![]() 期待はずれの「冒険小説巨編」 このところ日本人作家による冒険小説の傑作にお目にかからない。外国もので最近のことでは、ラドラムの『メービウスの環』が楽しめたものだから、待望していたこともあって笹本稜平の最新作を早速読んだ。エベレストを舞台にした著者の『天空への回廊』の面白さに忘れがたいものがあったからだ。 舞台は南極である。知らなかったことだが南極には裕福な観光客が登山やスキー、物見遊山に訪れるリーゾトゾーンもあるのだそうだ。桐村彬はそのような人間たちのためにチリ最南端の町・ブンタアレナスと南極にある観光基地を飛び回る航空輸送のパイロットである。ブリザードを突いて氷河や氷床、雪原に離着陸する。不時着でもすれば寒気と強風下で生存の可能性はない。愛機ツインオッターのDHC−6を翔けるそのパイロットの腕を買ったのがチリ国籍の日系人、チリ有数の富豪である「アイスマン」。彼は観測活動の名目で基地を設け、実は氷床下の岩床をボーリングして含有物の調査を行っている。 欲望と裏切りが交錯し、封印された歴史の闇が明らかにされたとき日本人パイロット桐村彬は、勇気と誇りを胸に厳寒の南極を翔る。 世界制覇の謀略を巡らす謎の組織が登場し、アイスマンの姪・ナオミを誘拐し「封印された黄金伝説」の秘密を握るアイスマンを脅迫する。ナオミに心を寄せる彬は大いなる陰謀に巻き込まれて、死闘を展開する。 南極に特有の過酷な気象状況における操縦テクニック、さらには空中銃撃戦などパイロットとしての主人公の行動描写はなかなかの迫力である。 しかし期待は外れた。 ストーリーの背景にはナチスのユダヤ人迫害、迫害されたユダヤ人の過酷な運命、戦後、南米諸国の軍事政権の裏舞台にあるナチス残党とアメリカCIAの陰謀、そのあやの中でしたたかに成功をおさめた日本人実業家、南極地の地質学上の新説、など盛りだくさんの道具立てがあり、これに愛する女性のためには命がけの戦いを挑む男の心意気が加わる。 ところが 私にはわき道であるこれらの道具立ての説明が贅肉となって見苦しく、退屈で途中何度か読むことをやめようと思ったほどだ。 謎また謎、すなわち解決したところで新たな大きな謎が提示される。危機また危機、強大な敵を倒したところでさらにパワーアップした敵が待ち受ける。アクション、アクション、畳み込むように緊張の場面が用意されている。こうであればナチス残党による帝国復活の陰謀やCIAのクーデター支援工作など多少は使い古された構図をもちいても差し支えない、また類型的な恋愛ドラマが紛れ込んでいても目をつぶることができるのだが。ところがジェットコースターになるべきストーリーなのだから、やれヒューマニズムや反権力の力学が詳述されるとそれは余計ものでしかないため全体の調和が取れない。 つまり中だるみが酷すぎる。 そうなると、優秀であってもパイロットに過ぎない者が戦場で使用される重火器類をなぜこうもたやすく使いこなせるのだろうかとか、戦闘のシロウトが悪人への報復とはいえ、よくためらいもなく大量殺戮ができるものだといいたくもない欠点をあげつらうハメになる。 |
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