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zoom RSS 03/11/24京極夏彦 『嗤う伊右衛門』幽霊のでない四谷怪談の恐怖

<<   作成日時 : 2005/05/13 13:05   >>

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この京極流四谷怪談、時代設定はあの四谷怪談でありますが、明日の見えない現代の不安とそこで生きるもののこころの歪みをあな恐ろしく描写しています。

四谷怪談と申しますと、鶴屋南北の『東海道四谷怪談』であり芝居の世界である。寄席の人情噺にしても舞台にからくりが仕掛けられ、あやし系の音曲をくわえ、噺家も照明や幽霊装束でおどろかしたりする、いわば視聴覚に生理的恐怖感をかきたてるものであって読み物ではない。

この『嗤う伊右衛門』は京極夏彦がこの四谷怪談を換骨奪胎した全く異質の幽霊の出現しない現代的怪談小説といって差し支えない。
一読して文章を構成する一つ一つの言葉がひどく病的に暗澹としていることに気づく。ぬめぬめと粘りついて、異様な臭気まで漂うような言葉にあふれていてそれだけで充分薄気味悪いのであり、さらに登場人物のすべてがどこか心を病んでいてそれぞれの「狂気の沙汰」が披露される。『東海道四谷怪談』が描いた封建社会崩壊期に生きる下層社会の鬱積した心理ではなくむしろ現代人の複雑に屈折した精神であると理解すれば、恐怖感は真に迫って、「怪談」として成功しています。

伊右衛門、
彼にとって部屋に吊った蚊帳の中でこそ自分を確信できるが、その外は闇であって決して真実は見えない世界であり、そこではおのれという自覚は消滅し、ただ道を踏み外さず、しかしなすところなくいたずらに生きる人物と描かれる。

一方、疱瘡の結果であろうか醜怪に変貌した武家娘・岩(四谷怪談のお岩さまよりはるかにおぞましい)、
彼女はおのれの潔しとする所を確信し、家柄、格式、世間体を疎ましいと我を貫いて、夫・伊右衛門とは反対の極にある。個性的であり存在感があって当初はその生き方に共鳴するところがあるが、読み進むにつれ、その行動は見かけのうえでは道理はずれの過激でありむしろ醜いものと感じるようになります。

そしてこの両極端の夫婦に会話は途絶え、周囲の雑音、誹謗中傷と邪悪な意図もあって、口論と暴力の悲劇的な生活が続くことになる。

全編を通じて虚と実が入り交じり何が真相であったかをヒントは提示するが明確にせずむしろ読む人の想像に委ねる話法はミステリアスな昨今の世情そのものをイメージさせて魅力的である。この夫婦の周辺にある人物群であるが、この男はサディストであろうか、それらは道を踏み外した親子・兄妹であろうか、老骨になっても母親コンプレックスから抜けられない老人、その老人が見せる娘に対する異常な偏愛はなにをもたらしたのかなど、ぼんやりとしたままに そこに共通してある、歪んだ性衝動が陰画的に描かれる。それはは今大きな社会問題化した異常な性犯罪にかかわる精神構造の縮図であって、まさに現代怪談と呼ぶにふさわしいのだ。

この夫婦、最終章でそれこそ身の毛もよだつ凄惨な死を迎える。しかし、虚と実は裏返る。この逆転描写はみごとである。まさに本格ミステリーである。複雑であるが丹念に描かれるこの周辺の人物像こそ醜悪な化け物であったと作者は言いたかったのだろう、逆説的に実は二人の夫婦愛、終着の美しさが光ってくるのである。

もう一つの京極流怪談「覘き小平次」もおすすめです。


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