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zoom RSS 浅田次郎 『中原の虹』 傑作『蒼穹の昴』の続編。待ちに待った全四巻を読み終えて

<<   作成日時 : 2007/12/15 02:13   >>

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新国家建設に混迷する中国大陸。民の平安のために!と張作霖は燃える。彼を新しい英雄にしようとする浅田次郎の着想は成功しただろうか。

冒頭、100歳を超えた占い師の老婆から
汝、満州の覇者となれ 汝東北の覇王たれかし 走れ、はるかなる中原の虹をめざして
と予言を受けたのは貧しい青年・張作霖だった。『蒼穹の昴』の冒頭、極貧の農民少年・李春児が輝かしい未来の予言を受けるシーンと同様でワクワクさせられる。

満州馬賊。「僕も行くから君も行け、狭い日本にゃ住みあいた………」とかつての日本人ならなじみぶかい、反官精神と任侠心で結ばれた武装集団。その一群の頭目として頭角をあらわした張作霖は有力な馬賊たちを次々と制圧、東北三省をその武力で押さえ込むまでにいたる。「鬼でも仏でもねえ、俺様は張作霖だ」と叫びながら満州の大地を駆けぬける天衣無縫。稀有の戦闘能力と統率力。やさしさと非情さをあわせもつ。第一部は浅田次郎が生み出したこの新しい英雄像の魅力が活き活きとして読者に紹介される。主人公の波乱の人生を予感させるにふさわしいスタートが切られる。

時代をたどれば『蒼穹の昴』は戊戌の政変(1898年)直後までが書かれている。『中原の虹』全巻は清朝末期から中華民国誕生、どうやら1900年を数年過ぎたところから辛亥革命後袁世凱が失脚、病没する1915年あたりのほぼ10年間だと思われる。ただ、歴史小説だとすれば中国近代史を語る歴史認識にいささか欠陥があるのではないかと思われるふしがある。
でも小説家なのだから学者や評論家のような歴史観は必要なしと割り切り、ただ、新国家建設へむけて国民党や軍閥・袁世凱さらに日本を始めとする列強がぶつかり合う、中央政権争奪の混沌を極めるときであるから、この新しい英雄に浅田流講談調でもかまわない、どのような国家ビジョンを吹き込んで、読者を楽しませてくれるか、それが浅田次郎のストーリーテラーとしての腕の見せ所だ。

『蒼穹の昴』。逆境にあって運命を切り開いていく主人公春児。浅田次郎が生み出した主人公は光っていた。それはそれとしてもう一つの素晴らしかったところは実在の人物である西太后について、中国王朝史上に残る三大悪女のひとりである西太后を救国のヒロインとして甦らせた歴史デザインの独創性には驚かされたものだ。

さて今回の主人公、張作霖も実在の人物である。第一部ではやくも張作霖は中国の歴代王朝に伝わる王者の証「龍玉」を手に入れるのである。そうであれば先行き、滅び行く旧体制と向き合った時には「中原の虹」を目指すことになるのだろう。彼の野心あるいは夢はどこまで広がるのか。それがどのように発展、変化していくのだろうか。そして彼は日本とどう対峙して、いかなる未練や怨念をかかえたまま爆殺されるのだろうかと期待はますますかきたてられた。

装丁帯のキャッチコピーもまたキラキラと魅力的だ。
「栄華を誇った王朝に落日が迫り、新たな英雄が生まれる」第一部
「圧倒的感動で描かれる、一つの歴史の終焉。中国歴史巨編、佳境!」第二部
「龍玉を握る張作霖。玉座を狙う袁世凱。正義と良識を賭けて、いま、すべての者が約束の地に集う」第三部
「龍玉を握る張作霖は乱世を突き進み、新しい時代が、強き者の手で拓かれる」第四部

期待が大きすぎたのだろうか。第二部以降は疾走感が薄れどちらかといえば冗長、読み飛ばしたくなる挿話が重なってくる。時代を遡った清王朝成立前夜の同族間の争いがかなりのボリュームで挿入されている。張作霖と彼の幹部たちにまつわる数々のエピソードも読み続けるうちに平板にしか感じられなくなる。『蒼穹の昴』に登場する人物たちの後日譚が詳細にあるがもはや精彩はない。挿話があまりに拡散すると全体の流れに緊張感がなくなってしまう。いや「全体の流れ」とはなんなんだろうとわからなくなってしまった。
張作霖の背後には関東軍が控えていた。関東軍は大陸侵略への足がかりとして張作霖を利用した。両者は時に反発しあいながらも概して持ちつ持たれつの関係にあった。そして関東軍による張作霖爆殺事件が起こった。
この常識的史実には重たいものがある。物書きの創造力を持ってこの張作霖を英雄に持ち上げようと筆をおこしたのだろう。しかし史実の重圧に耐えかねて筆が止まってしまったのが本当のところではなかろうか。

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