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help リーダーに追加 RSS 佐藤賢一『アメリカ第二次南北戦争』 アメリカを茶化しきった傑作の風刺小説

<<   作成日時 : 2006/10/19 01:40   >>

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南西部諸州は「アメリカ連合国」として独立し「アメリカ合衆国」との戦闘を開始した。「連合国」の空爆により「合衆国」の都市は破壊され、「連合国」の軍事的優勢のままに目下停戦状態にある。国連本部が移転した常任理事国・日本が政治力を発揮するにはまずもってこのアメリカの現状、内戦の背景と本質を正確に把握する必要がある。2016年、かくして愛すべきレポーター森山サトル君は瓦礫と化したロスアンゼルス空港に降り立ったのである。

2013年、テキサス州ダラスを訪問中のアメリカ合衆国女性大統領マクギルが暗殺された。国家元首の座に就いた黒人副大統領ムーアは連邦捜査官を送り込み強権的捜査を行い、銃規制に乗り出した。しかし、それだけで戦争が始まるわけはない。なにかある。
「世界の警察官」アメリカに、内乱が勃発、アメリカは国際社会の嫌われ者になってしまった。前代未聞の驚くべき状況設定だ。これほどにアメリカを茶化しきった小説はないでしょうね。内乱の真実を探るべくサトル君ほか珍妙な連れ三人の抱腹絶倒、ドタバタ珍道中が展開される。その諧謔!核心を突いている………と思わせる鋭いツッコミだから痛快である。相手があのアメリカだからなおのこと愉快でもある。

日本人ほどアメリカを「知っている」国民はないでしょうね。また日本人は他のどの国のことよりもアメリカについての「知識」を国民的レベルで共有している。

アメリカは戦後の経済的繁栄と平和を実現させてくれた国である。アメリカは自由・平等・民主の国であり、地球上にその理想をあまねく敷衍させようとする正義の伝道者である。フロンティアスピリットの国アメリカ。いやいやそうではないぞ、アメリカは人種差別、宗教差別、性差別の国である。実権を握る階層がWASPだ。秘密結社KKCは生き残っているぞ。武器所有の国であり西部劇のガンマンの支配する国だ。いや、テレビゲーム感覚で戦争を仕掛ける国だ。モンロー主義が根っこにあって自分さえよければいいと実際わがままな国なのだ。女がえらく強くなった国だぞ。セックスフリーなんだ。連邦主義と州権主義の対立構図もあるぞ。

佐藤賢一はサトル君の現地体験に加え、政治評論家、国際経済学者など一流どころの論説でもって、こうしたわれわれが酒の肴にするアメリカの常識をそれらが「真実」であるともっともらしく立証してみせる。「それはみな虚構である」というようなありきたりの正論ではない。とにかくこのもっともらしさが出色の組み立てなのだ。

軍事、政治、経済、文化、生活の枠組みが一体ですからね。日本人ならアメリカとの深い親交がなくてはならないものとだれもがわかっている。ところがだからといってアメリカに心酔している方はあまりいないのだろう。本音はむしろ冷淡にアメリカを見ている、どこか疎ましく感じているのが平均的日本人の心境じゃないだろうか。そしてこの微妙な日本人の情緒でもって、ルポの対象であるアメリカ的精神(このデフォルメも秀逸)と対峙するのがジャパニーズスマイルのサトル君である。だから平均的日本人たる読み手にとってなおのこと面白いのだ。

サトル君にまとわりついたのが合衆国側の義勇軍に身を投じたイタリア系の女・ヴェロニカでマリリン・モンローの過激な色気で彼を骨なしにし、アンジェリーナ・ジョリーの格闘技で彼を救う。アメリカ人になりきったはずが妹を暴行殺害され一家が破滅したことからアメリカに憎悪をもった男・結城。彼もまたなぜか合衆国側の義勇軍に加わり、ゴルゴ13並みのスナイパーとして一目おかれている。ヴェロニカもたじたじのナイスバディ、連合国側高官の女秘書マーガレット・スペンサー。南北戦争の原因はニッポンのニンジャだったとする彼女の調査記録、いわゆるスペンサーレポートの真贋を自ら検証するために一行に加わった。何かを象徴するようなこの傑作な人物造形!

さぁ、サトル君になりきって世界の厄介者となったアメリカ的なるものを大いに嘲笑しよう。アクションバトルシーン、危機一髪の脱出劇のオマケまで楽しめる。
そしてアメリカ的なるものを笑っている自分が実はそれは日本的なるものを自嘲しているのだと思い知ることになる。

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