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help リーダーに追加 RSS 文庫本で発売されました 宮部みゆき『模倣犯』 その読みどころ

<<   作成日時 : 2005/12/02 22:39   >>

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昨日、今年の流行語大賞は「小泉劇場」とされたようです。この一年間の世相を反映し、話題となった言葉に贈られる賞であるが、受賞者となった武部幹事長が女性刺客に囲まれ「小泉オペラまで盛り上げたい」と満面の笑みを浮かべた表彰式のテレビ映像を見ていると、皮肉なことだがこの言葉に潜んでいるマスコミというものの恐るべき魔力があらためて浮き彫りにされたとの感を強くしたのです。
そしてこのタイミングで宮部みゆきの『模倣犯』が文庫化され、より読者層をひろげたことはたいへん意義のあることだと思います。

聖書にはこんな言葉があります。
あらゆる不義、悪、むさぼり、悪意に満ち、ねたみ、殺意、不和、欺き、邪念にあふれ、陰口を言い、人をそしり、神を憎み、人を侮り、高慢であり、大言を吐き、悪事をたくらみ、親に逆らい、無知、不誠実、無情、無慈悲です

これは神の目で見た人間一般に対する告発ですが、われわれのだれもがもっている、その人間性の負のベクトルをつかみだせばこういうところでしょう。だから『模倣犯』の主人公はこの負のベクトルだけを集中した邪悪のかたまりなのですが、それは異常に見えて、どこか自分の人格には共通するところがあると感じさせる。それは作者の手腕です。

ところでこの邪悪の化身はマスコミを利用し、大衆の心理を操作し、時代の寵児としてもてはやされることになる。これが「劇場型」とよばれる社会現象です。宮部みゆきの『模倣犯』は2001年4月に発表された作品ですが、当時でも「劇場型犯罪」という概念はありました。
三省堂「デイリー新語辞書」では
国民注視の犯罪やその中で行われる犯罪。マスコミで犯罪やその捜査が逐一報道され,不特定多数が巻き込まれ進行する,犯人側も犯行声明などを送るなどの特徴がある。保険金詐取目的殺人事件や毒入り食品ばらまき事件などがその典型。

とあります。
ここでは犯人の精神のゆがみから派生する「愉快犯」のイメージしかありませんが宮部みゆきの「劇場型犯罪」はむしろ積極的にマスコミを操作し、大衆心理を意図したところへ誘導する頭脳型の犯罪でした。そしていまやこのスタイルが「劇場型犯罪」の典型とされているようです。

この主人公はたしかに憎んでも憎みきれない、抹殺すべき反社会的存在です。だが一方で彼を生み出した魔性の所在はマスコミの軽薄な姿勢にもあるのじゃないか。さらに言えばその軽薄なマスコミに踊らされた大衆にもあるのじゃないか。そして軽薄なのは大衆自身ではないか。私にはそういう警告的メッセージがひしひしと伝わってきたのです。

小泉さんは自他共に認める「劇場型政治家」なのですね。「劇場型」の意味がわかっているのかしら。オペラ座の怪人にでもなりたいのだろう。民主政治という理想の政治形態は、そのままにして独裁を生むこともあろうし、衆愚政治にも陥りかねない危うさを抱き合わせているものなのだ。そういえばもう一つの流行語大賞を受賞したホリエモンにしろ危うい自由主義経済論者、「劇場型事業家」そのものですね。
と、これは私のうがった見方かもしれないが………。

高村薫とは違って宮部みゆきは政治向きのことを意識して語っているのではないのだけれど2001年当時に彼女が持っていたマスコミと大衆心理に関するこの感性に私は拍手を送る。
そして『模倣犯』は『火車』『理由』とならんで著者の最高傑作だと思います。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
模倣犯の文庫本を心待ちにしていました。保管場所の問題もあって、ハードカバーでは手が出せないんですよね…。
よっちゃんさんの記事、大変興味深く読ませていただきました。
ももじ
2005/12/15 23:30
ももじさん こんにちは
最近の京極夏彦は時代物でいい作品を出しているのですが
宮部は現代物がはるかに良かった。時代を先取りした値打ちがありました。『火車』もいいですよ。
よっちゃん
2005/12/16 10:47

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