日記風雑読書きなぐり

アクセスカウンタ

help リーダーに追加 RSS 高村薫「レディ・ジョーカー」への思い入れをつれづれなるままに

<<   作成日時 : 2005/05/24 16:59   >>

トラックバック 9 / コメント 1

画像
宮部みゆきを読み終えていまさら高村の「レディ・ジョーカー」の凄さを感じる。これまでも折々に感じたことをメモしてあったがそれらを記してみよう。

高村薫の改定版『マークスの山』が出版されたのがきっかけで、彼女の最後のミステリーである『レディ・ジョーカー』についてのきわめて個人的な思い入れがよみがえってきた。世に企業内幕小説が氾濫している現在、大企業が事件に巻き込まれた際の経営陣の行動をこれほどリアルに活写した小説は今までお目にかかったことがない。バブルとその崩壊にまみれた経験者として特別の感慨がある小説なのだ。
03/02/24 記す


発表になった年は1997年12月、大激震が金融界を襲った年であります。それまでに大企業特に銀行は総会屋、暴力団との関係がもたれあいとして厳しく指弾されていました。そして経済小説ではトップ層の無能、倫理観の欠如、あるいは権力欲、金銭欲、ポストに対する執着心などが大組織をも崩壊させるとの単細胞的思考で描く、あまりにも類型的な暴露的企業小説で溢れかえっていました。しかし、激変の環境におかれた現実の経営は決してそんな単純なものではないだろう………と痛感していたときにこれを読んだのです。
もちろんミステリーとしての面白さは完璧なのですが、冒頭に同和問題を大胆に持ち出したところも非常に興味深いものでした。
表に登場する人物が経営者を含め基本的には「善人」としてとらえられ、にもかかわらず事件に巻き込まれていく構図に日本社会の闇構造の根深さ怖さを実感させるものがありました。
最近また経営トップの責任が問われる事象が続発しています。
2002/09/05 記す


高村薫の作品はいずれも丁寧に作られており多様な視点で突っ込んであるために作品ごとに独立した面白さがあります。読む人の評価が分かれるのはそのためでしょう。
国際謀略ジャンルでは『リヴィエラを撃て』
いわゆるクライムものなら『黄金を抱いて翔べ』『神の火』
異性・同性の愛憎、嫉妬等、複雑なエロスを交えての事件なら『マークスの山』『照柿』『李歐』

しかしこれらの作品をはるかに越える傑作が「レディ・ジョーカー」です。彼女、このあと人生観が変わったようで、社会そのものへの目の向け方が真摯にしかも鋭くなって、評論家としての活動が目立っています。良いことだと思うと同時に新作が待ち遠しいものです。
戦後ミステリー史上の屈指の作品と言っても過言ではありません。

ところで「レディ・ジョーカー」次の事項に興味のある方には是非読まれることをおすすめします。

1 時効が到来したグリコ事件の真相を野次馬的に知りたい方。社長誘拐の手際よさ、身代金の受け渡し方法、警察と会社と犯人の駆け引き等。

2 戦後大企業が巻き込まれた総会屋、暴力団、政治屋、似非同和などと身近に関わった方。

3 バブル崩壊の中で刑事、民事あるいは道義的責任を問われた経営者およびそのスタッフの方々。

4 暴露的企業小説が好みで、大企業のトップはすべて守銭奴か権勢欲の権化か色情狂と誤解している人達。

00/02/19 記す


参考
『リヴィエラを撃て』
1992年冬の東京。元IRAテロリスト、ジャック・モーガンが謎の死を遂げる。それが、全ての序曲だった―。彼を衝き動かし、東京まで導いた白髪の東洋人スパイ『リヴィエラ』とは何者なのか?その秘密を巡り、CIAが、MI5が、MI6が暗闘を繰り広げる!空前のスケール、緻密な構成で国際諜報戦を活写し、絶賛を浴びた傑作。日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞受賞。

『黄金を抱いて翔べ』
銀行本店の地下深く眠る6トンの金塊を奪取せよ。大阪の街でしたたかに生きる6人の男たちが企んだ、大胆不敵な金塊強奪計画。ハイテクを駆使した鉄壁の防御システムは、果して突破可能か?変電所が炎に包まれ、制御室は爆破され、世紀の奪取作戦の火蓋が切って落とされた。圧倒的な迫力と正確無比なディテイルで絶賛を浴びた著者のデビュー作。日本推理サスペンス大賞受賞。

『神の火』
原発技術者だったかつて、極秘情報をソヴィエトに流していた島田。謀略の日々に訣別し、全てを捨て平穏な日々を選んだ彼は、己れをスパイに仕立てた男と再会した時から、幼馴染みの日野と共に、謎に包まれた原発襲撃プラン〈トロイ計画〉を巡る、苛烈な諜報戦に巻き込まれることになった…。国際政治の激流に翻弄される男達の熱いドラマ。

