![]() おどろおどろしい感がするが産霊山、<むすびのやま>と読む。30数年も前に書かれた半村良を代表するSF伝奇小説である。 最近ではあまり読むことがなくなったサイエンスフィクション(SF)も少年時代には空想科学小説と呼ばれジュール・ヴェルヌ、H・G・ウェルズやコナン・ドイルに夢中になっていた。エドモンド・ハミルトンやE・E・スミスの宇宙大活劇を読みあさったこともあった。やがて、ちょっと小難しいアーサー・C・クラークやアイザック・アシモフの宇宙創生、宇宙年代史といった叙事詩ものに興味を覚えていた頃に日本のSFの名作が幅広いジャンルで開花を始めた。 その中には宇宙の誕生から現代にいたるまで森羅万象をつかさどる「巨大な力」を「神」「創造主」あるいは「宇宙の意志」と擬人化して人類の運命を左右するという当時としては、とてつもないスケールと想像力でびっくりさせられたものがあった。たとえば小松左京の『果てしなき流れの果に』と光瀬龍『百億の昼と千億の夜』がそうだった。ただその発想の奇抜さが記憶に残っているだけであらためて読み直してみたいとは思わない。 ところが半村良のこの作品はSF的手法では同系統にありながら、あきらかに人間の普遍的苦悩を基本テーマにして心打たれる思いがした異色作品だった。 ほとんど筋書きを忘れてしまっていた作品だったが読み返してみてあらためてその突出したエポックメーキング的傑作性を感じた。 『古事記』巻頭の天地創造。高天の原にある高皇産霊神。その神の子孫と信じられた「ヒ一族」。彼らは国家動乱期に歴史の裏舞台に登場し、鏡・玉・剣の三種の神器による超能力(テレパシー・テレポーテーション)をあやつり、平和を求めて行動する。 物語は戦国の世、織田信長の比叡山焼き討ちから始まり、関ヶ原、幕末、太平洋戦争、そして戦後の混乱期へと四百年の時を越える。 全国各地の民間伝承を巧みに織り込んだ伝奇歴史小説の傑作でもある。 万民のために平和を希求する天皇の守護神として生まれた彼らはやがてそのために世俗権力と結びつかざるを得ない。そして新たな殺戮の時代が生まれる。彼らは挫折しまたよみがえるが、現代にいたるまで庶民の安寧ははかない夢と化すのだ。いやむしろ彼らの働きがこの世のさらなる地獄を招く結果となる。庶民が救いを求め、祈りを捧げる「神」はいったい誰なのか。 食うか食われるかの大競争時代の今この冷酷な現実感覚は多くの人の共通認識であろう。 私は半村良が作り出したこの広大な宇宙観、世界史観に感嘆するのだが、半村良の値打ちはそれだけではないことに気づかされた。この非情世界にあってなお庶民のたくましさを描き、夢を追うことをあきらめないことへの賛歌を高らかにうたいあげている。それが半村良のやさしさなのだと。 四百年の時を越えて現代に移動した「ヒ一族」少年のラストの祈りには我々が忘れてはならない力強さが込められている。 にほんブログ村 |
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雨読夜話 2008/03/25 20:12 |
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コメントありがとうございました。 |
デラヒーバ URL 2006/05/26 11:17 |
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