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zoom RSS 03/12/15サラ・ウォーターズ 『半身』 全編妖しい霧がたちこめる技巧的ミステリーの傑作だ

<<   作成日時 : 2005/05/15 22:23   >>

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読み終えてもう一度ページをめくり返してポイントになっていたと思われる箇所を読み返さざるを得ない。そんな気持ちになって結局、全ストーリーを読み直す誘惑にかられる。技巧と装飾にちりばめられたミステリーだからである。作者の緻密に企てた作為であることがわかっていながらその巧妙さに乗せられること自体がこの作品の魅力なのだ。

時代は19世紀末。舞台はロンドンのミルバンク監獄。女囚は男囚と完全に隔離され看守もすべて女性、女だけの密室。抑圧された欲望が陰湿に満ちてサディスティックな狂気が支配する空間である。主要登場人物は獄舎にとらえられている女霊媒師と監獄を慰問に訪れる婚期を逸した精神病質者である上流貴族階級の貴婦人。二人の交情が妖しく燃え上がる。その行き着くところはと読み手が惹きつけられるのが基本の謎であり、同性すら性の虜にする実に官能的な霊媒師である娘が罪を問われた事件の真相が明らかになるまでがもう一つの基本の謎として構成されるている。

それだけではなく謎は重層的に用意される。
ストーリーは二人の日記で交互に語られる主観の叙述であって客観的描写は最後までない。事実であるのか幻想・幻覚のたぐいであるのか、はたまた虚偽であるのかは読者として妄想をたくましくするしか理解しようがない仕掛けであって、(特に降霊術シーンは肝心な説明がないまま濃密な女同士の性的行為を連想させそれはそれで楽しい)、しかも作者の優れた文章力が活きて、全編これ、霧の立ちこめた風景を見ているような、曇りガラスをとおして人影をのぞくような、ミステリアスな語りに魅了される。

ラストもあざやかである。悲劇的な結果に遭遇する貴婦人は一転、眼前の霧が晴れて現実を見た心境になるが、読者は二転させられて、さらに深い霧に包まれ、もう一度読み返さざるを得ない仕掛けが待っていたことに気づかされるのだ。

私はこの作品を読んでいてちょうどこの時代のイギリスの降霊術にまつわるあるエピソードを思い出した。当時イギリスでは降霊術ブームであちこちで降霊会が催されていた。その会では霊媒が死者の霊を招き寄せたり、病気を霊の力で治療するというこの小説と同じ超自然現象を現出するのである。なかにはインチキな霊能力者も多かったようだ。ミステリーの元祖であるシャーロック・ホームズの生みの親コナン・ドイルは作風からすれば極め付きの合理主義者であると思われるのだが、実は、晩年は英国心霊協会の幹部でこの降霊術の信奉者であった。あるとき、霊能者たちにその能力を競わせる大会があって、彼が審査委員となったときのことである。彼の鼻をあかそうとした手品師が出席し、マジックでもって超常現象を演出したところドイルはこれを高く評価してしまった。してやったりとマジシャン氏は後日友人を介してドイルにこれが手品だったことを告げたところ、ドイル「それは嘘だ。アレこそ本物の霊媒師だ」と。


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