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help リーダーに追加 RSS 雫井脩介 『犯罪小説家』  著者の野心的新ジャンルかと期待できたが………

<<   作成日時 : 2008/11/23 10:52   >>

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本を手にするときにたいがいはどこかで得た先入観を持って臨むものだ。その著者の作品を読んだことのある場合はなおさらである。先入観があると作品の本来の価値を誤解しやすい。また、先入観は期待感でもあり、期待はずれという印象を受けることがある。
二、三日前にテレビで映画化された雫井脩介原作の『犯人に告ぐ』を観た。原作はマスメディアの暴力を告発する姿勢がもっと強かったような気がするが、劇場型捜査と銘打って発表されただけのダイナミックな動きと緊迫感の盛り上がりが満喫できる娯楽性の高い第一級のミステリーであった。そんな延長線にある作品だろうと期待していたが、実はまるで別の人の手になるかのようにがらりと作風が変わっていた。とにかくこの作品はいわゆるエンタテインメントではない。三人から五人で演ずるセリフの長い舞台劇をみるような地味な演出であることに驚いた。

「犯罪小説家」というタイトルはなかなか魅力的だった。唐突にジャック・ニコルソン主演のコミカルな映画『恋愛小説家』が浮かんできた。ニコルソン演じるベストセラー作家は「恋愛小説家」というより「官能小説家」。この作品が笑えるのは創作ポルノで売れっ子の男が実はまるで女を知らない潔癖症であるとの設定にあった。ついでに日本で指折りの文芸?官能小説家の作品が新聞連載で話題をさらった時代に仲間内ではこの作家は実際に女性にモテモテであの歳でお遊びがお盛んなのだというネタで盛り上がっていた。
新進作家、待居涼司の出世作『凍て鶴』に映画化の話が持ち上がった。監督に抜擢された人気脚本家の小野田充は『凍て鶴』に並々ならぬ興味を示し、この作品のヒロインはかつて伝説的な自殺系サイト(落花の会)を運営していた木ノ瀬蓮美の影響がみられると、奇抜な持論を展開する。待居の戸惑いをよそに、さらに彼は、そのサイトに残された謎の解明が映画化のために必要だと言い、待井を自分のペースに引き込もうとしていく。そんな小野田に待居は不気味さを感じ始める………。
小説を映画化する際に原作者と脚本家(ここでは監督兼主役でもある)が作品をめぐって一定のコンセンサスを得るにいたるプロセスが詳細に描かれる。あまり知らない世界だけに読者としては興味ある場面ではあるがここで退屈する人は多いのではないだろうか。小野田の創作姿勢はいわば体験主義とでも言うのだろうか。作品は勿論虚構であるが、作品のモチーフには自分自身ができるだけその世界を実感する必要があるということにこだわる体感主義者である。一方の待居は実体験だけで創作活動が行われることではないと小野田の執拗な美意識に戸惑う。この二人の創作姿勢論(もっとも多く語るのは小野田であるが)が延々と行われる。私はこの作品はミステリーではなく著者が香気ある文芸作品を狙ったものかと思ったくらいである。

もうひとつの柱はかつてネットに君臨した自殺系サイト・落花の会のリーダー・木ノ瀬蓮美の自殺をめぐる謎解きでこれがミステリーとしての本筋だった。自殺願望者の相談を受け「美しい死」に導く癒しの女神といったところか。いくつかのエピソードが紹介されるが、自殺志願者の心理をえぐるものではなく、また『犯人に告ぐ』にあったマスコミ告発のような社会的視点はとくにない。以前は自殺願望のあったルポライター・今泉知里が二人の依頼を受けこの謎に迫っていく。

小説家と脚本家とルポライター、この創作姿勢の異なる人物がある事件をそれぞれどのように観察するかというテーマかと思ったのだがそれにしては突っ込み不足である。
好奇心と恐怖が交錯する傑作心理サスペンス
 スティーヴン・キングのひとつのジャンルにあったサイコ・ホーラー・サスペンス風でもあるのだが、本来ジワジワと高まる恐怖を登場人物たち自身が感じていないようで、だから読んでいる側もいつまでたっても盛り上がってこない。さらに謎解きとしての意外性、ラストのどんでん返しに期待するとあてが外れることになる。
こういう受け止め方をしたのはやはり先入観があったせいかもしれない。

あぁ〜最近読むミステリーはみんなハズレだな。

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