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help リーダーに追加 RSS 03/07/27 丸谷才一 『輝く日の宮』 だらしないところもありそうな親しみを感じる文化論 

<<   作成日時 : 2005/04/29 23:30   >>

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一流料亭にて名だたる調理人の芸術的割烹料理を堪能する場合、まずお品書きを一覧し、それぞれがいかなる趣向にこしらえてあるか思い巡らせるを楽しみ、一つ一つの料理が並べられれば盛り付けられた器を鑑賞し、配置の工夫、彩り、季節感を愛で、ベテランの仲居さんと調理人のさばきのよさを語らいながらその深い味わいに恍惚とするのである。また床の間にひっそりとおわす墨絵、一輪挿し、障子を開けて板の間越しにみえる中庭の涼しげな風情にもこころをひかれ、できうれば女将とうわさの政治家周辺、差し障りないスキャンダルにも話の花を咲かせたい。すなわち日本料理を堪能することは日本料理を取り巻く宇宙そのものにおのれを解放することにほかならない。

しかし、この域に達せずとも54品はないにしても十数品の品書きをながめ、もちろん中華料理のメニューのように酢豚とかカニタマとか牛肉とピーマンの炒めなどと素材が具体的に書いてあるわけはなく、茫洋とかすみたなびく達筆で、しかし、どれが海のものか山のものか、あるいは煮物か焼物かお作りか程度は理解できるにこしたことはないのかもしれないが、いざとなればなにもわからなくとも、それはそれで間違いなくおいしいのである。なにしろ「一流」との「定説」がある芸術品なのだ。一流料亭ならば食通といわれる人でなくとも、酒に目がない人、芸者とお座敷遊びに夢中になる人、カラオケでデュエットやりたい人、それぞれの好みでこの宇宙を大いに楽しんだらいいのである。個性ある楽しみをした宴のあとに、うまかったなと本音で言えるのだ。

これだけの話題になった作品である。それだけのしつらえを工夫し、広大で奥行きがみえない作品であった。私のように源氏物語を読んだとはいえないものなのだが、あらかじめ冒頭に伏線として置かれた泉鏡花の短編『高野聖』を読んでおいたのが功を奏してか、おそらく読んでいない人よりは感心する深みに違いがあったはずであるから、源氏物語を読んでいたらはるかに面白みが深まることは間違いない。

『高野聖』を読んで、語り口調は緩急のリズムもさることながら、主語の省略による浮遊感、時間・空間は行きつ戻りつ、華麗な色彩感覚の情景描写、現実であるのか語り手の心象風景であるのかは混沌と、夢幻の世界にいざなわれたのであるが、ラストの丸谷才一再現、紫式部が破り捨てた幻の一巻「輝く日の宮」はまさにその趣、本来の日本的感受性による表現で、あぁ日本語とはいいものだとつくづく感じたのである。西洋流文法作法であれば光源氏は藤壺の君をどんな体位で犯し奉ったかの詳述があるのだか、ここは読後の余韻嫋々として風雅人たる読者のこころにまかせ、ついでに女主人公のセックスフレンドは社長の椅子を確保するために結婚をするのであろうかと気になるがままにすておかれるところがたいへんに心地よい。

夏目漱石が西洋文学を嫌ったのは風雅のよさが忘れられなかったからだろうと主人公はあるいは丸谷才一は考えている。風雅(日本文化)はいい加減でだらしない、迫力が弱い、迷惑だったり、いけない点もあって西洋文学(西洋文化)に完敗してしまったが、うまくいったときにはおっとりと、のんびりと、立派でしっかりしていると取柄が多いといわれるとなるほどその通りかもしれないし、主人公の父親(皇国史観を学んだとはいえ実にしゃれた人物なのだ)が東京が汚れたのは西洋文化が渡来したときに二つの文化がまじると、美というものを捨て、便利の方を気にしたせいだといい加減なことをのたまうのにも、にんまりしながら、丸谷才一もまた今日的合理主義と拮抗するなにものかを求める反骨の人であり、だからといってカチカチの右翼ではなさそうだし、だらしないところもありそうな親しみを感じる文化人だと思うのである。

オジサンの書評集「よっちゃんの書斎」>「ミステリーの部屋」をごらんください。

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