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help リーダーに追加 RSS 笹本稜平 『越境捜査』 わかりにくい警察機構を理解し警察小説を楽しく読もう。

<<   作成日時 : 2007/12/09 19:15   >>

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日本の警察もアメリカ並みにここまで腐っているのか?いやまさかここまでのことはあるはずがない、と思ったところで、防衛省のあんな醜悪な大犯罪が起こるんだから、この作品だってフィクションをフィクションとして楽しめばいいと単純には割り切れなくなっちゃうではないか。
佐々木譲のシリアスな警察小説『警官の血』をじっくり読んだ後だけに、巨悪と戦う荒唐無稽なバイオレンスを期待して手にとった警察小説である。帯には「12億円に心がグラリ!!勝つのはどっちだ」「じっくりガッツリ読ませます!」とひょうきんな口調であるから一種のビカレスクロマンでありコンゲーム小説のようにみえた。ただそれなら敵も味方もやり口もラストシーンだってドライな痛快さ、ユーモア、軽妙さが売り物になるはずだが、逆にエル・ロイが描いたロス警察もの的ノワールさが妙な重苦しさで最後までつきまとう、なかなかのくわせものであった。

タイトルの『越境捜査』。「越境」とは警察小説につきものである「管轄外介入」を指す。
「警視庁捜査一課の鷺沼は、迷宮入り事件のファイルを開いた。14年前、12億円をだまし取った男が金とともに消され、犯人も金も行方不明のまま。再捜査開始。鷺沼は12億円の行き先をつかむ。神奈川県警………。しかしそれだけではなかった」
「しかしそれだけではなかった」のであって、この作品を読むと「越境」=「管轄外介入」=「組織の対立」が警視庁VS神奈川県警察本部だけではなく、いくつものパターンがあることに気づかされる。警察小説、花盛り。この際だから、警察小説を楽しむためにややこしい警察機構を組織対立の観点から整理しておこうと思った。ただし、ミステリー好きがいくつかの警察小説で語られている知識でもって整理したものであるから、そこには警察機構のマイナス面だけが書かれているのだから、歪曲といわれても、そうかもしれないとしか答えようはない。

「警察小説を楽しむための手引」
日本の警察機構だが根幹には地方自治の考えが流れている。都道府県ごとに主体性を持って警察組織を保有する考え方だ。(あしざまに言えば 俺が、俺がの村社会)。都道府県知事の所轄の下に都道府県公安委員会が置かれ、その都道府県公安委員会が都道府県警察を管理する仕組みである。(実際のところ、公安委員会は国家公安委員会も含め事務局は警察庁および都道府県警察主導の運営がなされているのであり、法の意図するところとのは異なる。)ところで東京都以外の道・府・県警察はそれぞれ「道・府・県警察本部」と呼称し、東京都だけが「警視庁」と特別に命名されている。警視庁のトップは警視総監と呼ばれ、国家公安委員会が都公安委員会の同意を得たうえ内閣総理大臣の承認を得て任免される。道府県警察本部長は国家公安委員会が道府県公安委員会の同意を得て任免する。尊大な名称といい内閣総理大臣の承認といい、東京都の警察はその他大勢組とは違う、破格にエライのである………小説では羨望と妬みでみられることが常識化しているようだ。
それぞれの都道府県警察がタッチするのはその管轄区域内における事件であるが、例外として
「関連して必要がある限度においては,その管轄区域外にも権限を及ぼすことができる」
ことになっている。この作品でもそうだが、警視庁(桜田門とも呼ばれる)VS神奈川県警の構図は、隣接という場所がら発生しうる代表的な対立、犬猿の仲として映画、テレビドラマでおなじみのところだ。「介入」はおうおうにして村社会に起こる「縄張り争い」であり、またそれと裏腹で村社会の保存本能による共同体内の「不祥事隠蔽問題」がドラマチックに扱われることになる。対立する組織がお互いの失点をバーターで隠しあう馴れ合いもよく取り上げられるテーマだ。さらに警察官の特にノンキャリアの出世ステップについては点数制による独特の勤務評定制度が存在しているものだから陰湿な功名争い、悪質な点数稼ぎ、足の引っ張り合いがこの対立の火に油を注ぐ。

都道府県内の区域を分けた各地域を管轄するものが警察署であってこれが第一線の運営単位である。この現場をドラマ、小説では「所轄」称して、所轄同士あるいは本部と所轄の対立構図を描くものもある。

ここまでもわかりにくいのだが、さらに国家公安委員会と警察庁の存在がある。警察庁は国家公安委員会の管理下にある警察行政の中央機関であって直接に捜査活動をおこなうものではない。警察庁長官は国家公安委員会が内閣総理大臣の承認をえて任免される。

国家公安委員会のホームページによると
国家公安委員会は、個々の具体的な警察活動について直接の指揮監督を行うのではなく、あくまで、警察庁を管理し、また、警察庁に補佐させながら仕事を行っています。 具体的な仕事については、警察庁長官が、国家公安委員会の管理に服しながら、警察庁としての事務を行い、また、都道府県警察を指揮監督することによって行なわれます。」
(国家公安委員会が権力があるのやら、ないのやら、このあいまいなところ、官僚的名文ですね)
先に触れたように国家公安委員会の事務局は警察庁が運営しているのだから、この言葉通りに「警察庁を管理している」実体にはなく、「警察庁のいうがまま」だと警察小説の教えにあります。
そして警察庁は都道府県警察を指揮監督するのであるからこの両者にも対立の構図がある。よく警察庁の権力体質は警察から「現場を知らない事務屋」と揶揄されるシーンを見かける。
国家公安委員会は警察庁の飾り物かといえばそれだけではない、国家公安委員長の権力は大きいのだと聞く。
国家公安委員長は内閣の一員である国務大臣である。つまり政治家であり、警察庁をつうじて都道府県警察を指揮監督する権限があることから、警察小説ではこのルートがよく公安関連また政治家がらみの犯罪の材料として取り扱われ、大掛かりな介入や隠蔽工作に発展するのである。


こんなふうに整理してみるとこの作品はなかなかよくできたエンタテインメントである。


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