものの驚異と人間の営みの内にある淫虐性を目の当たりにする恐怖の相乗作用なのでしょう。それだけではない。最近はホラーなんてジャンルがありますが、怪談の本当の怖さには必ず「人として守るべき道」と言う概念が確固として存在していたんですね。幽霊の復讐は人倫にもとる行為への応報だったんです。ところが、これが死語になり、物欲、色欲、征服欲を貪欲に追求する化け物どもが跋扈し、狂気のさた、苛虐・暴力が日常茶飯事になった当節、人間世界そのものが怪談世界に変貌してしまいました。昔風の怪談は少しも怖くなくなったのです。
換骨奪胎してもやはり、怖くはない。理屈が先行しているんだなぁ。

九化けの治平となのる場違いな人物が登場する。これは京極夏彦その人でしょう。彼が「紙みたいにうすっぺらい」小平次に説教をします。
「信じるってこたァ、騙されても善いと思うこと。信じ合うッてこたァな、騙しあう、騙されあうてェ意味なんだ。この世は全部嘘だぜ。真実ってなァ、全部騙された奴が見る幻だ」と。

そして小平次がいくらか自分の「存在」を自覚する。
ここが京極世界の見せ場なのだろう。
「そのとおり!」おおむこうから声がかかる。
が、ますますもって怖くなくなります。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(2件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
03/11/24京極夏彦 『嗤う伊右衛門』幽霊のでない四谷怪談の恐怖
この京極流四谷怪談、時代設定はあの四谷怪談でありますが、明日の見えない現代の不安とそこで生きるもののこころの歪みをあな恐ろしく描写しています。 ...続きを見る
日記風雑読書きなぐり@WebryBlog
2005/05/13 13:06
垣根涼介 『君たちに明日はない』これが山本周五郎賞
今年度の山本周五郎賞受賞作。山本周五郎賞は平成15年、京極夏彦の『覗き小平次』平成16年、熊谷達也『邂逅の森』,/b>が該当作品であり、新潮社がスポンサーとなってそれなりの文芸作品を対象にしているのかと思われた。垣根涼介の作品は『ワイルドソウル』を読んでみたいと思っていたところで、「山本周五郎賞受賞」をおおきく白抜きした表紙帯にひかれて、まずこの作品から読むことにした。 ...続きを見る
日記風雑読書きなぐり
2005/06/27 12:39

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
03/06/30 京極夏彦『覘き小平次』 怪談にして怪談にあらず、鏡に映る自分が怖い? 日記風雑読書きなぐり/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる