日記風雑読書きなぐり

アクセスカウンタ

zoom RSS 葉室麟 『銀漢の賦』 漢(おとこ)たちの凛冽の生き様を描いて松本清張賞受賞にふさわしい時代小説の傑作

<<   作成日時 : 2007/08/05 23:32   >>

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 1

画像
齢60をこえると、自分の半生を振り返り、ほろ苦い感傷にぼんやりするときがあるものだ。サラリーマンだって自分なりに大仕事だったと思える経験がいくつかあって、結果が本当に全体にとってよかったのかと冷静になれば自信こそないのだが、ただただ古きよき思い出として消化してしまう心境でいいのじゃないだろうか。そして、そういうことを語り合える友がいればなおさら満たされるものだ。
国家財政が困窮し、地方がそれでも自活しようとなれば選択肢は多くない。市町村合併か、米軍基地の移転先、大規模ゴミ処理場の建設、あるいは原発基地か。決定する「権力者」に私心がなく善政を施す信念があっても権力世界に身をおくことによって、独善化、凶暴化し支配欲、物質欲、名誉欲の権化と化す。味方ではないものは誰もがそういう事実をあげつらう。本当にそうなのか。決して悪を遂行しているのではない、切り口のひとつに過ぎないのだがその見え方は驕慢であり放恣であり悪行に走っていることになる。個人の意思と願望を超えた別のメカニズムによって権力者は翻弄されるものなのだ。

これが葉室麟『銀漢の賦』の印象だった。

今年は時代小説の有卦入り年だが、またまた、歴史考証がしっかりしてしかも現代に通じる人間像を美しく哀しく描いた傑作が発表された。男の交誼を縦軸にし、涙を抑えきれないことでも久々の感動作品である。
見ると満天の星空である。白々と夜空を二つに分け、瀑布のように地平へと消えていく星群が見えた。あれは天の川だと十蔵が指差すと、牽牛と織女か………。源吾はばかにしたように言った。
小弥太が「知っておるか 天の川のことを銀漢というのを」
この強い絆で結ばれた三人の少年たち、時に敵対しながらそれぞれの信念を生死をかけて貫くのだが、やがて過酷な運命が待ち受ける。
寛政の改革の影響でこの地方小藩も財政立て直しに汲々としていた。百姓の少年だった十蔵は学を積み、一揆のすぐれた首謀者として藩政にたちむかう………。
少年の日をともに同じ道場で過ごした家老(小弥太)と郡方役(源吾)。地方の小藩の政争を背景に、老境を迎えた二人の武士の運命が再びからみ始めた。
お家騒動に違いはないのだが、その真相はねじれて相当に奥が深い。過去と現在を交互に物語が進む。三人だけではなく周辺の人物、ことごとくの人物がよく描けている。かくされている裏が見え始め、善悪が超越されてくるストーリー展開は劇的である。決闘シーンも上出来だった。

智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。人生とはカオスにいきることなのだろう。でもそうは達観できないながらも、なんとか生きてやると心を固めることになる。角が立ち、流され、窮屈にいる。そしてあるとき夜空を仰ぐ。子供のときには、ただきれいだと感じた天の川だが、今はその銀河に永久を見る。大自然の美、恒久の真理にうたれる。有限をもって無窮を追うことなかれ、老境を迎えた二人の武士の心境が切々として心にしみる。作者も登場人物たちも老荘の世界観にどこかで惹かれているのではないだろうか。禅道でいう悟りの境地に一歩近づいたのかもしれない。

これが葉室麟『銀漢の賦』のもうひとつの印象だった。

これからは元気な定年退職者がますます増えてくる時代である。そして時にぼんやりすることもあるだろう。そんなときこの作品を読めばどこかに自分に似た人物を見出すはずである。

ところで前総理大臣の小泉さんは加藤廣『信長の棺』を愛読していたと聞くが参院選挙で惨敗の責任者、安倍さんにはぜひこの著を読まれんことをおすすめする。引け際をわきまえた漢(おとこ)のための鎮魂の賦として。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
ナイス

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。
いやー、実におもしろい作品でした。何度落涙しそうになったことか。
松浦将監が、かつての政敵・九鬼久斎と同じく、藩の中枢から退くときに、その退き際の違いについて、自分には「友」がいたことをあげるシーンなんてのは、こみあげてくるものがありました。
また、本書においては、現在と過去が交互に語られるストーリーが、とくに効果的だったように思えます。
これからも素敵な作品をどんどん紹介してくださいね。
さっと
2007/09/09 23:39

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
葉室麟 『銀漢の賦』 漢(おとこ)たちの凛冽の生き様を描いて松本清張賞受賞にふさわしい時代小説の傑作 日記風雑読書きなぐり/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる