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help リーダーに追加 RSS 桜庭一樹 『赤朽葉家の伝説』 のめりこまされる戦後昭和史

<<   作成日時 : 2008/01/08 00:07   >>

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この作品、いかにも横溝正史風でスタートしているがミステリーとして読むのはいささか間違いだ。余計な雑念を払い捨て、この語りに没頭してこそ多様な味わいを楽しみ、芳醇な香に酔いしれることができるだろう。

十年以上も前のことだが、出雲を旅したことがある。とある神社の宮司さんから禅譲とされている古事記「国譲り神話」についてまるで異なる真説をお聞きした。その説によれば日本に鉄器文化を持ち込んだ天孫降臨族は謀略を用いてこの土地を先住支配者である大国主命より強奪したのだそうだ。大国主命の一族はこの侵略者に怨念を抱きつつ土地を逃れたのだという。大国主命の末裔は蝦夷になったとの説もあれば、この物語では山窩(さんか)「辺境の人」に身をやつしたとしたようだ。出雲では古事記にある黄泉平坂(よもつひらさか)へも出向いた。だれもそんなところへ行く人がいなかった。夕暮れ、周囲を高い木々で覆われ、底知れぬ深い緑の小さな沼を前にひとり立っていると、イザナギを追う死人になったイザナミと雷神たちの恨み声が地の底から沸いてくるかのような禍々しい霊気に怖気づいた記憶がある。

舞台は鳥取だが出雲伝説そのままがこのあいだまで生きていたとしたこの作品、第一部「最後の神話の時代」。色鮮やかに錦絵のような描写で背景を彩りつつ、神々の怨み節が嫋嫋として聞こえるような怪しい気配に、こんな昔の印象を思い起こすほどに、私はこの幽玄夢幻の世界に引き込まれたのだ。
しかし、第二部、第三部ではトーンはガラリと転調していく。この構成は緻密であり巧妙でありしかもそれぞれに魅力的だった。
製鉄業で財を成した赤朽葉家の祖母、母、娘、三代にわたる人生を戦後の昭和から平成の最近まで、時代の背景とともに描いた長編小説である。彼女たちの生きたその「時代性」を大胆に切り取ってみせた著者の鋭敏な感覚には驚かされた。私の生きてきた折々の心象風景と重なる部分がたくさんあったからだ。

第一部「最後の神話の時代」1953年〜1975年 赤朽葉万葉
第二部「巨と虚の時代」1979年〜1998年 赤朽葉毛鞠 
第三部「殺人者」2000年から未来 赤朽葉瞳子

この各部のタイトル、特に第一部、第二部だが著者の切り取った時代性を端的に象徴していて素晴らしい。なるほどそうだったかもしれないと述懐する。

試みに主人公の誕生、死亡を整理してみた。
祖母・万葉、昭和18年(1943)〜平成21年(2009)
母・毛鞠、昭和41年(1966)〜平成10年(1998)
娘・瞳子、平成元年(1989)から そして平成24年(2012)23歳の現在でこの物語を語る。

万葉の年が私よりもひとつだけ上にすぎないから自分もずいぶんと年老いたなぁと思いつつも、しかし大国主命の末裔でありながら天孫降臨族の末裔に嫁入り、未来を透視できる巫女のような存在はどうイメージしても同い年とは馴染まない、私のオバアチャンにふさわしいのであって、どうもピッタリしないなぁなどとこれも楽しみながら読むことができた。

第二部は主人公・毛鞠の時代。「力」の時代である。彼女は暴走族の頭になって大勢の仲間から信頼されつつ中国地方を制圧する。そして漫画家に転身し大衆の心をつかみベストセラー作家として莫大な収入を得るが仕事に追われっぱなしで人生を駆け抜ける。彼女にとって「神話」などまるで存在しない。怪しげなものは不可視であるとの彼女の体質がそれを象徴しているのだろう。日本経済が巨大化、ダイナミックに走り続けた時代だった。こうありたいと思った個人が社会とどこかで折り合いをつけながら自己実現をなすことができた時代であったような気がする。ここは私の娘にあたるはずなのだが、むしろ私が生きた時代だったのではないか。

そんな時代も終わって今は何なのか?第三部はひどく哀しいのだ。
なんていうかさ………。やりたいことがみつからない。いや、それ以前にね、やりたいことをみつけるのに必要な情熱が、まったくもってみつからないって感じ。わかる、おばあちゃん?
と口をもごもごさせる瞳子。私には孫がいないのだが、どちらかといえば娘に近い人物像なのかもしれない。いまさら、ああせい、こうせいと年寄りが口を挟む時代ではなくなったようだ。われわれは「巨」を求めてそれが「虚」であったことを体験しているから口を挟む資格がないのだと自覚すべき世代なのだろうか。瞳子には失われたものを愛おしいと思う感性がある。瞳子にはやさしがある。やさしさが光っている。それはおばあちゃんを慈しむ心であり、「神話」を否定し、あるいは考証するのではなく、「神話」に潜む真実にふっと気がつくやさしさなのだ。

ところで著者は女性だと聞いたことがある。
そうだとしてどこの年代にあたる人物なのだろうか。
ただものではない。

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ネックレス
参考になりました!また読みに来ます。 ...続きを見る
,桜庭一樹 『赤朽葉家の伝説』 の
2008/01/08 11:46
桜庭一樹【赤朽葉家の伝説】
製鉄所を営む「赤朽葉(あかくちば)家」に嫁入りした万葉(まんよう)。学はなく、文字も読めないが、千里眼を持つ不思議な娘。万葉は4人&... ...続きを見る
ぱんどらの本箱
2008/01/08 15:39
「赤朽葉家の伝説」  桜庭一樹
「山の民」に置き去られた赤ん坊。この子は村の若夫婦に引き取られ、のちには製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれて輿入れし、赤朽葉家の「千里眼奥様」と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。−−千里眼の祖母、漫画家の母、そしてニートの... ...続きを見る
きたあかり カフェ
2008/01/12 00:38

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
「吉原手引草」にコメントとTBありがとうございました。

さて、桜庭一樹さんは71年生まれです。
私も年末に何作か読みましたが、タダモノでは
ないと思います。

またお邪魔させていただきます。


きたあかり
URL
2008/01/12 00:36
きたあかりさん、どうも。
桜庭さんは36〜37歳ですか。もう少し年上かと思うくらい練達の方です。
よっちゃん
2008/01/12 12:57

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