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zoom RSS 京極夏彦 『前巷説百物語』 シリーズものってのは三巻までがよろしいようで………

<<   作成日時 : 2007/06/26 22:02   >>

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京極先生の作品にはずいぶんとおつきあいしたものですが、憑物落としの京極堂シリーズは『陰麻羅鬼の瑕』をようやく読み終えたところであとはお休み、この巷説百物語もまぁ今回で読み上げといたしましょう。
これが百物語のはじまりでございます
今、明かされる真実 又市、いかに御行となりしか

と既刊・巷説百物語シリーズで活躍した小股潜りの又市が御行となるまでその前歴をなぞっている。『巷説百物語』『続巷説百物語』『後巷説百物語』を読んだ読者であるなら勢いで手にしたくなる一冊だろう。しかし………。

妖怪変化なんてもんは事実としては存在しないのかもしれない。だが人間の心のもちようでは見える場合もあるだろうとこれは心理学的解釈だろう。また怪異現象が起こったと巷間信じられている背後にはそれだけの真実が存在するものなのだ。これは民俗学的解釈でしょう。本著に登場する本草学者が語る。「在る筈のないもの――天地の摂理に反したるものというのは、これは大抵ない。というかないんですよ。ただねあって欲しいもの、在るべきだと考えられるもの、というのはね、これはないのに在るんですな。」この妖怪観が一貫しているところでシリーズが上質に仕上がっていた。

『巷説百物語』では「小豆洗い」「白蔵主」「舞首」「芝右衛門狸」「塩の長司」「柳女」「帷子辻」いずれも当時全国的に言い伝えられている妖怪変化が登場した。おそらく当時の一般庶民の多くはその存在を信じていたのだろう。妖怪、化け物どもは怪異現象をみせて人間世界に人殺し、人攫いなどの悪さをする。そのとき、小股潜りの又一を頭にいただく、愛すべき小悪党があらわれ、この怪異は民間伝承を騙った人間がたくらんだ悪質な犯罪と喝破し、こちらも妖怪変化を仕立てる罠をもって極悪人を懲らしめるという痛快なお話のかずかずだった。江戸時代の庶民の生活にある恐怖感がそのまま表現されているところで、このシリーズの面白さの原点だといえる。

直木賞を受賞した『後巷説百物語』では明治維新、文明開化の座標軸で40年前の又市たちが仕掛けた「天火」「山男」「赤えいの魚」「手負蛇」「五位の光」「風の神」などの事件を回顧する趣向だった。語り手である老人・百介の周囲の若者は文明開花の申し子であり端から怪異現象を信用してない。百介だってそれは承知だがあまりにも合理的・論理的な思考が幅を利かせるようになった世の中を疎んじるところがあって、彼は妖怪たちの横行していたあいまいな昔の日本の風土を懐かしむように語るのである。そこに寒々しくなった現代の効率社会を生きる私たちの共鳴するところがあった。

前三作はいずれの妖怪たちも存在感をもって個性的働きをしていた。ところがこの『前巷説百物語』では「寝肥」「周防大蟆」「二口女」「かみなり」「山地乳」「旧鼠」と妖怪が登場するにはするがいきいきとした妖怪ではないのが残念だった。又市が仲間に加わる「損料屋」、今で言うリース業者であるが、その裏は銭をいただいて晴らせぬうらみごとを晴らしてやるいわば仕掛け人稼業だった。その仕掛けとして大道具小道具の工作物でもって怪異現象の効果を狙う手の内が端から明らかにされている。その作りものも効果も大変不自然である。特に「寝肥」「周防大蟆」なんて張りぼてのバケモノはこどもだましのお笑い種だ。物語とはしっくり調和しないのだ。作者が無理をして妖怪話をこじつけたとしか言いようがない。だから読者には肝心の「在るかもしれぬ、ないかもしれぬ」のあいまい世界が映し出す怪異性が伝わってこない。怪談話の遊戯である「百物語」の本来の味わいはかけらもなくなってしまった。

池波正太郎が原案になるテレビドラマ必殺シリーズ、あるいは鬼平犯科帳シリーズのどこかにあった、殺し屋同士の暗闘に近い組み立てで、そう割り切れば読めないことはないだろうが、それならストーリーの緻密さ、活劇の迫力では池波正太郎に分があるというもの。

化け物や怨霊、幽霊や生霊などよりはるかに怖い存在は人間であるってことなんだろうが今ひとつ感心しなかった。


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