『照柿』
野田達夫、35歳。17年働き続けてきた平凡な人生に、何が起ったのか。達夫と逢引する女、佐野美保子はほんとうに亭主を刺したのか。美保子と出会った瞬間、一目惚れの地獄に落ちた刑事合田雄一郎はあてもなく街へさまよい出る。照柿の色に染まった男二人と女一人の魂の炉。

>『李歐』
惚れたって言えよ―。美貌の殺し屋は言った。その名は李欧。平凡なアルバイト学生だった吉田一彰は、その日、運命に出会った。ともに二十二歳。しかし、二人が見た大陸の夢は遠く厳しく、十五年の月日が二つの魂をひきさいた。『わが手に拳銃を』を下敷にしてあらたに書き下ろす美しく壮大な青春の物語。

設定テーマ

関連テーマ 一覧

月別リンク

トラックバック(9件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
1999年11月7日 藤原伊織「てのひらの闇」の世界
あの名作「テロリストのパラソル」から4年です。 ...続きを見る
日記風雑読書きなぐり@WebryBlog
2005/05/24 17:11
2000年2月20日 高村薫大好き!論
>よっちゃんさん 投稿者:とも  投稿日:02月19日(土)16時10分03秒 高村薫ですが、『レディ・ジョーカー』未読なのですよ。残念。 (ハードカバーに弱い…) しかし1〜4の事項は実に分かりやすい進め方で気に入りました。 これはよいです。 ...続きを見る
日記風雑読書きなぐり@WebryBlog
2005/05/25 15:18
2000年2月21日 高村薫大好き!論・続
(無題) 投稿者:うさ  投稿日:02月21日(月)11時23分17秒 >よっちゃんさん、マモルさん 高村薫、私も好きです。 私の中では『リヴィエラを撃て』と『レディ・ジョーカー』が双璧です。もちろん他の作品も好きではありますが。先日時効をむかえた「グリコ森永事件」の特集をTVで放映していましたが、それを見ていたら『レディ・ジョーカー』をまた読みたくなりました。 しかしながら、高村作品についてのよっちゃんさんの理路整然とした記述には、感服しています。 何がどのように面白く感じら... ...続きを見る
日記風雑読書きなぐり@WebryBlog
2005/05/25 15:23
2000年3月12日 新入社員に宮部みゆきの作品「理由」を推薦しようかな
bそろそろ入社式の季節です。新入社員の若い人といろいろお話し合いをするいいチャンスなのですが、昨年は京極夏彦「鉄鼠の檻」の一部をコピーして糸口にしましたので、今年は宮部みゆきの「理由」がいいなと思っているのです。 私は戦争の後遺症を負って今の経済社会のカオスに生きている年代にあたります。 戦後の混乱→民主化→冷戦→反動→復興→繁栄→東西の壁崩壊→成熟とバブル→バブルの崩壊→21世紀? ...続きを見る
日記風雑読書きなぐり@WebryBlog
2005/05/25 15:51
2002年7月20日 高村薫『晴子情歌』 高村はどこへむかうのだろうか
?日本ミステリー史上、屈指の傑作『レディ・ジョーカー』を発表して後、創作活動がとまっていた高村薫の大河小説「晴子情歌」が刊行されて早速に買い求めた。最近は政治評論家になったかと思われるばかりの言論活動が目について傍目でいらいらしていただけに期待は大きかった。にもかかわらず、いっこうに読み進めないのであった。「非ミステリー」であり、娯楽性がほとんどない、つまりとんでもなく退屈な作品である。しかし、新聞雑誌の書評を大いに賑わしている問題作であることに違いはなく、シャクトリムシの休み休みしながら... ...続きを見る
日記風雑読書きなぐり
2005/06/03 14:57
「神の火」
 首都圏にお住いの方は、毎週木曜日にリクルートが発行している『R25』というフリ ...続きを見る
独善的な読前書評
2005/06/19 12:34
「神の火」
 首都圏にお住いの方は、毎週木曜日にリクルートが発行している『R25』というフリ ...続きを見る
独善的な読前書評
2005/06/19 12:35
「レディ・ジョーカー」高村薫
  ...続きを見る
本を読む女。改訂版
2005/09/26 09:45
「レディ・ジョーカー」
高村薫さんの「レディ・ジョーカー」に圧倒されたあと、 大沢在昌さんの「闇先案内人」を読んだら、 妙に戦闘的な気分になってしまった。 ...続きを見る
徒然花茶
2005/10/01 22:18

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
はじめまして。TBありがとうございます。
こちらからもトラバ送信させていただきました。
合田刑事の過去知りたさに、『マークスの山』『照柿』へとなだれ込んでいますが、あらためて『レディ・ジョーカー』の迫力を噛みしめています。
sumika
2005/10/01 22:20

コメントする help

ニックネーム
本 文