![]() 「狼よ死ね!!!フランス万歳!!」とはどこにも書かれてはいないのだが。「狼よ死ね!!!フランスは死んでいる!!」との怨み節が聞こえる。 『クリムゾン・リバー』、小説と映画で華々しく日本にデビューしたフランス人作家の最新作。これもまたジャン・レノが主演でタイトルは『エンパイア オブ ザウルフ』として映画化、公開されている。 アクション、アクションの連続といえばこれが巨悪をたたきのめすのであれば痛快と感じるものだが、暴力、暴力、暴力の連射に猟奇、怨念、復讐といった陰湿世界であるから、手放しにおすすめできるしろものではないが、一風変わった魅力で大いに引きつけられる作品でした。 不可解な記憶障害に苦しむアンナ。アンナの夫である内務官僚のローラン。彼の友人で軍関係の神経科医のエリック。トルコ人女性の猟奇連続殺人事件を追う警部ポール・ネルトー。テロリズム対策局の警視フィリップ・シャルリエ。引退した警部ジャン=ルイ・シフェール(ジャン・レノが演ずる?)。女性精神分析医マチルド・ウィルクロー。そして「狼の帝国」の住人たち。これら多彩な登場人物の全員が死闘の当事者になるいくつものバイオレンスシーンがみどころである。いずれもが重要な役割をになっており、しかも次々と読者の予想をくつがえす展開をたどるのであるから、プロットは巧妙に劇的に面白く入りくんでいる。スケールは国家的、国際的陰謀とかなり大きい。A・J・クィネルとロバート・ラドラムにジェイムス・エルロイとトマス・ハリスをカクテルしたような特異な味わいがあります。 舞台は現代のパリである。 『クリムゾン・リバー』は人里離れた寒村という横溝正史的隔離空間で、わたしには退屈した作品であったが今回は都会型犯罪であるところでなかなかの迫真性があった。しかも私のイメージとはまるで違う。おぞましさでヒリヒリするようなパリの裏側には驚かされる。 押し寄せる波さながらに雲が屋根の上を流れていく。建物の正面を雨水がしたたり落ち、バルコニーや窓を飾る彫刻の人面は、空から降り注ぐ水流に呑まれて、青白く変色した溺死者の顔のようだ 何もかもが褐色と黒、それに油が放つ不気味な銀色の暗い輝きの中で踊っていた ゴミ箱をひっくり返したような腐敗臭、移民たちの鬱屈と喧噪。テロリストのアジト。麻薬と人身売買と賭博。犯罪者の巣窟。奴隷さながらの過酷な労働。成り上がりと貧民の共生。不法捜査と汚職と恐喝が実力者の条件である警察。 これがパリなのか。 イスラム過激派によるテロへの対策はフランス政府の重要な課題となっている。 また昨年は、移民の若者が暴徒になって何千もの車を炎上させ、学校や店舗を破壊する事件が勃発し、この騒擾は今年に入っても続いている。 移民たちが生活や宗教から風俗習慣をかたくなに守り、フランスの文化に融合せず、彼らだけの社会つくるのだとしても、まさかパリにこんなに猥雑な集落があるとは、しかしフィクションの仮構だけではないのだろう。 そしてクランジェはフランス国家そのものを同様のイメージでとらえているようだ。フランス人はテロや暴動の恐怖が日常的にしみついているからこれだけの異常性が描けるのであろう。クランジェが抱く移民あるいは不法入国者など他民族に対する憎悪はひととおりではない。そしてフランス国家への不信をそれ以上の自虐性でもって語っている。 フランス人の国家に期待するなにものもなくなってしまったという無力感が漂うのだ。 無力感ゆえに暴力が市民権をうる。 善も悪もない暴力が全編に満ちている。 その暴力のいきつくところもまた無力感しか残らない。 これがこの物語のラストの印象だった。 |
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