![]() またまたライムシリーズか、と食傷気味になりながらもついつい手にとってしまう。さて今回の作品のできばえは?と、このシリーズ、そこまで新機軸が期待できる魅力がある。ジェフリー・ディーヴァーはたしかなストーリーテラーなのだ。これは第7弾だそうだが、私はこれで6作品を読んだことになる。 『ボーン・コレクター』『コフィン・ダンサー』『魔術師』………。数々の名犯人たちと頭脳戦を演じ、勝利を収めてきた現代の名探偵リンカーン・ライム。彼の前に、細心緻密な殺人計画を引っさげて、史上最大の敵<ウォッチメイカー>が立ちはだかる。著者ディーヴァー自身がシリーズ第1作にしてミステリ史に残る名作『ボーン・コレクター』を意識しつつ書き上げた最新作。どんでん返しの連続の果てに明かされる<ウォッチメイカー>の真の狙いとは? 7作品もあるシリーズだから傑作もあればそうでないものある。その意味でこの装丁帯のコピーは本シリ−ズを通した全体評価のエッセンスがつまっているようだ。『ボーン・コレクター』『コフィン・ダンサー』『魔術師』の3作品を例示しているところ。中でも『ボーン・コレクター』を最もすぐれた作品と評価しているところ。だからディーヴァーが『ボーン・コレクター』への原点復帰を意識したところ。 私もランクをつければ @『ボーン・コレクター』A『コフィン・ダンサー』B『ウォッチメイカー』C『魔術師』となるかな。 全体を通して探偵役であるリンカーン・ライムの個性がとてつもなく魅力的である。首から下は左手の薬指一本しか動かせない四肢麻痺の元刑事。従来の安楽椅子探偵ものと言えばどちらかと言えば地味なストーリー展開だが、単なる頭脳的推理にとどまらず、アクションの連続がある意外性。膨大なデータベースと最新の科学工学機器を縦横に駆使し、犯罪現場の微細な遺留物に対する科学的検証。徹底した証拠主義、合理主義、。さらにアメリア・サックスという女性パートナーと優秀な警察官たちを加えた警察の組織力を思いのままに動員する。この完璧な捜査陣に対するのが冷酷な殺人者で容易ならざる知能犯。 こういう邪悪なものが潜むことができる場所は大都会であってこれだけの機動力を駆使できる舞台はやはり大都会なのだろう。『エンプティ・チェアー』や『石の猿』はローカル色と銃撃戦の西部劇になったところで面白さが半減していた。ニューヨーク!『魔術師』、『ウォッチメイカー』はその意味で原点復帰の緊迫感が甦った。 『ウォッチメイカー』でディーヴァーは新しい個性を登場させ、捜査陣に加えている。キャサリン・ダンス。キクシネスのエキスパートだ。キクシネスとは証人や容疑者のボディランゲージ、言葉遣いを観察し分析する科学なのだそうだ。彼女の前ではだれでもが本当のことをしゃべってしまう、そういうスキルのある女性。徹底した証拠主義者であるライムは証言というものを信用していない。そのライムがダンスを評価するに至るプロセスがなんとも滑稽で興味深く読ませる。マンネリに陥りやすいシリーズものだが、彼女の目を見張る活躍はこれまでにはない新鮮さで読者を魅了するだろう。 ただし、原点復帰といってもシリーズを読んできたひとにとって、もはやリンカーン・ライムは四股麻痺というハンディキャップのある人物であることを忘れてしまっていて、彼の劇的な働きを当たり前として受けとめることになる。驚きをもって彼を見つめる初期の意外性がなくなっている。つまり彼の本来の魅力に不感症になっているのだ。 実は『ウォッチメイカー』はこのようにライムシリーズになんども一杯食わされ続けたファン、ディーヴァーの騙しのテクニックに慣れ親しんできた読者に狙いを定めて放たれた大変化球なのだ。練りに練って用意した奇策や壮大な伏線は不感症になった読者用の劇薬であって、はじめてこのシリーズを読むひとならば、いかにもご都合主義の作り物であり、退屈なしろものと受け取りかねない。 やはりまず『ボーン・コレクター』を読んでからにするべきでしょう。 |
| << 前記事(2007/12/19) | トップへ | 後記事(2007/12/29)>> |
| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
|---|---|
ウオッチメイカー ジェフリー・ディーバー 池田真紀子訳 文藝春秋
さすがの出来栄え。このミスの海外篇一位、というのも頷けます。 このシリーズは、ずっと読んでいて楽しみにしているのですが、 あまり裏切られたことがない。人物造形、緻密な構成、スリル・・。 まあ、どれを取っても見事なものです。これは、多分取材にしろ プロットにしろ、チームが組まれているんでしょうね。 プロジェクト、という名が相応しいような、そんなゴージャスさを感じて しまいます。 ...続きを見る |
おいしい本箱Diary 2008/01/10 10:20 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
TBありがとうございます。そうですねえ。確かに「ボーン・コレクター」を読んでいないと、面白さは半減かも。私は、最近の、妙に人間臭いライムがけっこう好きだったりしますが(笑)この物語はニューヨークでないと!というのは、大賛成です。このシリーズの楽しみは頭脳戦。ドンパチじゃないですもんね。大都会の動脈のなかで展開されるのがふさわしい。ダンスの活躍する物語も書いておられるらしいですね。楽しみです。 |
ERI 2008/01/10 10:25 |
| << 前記事(2007/12/19) | トップへ | 後記事(2007/12/29)>> |