日記風雑読書きなぐり

アクセスカウンタ

zoom RSS 宮本昌孝 『海王 上』久しぶりの大型娯楽時代小説の傑作だ

<<   作成日時 : 2009/05/04 17:20   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 0

画像
このところテレビのドラマは歴史小説、クイズも歴史、バラエティ番組も歴史秘話と「史実」花盛りであるが………。まずは壮絶バトルを堪能しよう。そして改竄された虚構の歴史を大いに楽しむ余裕のある読者ならば、これは最近とんとお目にかかることがなかった大スケール時代小説の掘り出し物だ。
剣豪将軍として名高き足利第十三代将軍・義輝が松永弾正の奸計に斃れてから十余年後………。ひとりの少年が信長の戦勝に沸く堺の街に姿を現した。少年の名は海王。かつて大武装船団を率いて東シナ海を席巻した倭寇の大頭目・五峰王直を祖父として育った少年は自らが将軍義輝の遺児であり剣に天賦の才を持つことを知らない。だが運命は海王を、かつて義輝を愛した人々、そして信長ら天下争奪を目指す男たちの元へと誘う。
松永ら逆臣におもねることのなかった足利義輝が剣術に秀でていたという伝説があるが、宮本昌孝は本著の幕開けにあたる『剣豪将軍義輝』(未読)にて、仁・義・情を重んじた人望高い政治家であって、しかも剛毅、清爽、古今無双の剣豪としたようだ。主人公はこの義輝の風貌、気質、才能をそのまま受け継いだ遺児・海王(ハイワン)。義輝の胤を宿したまま亡骸になった愛妾の腹から荼吉尼天の秘術で持って取り出された赤子。五峰王直は明人の倭寇(倭寇というと日本人のようだが、この当時の倭寇の親玉は中国人が多かった)で実在の人物だが、その娘(メイファ)にひそかに育てられた。著者の想像力が生んだこのミステリアスな出生だけでも存分にワクワクして楽しめそうではないか。
この期待は裏切られなかった。

冒頭、死んだと見せかけて脱出に成功した松永弾正をメイファたち忍者が主の仇として討ち果たすシーンから、血風が吹き荒れ、趣向を凝らしたバトルが連続する。海王の守護者である剣士・秋鹿京之介、その従者・忍者八雲。メイファへの復讐を果たさんと執拗に襲撃を繰り返す倭寇の頭目・ヂャオファロン。伊藤一刀斎に拾われ弟子となった殺人鬼・小野善鬼、圧倒する力感で大刀をふるう怪物・島飛び天狗。ポルトガル人剣士・魔怒。義輝に仕えた幻術士・風箏。
これらに実在した名将、武将が加わり、正剣、邪剣、豪剣が入り乱れる殺戮劇がとにかく読者を夢中にさせてくれる。少年・海王がこの修羅場の中で剣の才能を開かせるプロセスも読み応えがある。久しぶりだなぁこの疾走感。。

痛快活劇だけで言うなら、同じような作品は数多くある。が、史実と虚構の組み合わせに著者ならではの斬新さが加わっている。嘘で塗り固めて、本当らしく史実をもてあそぶのだ。この奔放な創作姿勢、サービス精神。これが著者の真骨頂であろう。誰しもこれが「真説」だなどとは思わない。そして著者によって改竄された「史実」を限りなく楽しく読むことになる。この作品の傑作性はここにある隆慶一郎『影武者徳川家康』の流れであるが、これよりも構想の規模、伏線の緻密性、発想のひねりは進化している。山田風太郎・伝奇小説の流れでもあるのが、史実の厚みがこちらのほうが大きいだけに、風太郎にはない迫真力が加わる。

時は戦国末期、信長が魔王として君臨している。当時、室町幕府15代将軍・足利義昭は武田、上杉、そして信長ら戦国の覇者たちに翻弄され、入洛と亡命を繰り返した。彼の京都復帰運動がそれなりに展開できたのは将軍家の権威がまだ精神的規範として戦国大名たちに通用していたからである。事実としてのこの時代背景をとことん活かしきっている。そこに架空の人物・13代将軍義輝の遺児・海王を登場させる。『影武者徳川家康』はそれが影武者であったことは気づかれなかったとしてストーリーが進むのだが、本著は違う。信長、明智光秀、秀吉らが海王の正体を知る。そこから三者の天下取り戦略は私たちの知っている史実とはまるで異なる様相があらわれてくることになる。
にもかかわらず表面の結果は史実に収斂するのだが、このねじれプロセスが実に愉快なのだ。

著者の大いなる虚言に乾杯!
上巻ラストは圧巻だ。なるほど!と思わず絶妙な仕掛けに膝を打った。
たっぷり楽しもう。
本能寺の変である。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
「宮本昌孝 『海王 上』久しぶりの大型娯楽時代小説の傑作だ」について
「宮本昌孝 『海王 上』久しぶりの大型娯楽時代小説の傑作だ」について 隆慶一郎の流れを汲むような作品ということでおもしろそう。史実と虚構の織り交ぜ具合がいい感じのようだ。早く文庫か図書館に出てほしい。ひげらっきょのオススメは隆慶一郎の【鬼麿斬人剣】。完全フィクションだが読んでない人は絶対時間の無駄にはならないと思う。 ...続きを見る
本ミシュラン
2009/05/04 20:14

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
宮本昌孝 『海王 上』久しぶりの大型娯楽時代小説の傑作だ 日記風雑読書きなぐり/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる