![]() 昨年のNHK大河ドラマ「義経」は藤原泰衡に義経主従が討たれるところで完結しているがこの作品はその後のいわゆる奥州合戦、藤原一族とともにあった奥州豪族たちの鎌倉政権への叛乱と頼朝の軍勢に敗北していく末路を描いている。奥州合戦が奥州征討とも呼ばれるように先住民族・蝦夷に対する大和民族の征服史の一環でもあるところからこの作品でも古代から引き継がれている蝦夷の抵抗精神が織り込まれている。 藤原泰衡は義経を擁立せんとする父・秀衡の遺言を反古にし、頼朝に追従する怯懦の裏切り者としているところは通説どおりである。国衡軍の阿津賀志山での大敗。泰衡の逃避行。比内郡にて討たれ頼朝が首級を厨川に晒す逸話。奥州各所での豪族たちの混乱などが文献に基づいてかなり詳細に語られる。 豪族たち反逆の束ねとして義経の遺児八郎丸と彼の守護役として馬の巧みな少女由衣をロマンの柱にしたところが著者の独自の工夫であろう。 奥州糠郡の地でのびのびと育った馬の巧みな十六歳の少女相馬由衣は、従兄弟の八郎丸が元服するのに付き添い、平泉へ赴く。しかし平泉は衣川館で義経が誅殺されたという報に震撼していた。帰った村も藤原泰衡勢に焼き討ちにあい、身内は無惨にも息絶えていた。この混乱の中で由衣は伯父から八郎丸が義経の落胤である事実を聞かされるが、頼朝の奥州征討軍に平泉は炎上、由衣たちにはさらに過酷な戦いを強いられていく! ところがストーリーが平板だから退屈が先に立って読み続けるのにたいへん苦労した。主人公は十六歳の由衣と十五歳の八郎丸なのだろうがその人物像がまるで不鮮明なのだ。泰衡の手のものに一家を惨殺されたとはいえ、それではるか鎌倉にある頼朝へ遺恨を募らせるだろうか。蝦夷の血があるわけでもなく、学問や武術を学ぶことなく。辺境の牧場で育ったただの田舎坊主が突然義経の遺児だといわれて「いざ鎌倉へ」と反乱軍の先頭に立てるものだろうか。そんなはずはないと誰でもが思うだろう。そして著者もそんなはずはないと正しく認識している。だからこの二人について奥州の鬱屈を中央権力へぶつける求心力にしてはいない。では、奥州合戦の最終局面、豪族たちを戦闘にかりたてたものは大義もなく、美学もない。怨念もない。頼朝の軍勢を前にした単なるヒステリックな暴徒の騒擾に過ぎなかった。ドラマティックなものはない。ところが著者はそこまでの割り切りはせず、なにかを訴えようとしているのだが、それがなんなのかわからないままに小説は終わる。 八郎丸の叫び 「奥州の大地に、無念の戦にたおれた奥州の武者たちの怨念がたまっている。死んだ者たちが本当に死ぬためには、いま一度戦が必要なのだ。わたしの名のもと、頼朝を倒すという名目でいま一度存分に戦えるなら、死んだ者たちの怨みも鎮まる。奥州はそれでようやく、生き返るのだ」鎮魂の陰陽師ではあるまい。このクライマックスの存念には共感できるなにものもない。 高橋克彦の 『火怨』『天を衝く』では教科書的歴史には登場していなかったアテルイや九戸政実に光を当て奥州にある反権力魂を活写した。 歴史小説は第一に史実を事実として叙述しなければならないだろう。さらに作者の仮構をいかにも事実らしく迫真のものに描写する筆力が必要だ。そして肝心なものは歴史小説家としての歴史観であろう。それは現代の視座から過去を見つめ直し、過去の中からいまを生きる読者に共感をあたえるなにものかを摘出する姿勢である。 第二次大戦を舞台に戦火の中で自己を貫徹する男たちの人間ドラマを描いた 『ベルリン飛行指令』 『エトロフ発緊急電』『ストックフォルムの密使』を読んで感銘した。時代が近接しているから歴史小説とはいえないが、これこそが佐々木譲の生んだ大傑作のやはり「歴史小説」である 参考 奥州征伐 平凡社世界大百科事典 |
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[読書]駿女 佐々木譲
駿女 作者: 佐々木譲 出版社/メーカー: 中央公論新社 発売日: 2005/11 メディア: 単行本 奥州のさらに奥、蝦夷の住む領域 糠部郡三戸村。 そこに住む16才の由衣は、馬と弓を良くする少女だった。 ある日従弟である八郎丸とともに生まれて始めて平泉の町へ。 馬を納め、八 ...続きを見る |
Rhayaの日記 2006/06/04 23:31 |
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よっちゃんさま、はじめまして。mugenと申します。過日は私の夢幻UへのコメントおよびTBありがとうございました。当方の都合でTBアドレスを公開できないまま、時間が過ぎてしまい大変申し訳なく思っております。 |
mugen URL 2006/05/08 00:03 |
こんばんは。早速お願いを聞き届けていただきましてありがとうございました。 |
mugen URL 2006/05/09 00:18 |
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