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zoom RSS 「黄金旅風/飯嶋和一」について 主人公末次平左衛門は長崎の民にとって本当に英雄だったのかしら?

<<   作成日時 : 2005/05/02 13:21   >>

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黄金旅風/飯嶋和一」について
とても面白い歴史小説でした。悪の竹中重義をやっつけるのは良かったんですが結局その後ますます鎖国政策は厳しくなって、キリシタン弾圧は過酷になっていくんですね。歴史の皮肉でしょうか。いっそ主人公は不自由な日本を飛び出して東南アジアで活躍すれば反逆児らしくすっきりしたことでしょう。


時は寛永5年から10年にかけて、幕府は大御所秀忠の威光がいまだ残る将軍家光統治の初期にあたる。ところは海外貿易都市長崎である。イスパニア人、ポルトガル人、オランダ人、中国人や東南アジアの人々が雑居し、隠れキリシタンが多数散在する。交易による富の蓄積が偏りあるとはいえ進み、活気と喧騒に満ちたエキセントリックな国際都市である。繁栄は商工業者の生活にも及んでいるが、その運命は今危機にさらされている。幕府主導の朱印船貿易制度のもと海外貿易の利権を一手に握る数人の貿易商、その綻びから得られる膨大な利得に群がる幕閣たち。この構造がキリスト教禁令強化と一体になった新政権による貿易政策の転換、列強イスパニア・ポルトガルと新興オランダの確執など新た国家的・国際的激動に直面し、長崎町そのものが変質を迫られているからだ。

キリシタン弾圧にかかる悲劇を描いた作品はいくつかお目にかかるが、鎖国政策が開始される直前の長崎地区の経済・社会の構成、人々の生活ぶりをここまで精緻に描いた小説はかつてあっただろうか。中国産生糸と日本産銀を中心とした交易の仕組み、列強間の陣取り争いと幕府の商取引への関与、その狭間にある貿易商たち複雑な思惑など興味をそそる史実がドラマティックに詳述される。そして迫り繰る構造的危機を正視する男、住まいする庶民の平和と生活の安定を希求し、その実現のために人種、宗派、身分を超越した連帯を形成しようとする熱血漢、一方で冷静に情況の変化を読み取り実証を持って権力に挑む若き反逆児・貿易商末次平左衛門の生涯が語られる。

加えて本書にはそれだけでも一つの小説になりえるような数々の印象的なエピソードがちりばめられているのだ。
強大な軍事力をバックに不当な取引を押し通そうとするオランダ東インド会社台湾長官との強談判に、台湾に乗り込み刀を振るって筋を通す末次家船大将・浜田彌兵衛の豪胆。
若い東洋人娘を陵辱せんとする南蛮人の左腕を袈裟切りに斬りおとす若き日の火消し組頭領・才介の侠気。
才介の男気が命を賭して大火に挑むそのディテイルの迫力。
不幸な過去を持つ唖者の名工鋳物師・真三郎が失った子を追慕するキリシタンたちのために制作するこども像は眠っていた信仰心を喚起し、そして到来する大いなる惨劇。
彌兵衛も才助も真三郎も底辺の庶民から愛され信頼される人物としてその信念を貫くのだが時代はそれを許さない。その哀切が読者の胸を打つ。
聖書を一節ごとに口伝していくキリシタン末裔たちが次々と失踪するミステリーもなかなか奥が深いドラマ性を含んでいる。

ただ残念なことに、私にはこれらのエピソードが際だつ分だけ主人公末次平左衛門の行動があまりにも平板で魅力に欠けるという印象しか残らない。悪友・才介とともに回顧される少年期の破天荒さにはひきつけられるのだが、暗殺された父から貿易商を引き継いだ後は政治力を備えた傑出の商人であっても、わくわくするはずのその個性がとたんに光輝を失う。ストーリー展開は幕府内に居座る陰の勢力と結託した長崎奉行竹中重義の密貿易、巨万の不正蓄財とその背後にあるルソン制圧の野望を平左衛門が阻止するところにあるのだが竹中重義の人物像が描けていないこともあってこの対立の緊迫感が盛り上がらないのだ。さらに平左衛門とは作者の歴史観の中でどのように位置づけられるのだろうかとの疑問が残るのだ。

丹念に読むと彼の行動はエピソードの登場人物たちが庶民から圧倒的に支持された義人、聖人であった立場とは異なる。むしろ長崎市民との連帯関係が希薄化して、もっぱら幕府内新勢力との関係強化工作に集中してくる。ここでは作者の語りも生命力の横溢するさまより一変し、事実の説明的叙述に偏りくどくなる。竹中重義を追い落とすことによって、新将軍家光の鎖国政策が加速化しキリシタン弾圧は過酷化した。本来自由貿易を理念とし、長崎の民の安寧を希求する平左衛門にとっては逆に回転する歴史のその片棒を担がされたという皮肉な結果を招来するのだ。

歴史的事実からみれば平左衛門の存在は道化役でしかない。それは作者も充分にわかっていることであろう。市井の人である彼に対する限りない哀惜の情と容赦ない現実の重みの狭間で作者はあえてこのドラマにおけるその人物像の評価をあいまいなままにしておきたかったのかもしれない。

2004/04/18

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黄金旅風 (飯嶋和一)
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
この作品自体には今ひとつノレませんでしたが、遠藤周作『沈黙』と重なる部分が面白かったです。
ひねもじら 乃太朗
2005/08/15 14:31
ひねもじら 乃太朗さん コメントありがとう。
これエピソードの方が面白いのですね。キリシタンの迫害もなかなかよかったです。
本筋はノレませんでしたね。
よっちゃん
2005/08/15 22:39

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