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help リーダーに追加 RSS 佐々木譲 『制服捜査』 新しい切り口の警察小説だ。

<<   作成日時 : 2007/07/16 19:14   >>

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『うたう警官』で著者の新ジャンルでの復活を感じたものだから昨年発表のこの『制服捜査』を手にとった。「これが本物の警察小説だ!」と帯封にあったが、本物かどうかは別にして警察小説といわれるジャンルをこれまでにない切り口で見せた。その斬新さはさすが。佐々木譲の手腕、健在である。

『うたう警官』と同じ北海道警察組織の体質的問題を背景にしている。北海道だけではなく不祥事の反省から全国的にもそうなのだろうがリスク管理の充実・コンプライアンスの徹底を目的として同じ職務、同じ職場に勤務できる期間を制限し人事異動を頻繁に行う。金融機関では大蔵省の指導でかなり前から導入されているからよくわかるが悪いところもある。顧客預金の流用、横領などを防止する機能はあるが個人的な技能の蓄積効果、ベテランの効率が職場から失われる。営業面では得意先との癒着はなくなるが顧客密着、地元密着の血の通いがなくなり、うすっぺらいつき合いにおちいる。警察人生25年のベテラン、強行犯捜査員から一転して小さな町の駐在所勤務となった川久保巡査部長はこうした組織再生策では解決できないところの不条理に苛立ちをかくせない。

警察小説では犯罪捜査や犯人逮捕の主役は「刑事」と呼ばれる警察官である。一般には私服で勤務する。ただし、刑事とは通称であり法律上の職名ではない。川久保は制服を着用して駐在所で勤務する警察官である。階級は巡査部長といってもなんとか部という組織の長ではなく、階級称号で、警察組織9階級の下から2番目にすぎない。駐在所とは警察の末端機構であってそこの警察官は主に担当区域内の犯罪予防や事務処理などに従事するのであって直接刑事事件の捜査の任にあたることはない。タイトル「制服捜査」には権限を越えて悪を暴くハミダシ警官の意味がある。駐在所は民衆のなかに配置された警察の哨所であり、地域支配の要であるが同時に警察の広宣コピーにあるように「皆さんに親しみやすく頼りになるよう、機能強化に取り組んでいます」と駐在巡査の人柄に依拠する住民との交流や民心の機微をおろそかにできない二面の役割がある。こんなことが本書に書いてあるわけではないのだがこういう視点で現実を整理すると、この作品、警察組織の内外にある不条理の根っこが浮き彫りになって、実に渋いしかし迫力のある真実の物語だと痛感するのだ。
捜査の第一線に加われない駐在警官の刑事魂が、よそ者を嫌う町の犯罪を暴いていく
志茂別町。十勝平野の端に位置する架空の町である。いくつかの事件が起こる連作短編集。発端は交通事故(逸脱)、飼い犬射殺(遺恨)、恐喝(割れガラス)、不審火(感知器)、失踪(仮装祭)といずれも些細な出来事から始まる。結果的に事件が起こっているのだが、特にびっくりするような猟奇性があるとかトリックがあるとかの犯罪ではない。こういってはなんだが今の日本の現状からすればありきたりの犯罪である。著者はその事件が周囲に連鎖する波紋を丹念に描く。そして法や制度によっては明らかにされない事情、裁くことができない事情、本当の被害者が癒されない事情を冷静にあぶりだす。川久保お巡りさんは冷静というよりは冷酷に暴き出す。

なにがそうさせるのか。警察の隠蔽体質か?田舎町特有の保守的な共同体体質か?それとも日本人の体質か?しかし法を徹底させる仕組みを完璧にすれば問題は解決するのだろうか。と著者は一歩踏み込んでいるような気がしてならない。そこに欠落しているのは別次元のものなのだと思う。
川久保が最後に処断する行為によって読者は爽快感で満たされることになる。『ベルリン飛行指令』など著者の初期の作品から一貫しているのはヒューマニズムの精神、崇高な倫理観である。これら今失われたものに支えられた勇者への賛歌である。

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佐々木譲「制服捜査」(新潮社)
 佐々木譲「制服捜査」(新潮社)を読了。ここで言う「制服」とは警察官の制服のこと。この小説は、制服警官すなわち駐在警察官を主人公にした佐々木氏ならではの硬質な連作小説集である。 ...続きを見る
本の虫
2007/12/26 17:11

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