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zoom RSS 辻原登 『円朝芝居噺 夫婦幽霊』 名人芸で辻原が語る名人円朝伝

<<   作成日時 : 2007/04/30 01:55   >>

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芝居は観るもの、寄席は聞くもの、小説は読むものとこれが世間の相場なら、はて円朝の創り出した作品・芸風ばかりはどうやらこんな一筋縄では収拾がつかないようだと読み終えて思わず感嘆のため息が洩れます。うらを返せばこれほどの円朝活写をものした著者辻原登へのお世辞抜き、賞賛でございます。
古今無双の知的エンターテイメント文学ミステリー
とございますが、このジャンルならしばらく前に世の絶賛を博しえました丸谷才一『輝く日の宮』、あれに比肩する上等の文学ミステリーであります。ま、丸谷のはやんごとなきところのおはなしで、このような親しみ深い俗界の色ボケ欲ボケではございませんでした。

ミステリーの形式からしますといわゆる「作中作」。よくある読者を騙すことに精一杯の複雑なそれではありません。簡素なつくりの「作中作」でございます。辻原登がひょんなことから古い速記記号で記された文書を発見します。苦心して解読すれば円朝が残したらしい幻の傑作噺「夫婦幽霊」。安政の大地震前夜、天下の御金蔵四千両が盗まれた。はたして犯人は?と当時17歳の円朝師匠もみずから探偵役の片棒を担ぐサスペンスでございます。これが全230ページ中170ページほどにあたります。そして辻原登はこの速記記号には円朝の生きていた時代には存在しなかった新しい記号が使われているのに気がついて、そんならこれはいったいだれが口演した作品なのだろうと推理する仕掛けが残りの部分でございます。

一度目はさらりと読みました。しかし間違いなくもう一度読みたくなりますな。江戸の風流、猥雑、色と欲、しっとりした情緒がたっぷりと名人の語り口から伝わってまいりまして、たまらん、たまらん。特に青楼・吉原の情景や猿若町の芝居風景あたりの殷賑は目の当たりにするようでございます。ただし当時の日常の風俗用語はほとんど死語になっているもので、注釈はありませんから、二度目は恥ずかしながら電子辞書を片手にしましてな。それにしても円朝の創意工夫には驚くものがあります。ただの噺や話ではない。派手な衣装や大道具、笛・太鼓・三味線の音曲を使用して歌舞伎の雰囲気を持ちこんだ「芝居噺」だ。さらに全国に実地調査しあるいは新聞記事をネタにし、流行の下世話ばなしをとりいれたいわば実録人情噺でもある。モオパサンの翻案まである。安政大地震の阿鼻叫喚の語りも凄いや。

しかし、この作品の仕掛けの極めつけは前後の数十ページにありますな。
まず勉強になりました。文学史上、日本の現代小説の入り口に三遊亭円朝は立っていたんだ。『怪談牡丹燈籠』を嚆矢に全国に普及した「速記本」は円朝の発明になって、それが坪内逍遥を感動させる。
通篇俚言俗語の語のみを用いて………人情の髄を穿ちてよく情愛を写す………
人情のうわべだけを書いて死んだような文章で女子供に受けようとする底の浅い文筆家は円朝の爪の垢を飲んだらいいとまでおしゃられる。円朝が明治の新文学に影響を与えたことなど私が学んだ文学史の教科書には登場しません。二葉亭四迷、国木田独歩、山田美妙、尾崎紅葉らが先駆となった言文一致体はここから完成してくるってんですから驚き。

そして「夫婦幽霊」、本当に円朝がつくったものなの?そうでないとしたら誰が?それともまったく存在しない幽霊のようなもの?と二重三重の深みのある謎にのめりこまされます。小気味のいいこのひねりはえもいわれぬ著者の名人芸にほかなりません。

かくていろいろな角度から楽しめるこの作品でありますが、とどのつまり、円朝に心酔した辻原が辻原流に一本筋を通してまとめた生きた円朝伝記、円朝研究の成果といえるでしょう。しかもその伝記・研究成果を浅学な物書きならいざ知らず、一流の書き手でございますな辻原は洒落っ気丸出しにして
論・セオリーではなく物語・ロマンス
でもって表現したんです。

帯に 
そこから浮かび上がる芥川龍之介の影………
なんて思わせぶりがありますが、このあたりは虚実混沌としていいように著者の手玉に取られているんだなぁとぼんやりしながら読書するなんて風情もなかなかに乙な味わいでございます。

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