![]() このところ悲惨な事件が連続している。小中学生のイジメによる自殺、肉親による幼児虐待と殺傷。幼い命の非常事態宣言であろう。これという対応措置がないままに狂気だけが蔓延しつつあるようで不安と焦燥感が日本全体を覆っている。そして『闇の底』で薬丸岳はこの暗澹の世相を背景に強烈な反則パンチを繰り出した。 前作『天使のナイフ』では刑事罰の対象にならない少年たちに妻を殺された主人公の「殺してやりたい」との無念の叫びに読者の共感を呼ぶところがあり、また刑事罰を受けない少年たちの「贖罪」とはなにかを問題提起するミステリーの好著だった。 今回も「殺してやりたい」幼児性愛の犯罪者たちと犠牲者の家族が何人も登場する。しかし前作とはまるで趣が異なる。 少女を犠牲者とした痛ましい性犯罪事件が起きるたびに、かつて同様の罪を犯した前歴者が首なし死体となって発見される。身勝手な欲望が産む犯行を殺人で抑止しようとする予告殺人。狂気の劇場型犯罪が日本中を巻き込んだ………。 憎んでも憎みきれない犯罪者。そいつらに天罰を下すと宣言し実行する「男」。そして「男」を追う刑事・長瀬もまたかつて妹を陵辱殺害された過去を持つ。 頻発する幼女殺害事件があり、未解決のままに当局は性犯罪へ抑止力を喪失しつつある。警察側の捜査の混乱。幼女たちが殺害されるたびに「男」は凄惨な犯行を実行する。被害者家族の怒りと捜査への不信感。その焦燥を埋め合わせるかのような「男」の犯行。長瀬刑事と先輩たち警察側の視点で捜査状況が、妻子を持つこの「男」の視線で彼の日常生活と犯行現場が、交互に語られる。さらに妹を殺害された少年・長瀬の記憶に残る当時の情景、心境がフラッシュバックする。この巧みなストーリー展開はなかなかの緊迫感があり、引き込まれた。「男」の本当の動機はなんなのだろうか。この「完全犯罪」はどのように破綻するのだろうか。この謎解きもまた魅力的な設定だった。 どんでん返しのラストもまた非常にショッキングだ。 ただし、『天使のナイフ』のような鋭い問題提起を期待していたために私はひどい消化不良に陥り嘔吐感を禁じえなかった。そして読んでいる最中は気づかなかった、本格ミステリーだとすれば欠陥と言っていいところがやたらに気になってきた。 この作品は一時流行したノワールなサイコサスペンスとして理屈抜きにのめりこんでいれば咀嚼できるのかもしれない。しかし背景は抜き差しならない深刻な現実であるだけに、なんでもありの無作法なミステリーには感心できません。 ![]() |
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「闇の底」薬丸岳
タイトル:闇の底 著者 :薬丸岳 出版社 :講談社 読書期間:2006/11/16 - 2006/11/17 お勧め度:★★★★ ...続きを見る |
AOCHAN-Blog 2006/11/28 21:59 |
闇の底 薬丸岳
装幀は多田和博。カバー写真はgettyimages。「天使のナイフ」で第51回江戸川乱歩賞受賞後の第一作。 小学生の時、置いてきぼりにした妹を殺された過去を持つ刑事、長瀬一樹は女児殺害事件に取り組みます。五歳の娘を持つ刑事& ...続きを見る |
粋な提案 2007/01/15 13:56 |
闇の底 薬丸岳
装幀は多田和博。カバー写真はgettyimages。「天使のナイフ」で第51回江戸川乱歩賞受賞後の第一作。 小学生の時、置いてきぼりにした妹を殺された過去を持つ刑事、長瀬一樹は女児殺害事件に取り組みます。五歳の娘を持つ刑事& ...続きを見る |
粋な提案 2007/01/15 13:59 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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こんばんは。 |
あおちゃん URL 2006/11/28 22:17 |
いくつか欠点はあると思いますが、この完全犯罪には長瀬刑事の単独行動が不可欠ですね。犯人からの連絡が長瀬の携帯に対して一方的になされることを捜査陣は心得ている。捜査陣としてはこの携帯にかかってくる通話は必ず聞き取る必要があるわけでそれを放置するなんてありえないでしょう。長瀬を捜査から外すとしても彼を拘束するあるいは携帯を確保しておくことをやらなかった、それを必然とする状況を設定するべきでしょうね。 |
よっちゃん 2006/11/29 01:18 |
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