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zoom RSS 松井今朝子 『円朝の女』 円朝を愛した女たちのそれぞれのやせ我慢

<<   作成日時 : 2010/02/11 16:17   >>

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今の時代「昔はよかったなぁ」としみじみ思いする年代はいくつぐらいの人たちなのだろうか。私なんぞはそれだけの年季には至っていないのだが………。このお話の人たちはみなそれぞれがそんな思いで今を生きている年季の入った人ばかりなんだ。

向島、隅田川沿いにある木母寺には謡曲「隅田川」にちなんだ石碑が散在する。その中でも洒落た意匠で目に付くのが「三遊塚」だ。これは円朝が先師初代円生の追善供養に明治22年に建立したもので、題字は山岡鉄舟、題字は高橋泥船の手になる。大名人と呼ばれた寄席芸人円朝の交友の広さとその人物の奥行きが偲ばれる。

『牡丹燈籠』や『真景累ヶ淵』などの怪談噺をはじめ、『文七元結』『塩原多助』など数々の創作落語を残し、近代落語の祖と言われる落語会のスーパースター三遊亭円朝。江戸から明治へ、幕府の崩壊によりすべての価値観が揺らいだ歴史の転換期に生きた大名人と、彼を愛した五人の女たちの物語
江戸初期の歌舞伎役者『仲蔵狂乱』、遊郭の世界『吉原手引草』の名著をものにした松井今朝子である。今回は円朝を愛した女たちなのであるが、顔の作り、目鼻立ち、表情、体型、立ち居振る舞い、化粧振り、そして衣装とそのディテールがすごい。綾なすところの色っぽさ、あでやかさ、気高さ、けだるさ、哀しさ、やるせなさ、すねたところ、居直ったところ、といったら。円朝の江戸っ子ぶりにもほれぼれしますが、なんといっても「これぞ江戸の女よ」とばかり、内心はやせ我慢にしろ、気風のよさで胸を張る、艶やかな競演の数々には、文句のつけようがありません。この道についての描写は著者の右に出るものはいないのかもしれません。
質素を旨とする千尋様がめずらしく萌葱色地の綸子という正装で、光沢のある衣装が朝日に映えて、薄化粧をほどこした顔がいきいきと輝いて見える。眉の開いた穏やかな表情で、心なしか黒い眸に力がこもり、ふっくらとした唇には文字通り紅で色気が添えられていた。

ウ〜ン、まるで歌麿えがく浮世絵美人画をなぞるようで、まだまだこの歳になってもゾックと興奮させられます。

幕府の瓦解により没落していく旗本家の一人娘(惜身の女)
新政府の規制強化に折り合いをつけて生き残りをかける遊郭吉原にあって浮沈するナンバーワンの花魁(玄人の女)
追っ駆けファンで円朝の子を産む元幕臣のわがままなお嬢さん(すれ違う女)
伊藤博文や井上馨と懇意で円朝の正妻となる江戸一番の芸者(時をつくる女)
日清戦争の悲劇に直面するが最期の円朝を見届ける女(円朝の娘)

明治維新を推し進めたものたちではない。この激動をいやおうなく受け止めざるをえなかったものたち、新奇に走っても所詮古い体質がそのままに残るものたちばかりである。やせ我慢の美学。その男と女の起承転結を主軸に、これら迷走する庶民の悲喜こもごもの生活感覚をいきいきと描き出している。幕末・明治の風俗世相史としても興をそそられ、巷説風の楽しさがある。

「江戸っ子」意識には上方者のケチに対抗して江戸町人の金ばなれのよさを強調するところがある。将軍のお膝元で生まれ育った粋な町人として田舎ものの野暮に対置する意識がある。明治に入るとどっと押しかけてきたよそものである知識人や官吏に対する反抗意識が加わる。これに薩長藩閥政府に対する急幕臣らの批判意識が入り込む。「江戸っ子は五月の鯉の吹流し、口先ばかりではらわたはなし」とエセ江戸っ子とおぼしきものも加わり、なんとなくこの落とし噺は江戸っ子づくしの感がある。やはり円朝らしさで濃厚にできている。

そして一話一話が上等の人情話として完成しているところが、いかにも円朝を描いたといえる短編集だった。

辻原登『円朝芝居噺 夫婦幽霊』と読み比べるのも面白いが『円朝の女』のほうがいかにも円朝らしい奔放さがあふれている。


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「円朝の女」 松井 今朝子
幕末から明治に活躍した落語家・三遊亭円朝と彼にまつわる女たちを描いた「円朝の女」 物語は、元弟子でその後五厘(寄席と芸人の交渉をする者)となり、長らく円朝のそばにいた男の口から、円朝が情を通じた女たちを語る形式で綴られていきます。その語り口調が、やたら真実味をおびた感じで、まるで実際に円朝とその女たちのの色恋を実際に伝え聞いているような気分になります。 ...続きを見る
日々の書付
2012/06/04 07:10

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