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help リーダーに追加 RSS リチャード・マシスン 『奇術師の密室』 老大家の手になる意欲的実験的ミステリー

<<   作成日時 : 2006/12/18 23:59   >>

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トリック重視のミステリー作家はどうすれば常識人をギョッとさせるかともっぱら腐心するのでしょう。奇術師と大いに似ています。ミステリーにはこの類似性を直接作品に同化させ、マジシャンを主役にした作品がいくつもあります。近年のヒット作では泡坂妻夫『奇術探偵 曾我佳城全集』ジェフリー・ディーヴァー『魔術師(イリュージョニスト)』などが記憶に新しいところです。前者が探偵役として奇術師を据え、後者では犯人が魔術師でした。そしてその華麗なテクニックが作品の価値を高める役割を果たしています。ただしマジックは作品の価値を高める調味料であって作品そのものではないことは言うまでもありません。

ところがこの作品、マジシャン登場のミステリーとしてはこれまでにない奇抜な発想で作られたかなり技巧的な作品だと思いました。読者はマジックの舞台、それは観客席が40〜50程度の小劇場で観劇している立場にあるといえるのでしょう。入れ替わり立ち代り登場する何人かのマジシャンが繰り出すテクニックを驚きをもって眺めている。その連続して披露されるマジックにはひとつのストーリーがあって、それが殺人事件なのです。つまり演じられるマジックショウそのものがミステリードラマなのですね。

往年の名奇術師エミールはいま身動きが取れない植物人間的状態で彼の奇術部屋で行われるすべてを眺めている。そこで見聞きするすべてを語る。読者はエミールの目と耳ですべてを知るという仕掛けです。そこで2代目として活躍する息子のマックス、マックスの妻・カサンドラ、カサンドラの弟・クレイン、マックスのマネージャー・ハリーらがコミカルに騙しあい、殺し合いをする。この部屋は奇術の大道具、小道具がぎっしりと詰まっていてそれらを総動員した奇妙なイリュージョンドラマが展開します。
殺人劇の舞台は、奇術道具で満杯。マジック×ミステリー、どんでん返しの連続技
奇術好きの私にはこのキャチコピーは魅力的でした。リチャード・マシスン、まったく知らなかったのですが、略歴をみればSF映画『縮みゆく人間』スピルバーグの出世作『激突!』の原作者なのです。さらに「ミステリーゾーン」「トワイライトゾーン」のシナリオライターとあってとても懐かしい思いがしました。それならかなりの高齢だろう。その通り1926年生まれの大ベテラン。これらの作品はいずれも奇抜なアイデアで感心させられましたがいわゆるミステリー小説とはジャンルがちがうものばかりです。『奇術師の密室』はどちらかといえば古風なパズル系探偵小説にあたるのですが著者のいつごろの作品なのかはよくわかりませんでした。

老大家の手による意欲的な実験としてのミステリー小説といった作品なのでしょう。が実のところ途中で退屈しました。これでもかこれでもかと披露されるマジックにうんざりでした。あまりにも技巧的なこの作品は本来、舞台劇用に制作されたものではないかしらと思われるくらいです。視覚的なファクターで一杯なのです。ですから、よほどの文章力あるいは翻訳力がないと情景が読者に伝わってこないのじゃぁないかな。マジックショウの解説を文章表現でするには難しい。
マジックは読むものではなく観るものです。

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