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zoom RSS 東野圭吾 『容疑者Xの献身』 みごとに騙される傑作だが………

<<   作成日時 : 2005/11/27 18:28   >>

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他人様をたぶらかすことに無上の喜びを感じるペテン師の「私」はたぶらかされることにも快感を覚えるタチなものだから、小説は謎解き型のミステリーを好んで読む。なかなか快感傑作はないのだが、これは完璧であったよ。

われわれペテン師の仲間内でよく言われる問題設定がある。詐欺の仕掛けを作りだす創造と詐欺の仕掛けを見破る分析ではどちらが簡単か。あるいはその難しさの度合いはどの程度かとされる問題なのだが、殺人事件の隠蔽工作をテーマにしたこの作品を読んでまんまと引っかかり、心底ヤラレタと思った「私」は後者の方を難しいとするのが正解であろう。実にくやしいのは読み手がかなり周到に読み込めば「なんだか変だぞ」とわかるヒントがあらかじめありながらだ、この「あらかじめありながら」でたいした本格派といえるのだが、ついうかうかと見過ごしたことだ。被虐の楽しみは充分に味わったことになる。

さて、ミステリーは小説として楽しめばよいのだがペテン師という職業人の習性だろう、嫌なことだが一般の読者にはない読み方がある。「犯行の実行可能性」「完全犯罪の方法論」という実践のための教材として使うのだ。ところがこれだけミステリーのベストセラーが増えているにもかかわらず、実際に「私」がこれから実行しようとしている犯行の研究書として役に立つものは少ないのが実態だ。

たとえば
叙述にトリックのある作品や超能力犯行は論外だが、
横溝正史風で特定地域の因習を前提に犯罪がなりたつもの
寒村、孤島、古城などの仮想の閉鎖空間を犯罪の舞台としたもの
偶然や登場人物の直感で肝心のストーリーが変化するもの
時刻表アリバイのようにおなじみになりすぎてその手口が警察にも知られているもの
とんでもないコストがかかる道具立てを必要とするものは「私」には手が出せない。
先端科学技術なども「私」には使えないだろう。
毒薬などもよく小説では使われるが先日の静岡県でおこった16歳少女の母親毒殺未遂のように入手経路は解明されるものだ。マフィアとの付き合いを避けている「私」は凶器にピストル、マシンガン、プラスチック爆弾などは手に入らない。
変装とか声色、腹話術など怪人二十面相やアルセーヌ・ルパン風もだめだ。

「私」がこの作品をめったにお目にかかれない傑作だと思ったのは実はここにある。
このトリックの恐るべきところは実際に使えるからだ。
そして完全犯罪を可能にする方法だからだ。
だから「私」は興奮したのだ。

そこで「私」は細部を検証しようとはじめから丹念に読み返すことにした。
装丁帯にはこうあった。
運命の数式。命がけの純愛が生んだ犯罪
これほど深い愛情に、これまで出会ったことがなかった。いやそもそも、この世に存在することすら知らなかった。
男がどこまで深く女を愛せるものか。どれほど大きな犠牲を払えるものか………。


アレレ!!!! 
これって恋愛小説なの?
そうだとしたらいかにもインチキくさい純愛物語だなぁ。
今しがたの興奮はあっという間に冷めてしまった。
ダメだ、コリャ。
結局、この組み立ては、オンナには興味を失った「私」のこれからの犯行にはまるで役に立たない仮想現実だったのだ。


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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
はじめまして。お邪魔します。
これは小気味良いくらい素直に「やられた!」と思えたミステリでした。
『秘密』を「笑える話を書くつもりで書いた」と仰っていた東野さんなので、この純愛もまた読みようによっては喜劇なのかな、と思いました。
たかとう
URL
2005/11/28 15:02
たかとうさんへ
純愛を喜劇としてとらえればこの作品は完成された傑作ですね。
オジサンからみますとこのたぐいの恋愛感情はまがい物でしかありませんからブラックユーモアととらえた方が健全な感性ですね。
よっちゃん
2005/11/28 16:45
こんにちは。TBさせていただきました。
私もトリックには「ヤラレタ!」と素直に思い、よくも個々までのものを考えることが出来るものだと感服した次第です。
純愛云々の部分は、起こり得ない作り物の純愛話だとは思いつつ、ついついこちらもヤラレてしまったので、私のブログではその部分も「良かった」と書いています。
宜しければぜひ覗きに来てください。
こばけん。
URL
2005/11/28 20:26
大抵の方は既に読了されたというのに、今頃ようやく読み終わりました。
いつも、貴ブログでの読後感想を参考にさせて頂いております。勝手にTBさせて頂きました。本当に面白かったです。
noritan
URL
2006/08/04 04:47

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