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help リーダーに追加 RSS 早瀬乱 『三年坂 火の夢』 首都東京の成り立ちにはこんな不思議な伝奇、伝承があったのかしら?

<<   作成日時 : 2006/10/01 23:56   >>

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首都東京の成り立ちにはこんな不思議な伝奇、伝承があったのかしら。と首を傾げつつも本当らしさに魅了されます。

全国的な不平士族による反乱は鎮まったもののいまだその余韻が重たい政情不安の明治政府である。「三年坂で転んでね」――そう言って兄は死んだ。
東京にはいくつかの「三年坂」があるという。その坂で転ぶと死ぬのだそうだ。父の失踪を探る兄が死んだ。明治32年(1899年)、奈良県S市。没落士族の次男坊に生まれた内村実之。貧しさの中のしかし実直の若者らしい青春の一ページが始まる。家族から立身出世を期待され、上京して一高・帝大をめざす受験勉強の傍ら父と兄に関わる真実を探るために奇怪な謎に肉薄していく。

高島鍍金、銀座に住まう高等遊民は夢を見る。東京が全焼する、顔の見えない人力俥夫が火の粉をあびながら炎熱地獄を駆け回る。帝都全体を炎上させるための要となる「発火点」がいくつかあるのだそうだ。高島がうなされるのは夢か幻かそれとも予知夢なのだろうか。

「三年坂伝承」と「発火点伝承」。大田道灌の江戸城構築よりも前から今に至る帝都の成立・破壊・再建の歴史には隠された国家的秘事がある!?その秘事にかかわる怪しい家紋をもつ一族の登場?
実之と最下層に生きる少年、鍍金と帝大工科の研究生。この二組がそれぞれにたどる二つの伝承の真実が交差したとき………。

早瀬乱はこんなにもスケールのでっかい伝奇小説の装いを仕掛けている。あらすじを紹介するのに書き過ぎの感があったかもしれないが、これがいかに魅力的な小説であるかを述べたかったからである。それは半村良が名作『産霊山秘録』で追った恒久平和を祈るべき特別の場所としての首都構想に似て、また荒俣宏の奇書『帝都物語』にある怨霊平将門の霊力による帝都破壊の真相を想起させるものだ。

銀座、虎ノ門、霞ヶ関、永田町、麹町、麻布、飯倉。大手町、神田、御茶ノ水、駿河台、湯島、小石川、本郷。九段、市谷、番町、牛込、飯田橋。根津、千駄木、谷中、根岸。参謀本部が西郷隆盛らの帝都侵犯に備えて作成した「五千分之一図」。三年坂を求めて、宮城を取り囲む下町と山の手、実之はとりつかれたように歩く、歩く。東京育ちの私にはどこもなじみの土地である。しかし、そこに関わるイメージは点と線でつながれた場所の平面地図に過ぎなかったのだ。この大都市は山と水辺と谷と坂道で成立しているんだな。いやおうなく東京という地表のの起伏、深浅など立体的地勢を頭の中で俯瞰させられる。そして土木と建設による地形の大規模な人工的変形、時間の経過がかさなりぼんやりと四次元の座標軸に東京のかたちが浮かび上がる。この絶妙な仕掛けにものめりこまされた。

夢幻の世界に誘導させられる、本当にそんな伝承はあるんだろうか。参謀本部による「五千分之一図」なんてものがあったのだろうか。ふとその気にさせられるが、その事実を検証してみようかと野暮なことは考えず、ここは騙されているのだろうと楽しもう。ただ、実之の足跡は実際にたどってみたくなった。それだけのリアリティーは充分だ。

仕掛けは大掛かり、そういう羊頭狗肉の作品にもしばしばお目にかかる。でも犯人当てのミステリーとしてはどうか。犯人の意外性に不自然さがあるかもしれない。犯人のあぶり出しが陳腐だと言えなくはない。しかしこの作品の構成の妙にはなにごとにも変えがたい新鮮さがある。独創的であった。さらに現代に通じるテーマに奥行きと深さがある。

私たちがこうあればと願う首都に不可欠な要素、帝都成立時の実之ですらそれはもはや幻想でしか見られないほど都市化という破壊が進んでいた。規制撤廃のこのごろである。政治家のノリトにすらもはや都市改造計画という高い理念の発想はなくなってしまった。
だからこそ、この作品のラストはやさしく美しいのだ。

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2006/10/18 18:22
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2007/09/20 09:30

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