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zoom RSS 乾緑郎 『忍び外伝』  本格伝奇小説の復活

<<   作成日時 : 2010/12/26 16:53   >>

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飾り帯にこうあった。
伊賀の上忍・百地丹波によって一流の忍者に育てられた文吾は、何ゆえ忍びを目指すのか思い悩む。やがて北畠(織田)信雄率いる大軍が伊賀に迫る………
「伊賀、百地」に「思い悩む忍者」とあっては、戦後、忍者ブームのはしりとなった村山知義『忍びの者』の再来かと思った。また「信雄率いる大軍が伊賀に迫る」のであれば、和田竜の第二作目、『忍びの城』の焼き直しではないかと勘ぐったりもした。
「朝日時代小説大賞受賞作」という、忍者を描いた「本格時代小説」かと思って手に取ったしだい。

あまり期待していなかったのだが冒頭の「序」でまず引き込まれた。
時は天正11年(1583)、猿沢の池のほとり、群集の中で文吾は果心居士の幻術にまんまとはめられ、とんでもない世界へ密閉される。荒寥とした砂漠、黒い空、夜の闇に浮かぶ日輪、青色に輝く天体、白兎が手に杵を持って木臼をついている??? まさか!!!

果心居士といえばかなり以前に司馬遼太郎『果心居士の幻術』ではじめて知った懐かしい妖術つかいである。文吾が石川文吾衛門で幼名が五郎吉となれば大盗賊石川五右衛門(『忍びの者』では信長・秀吉の暗殺を企てる)であろう。さて果心居士の術中にあって文吾は自身の生い立ちを夢みるように回顧しはじめる。回顧はいいのだが、さて文吾がいつこの幻術から逃れることができるのだろうと気になるままに、いつまでたっても冒頭の「序」シーンには戻らないのである。「一」から終章直前の「十一」まで、文吾の幼少期から天正6年、7年(1578、79)年の織田信雄(のぶかつ)の伊賀攻略、天正9年(1581)の織田信長による伊賀殲滅、そして天正10年(1582)本能寺の変など史実と文吾の関わりが語られる。

やがてこの小説の構成には全体に巧妙な仕掛けがあるのではないかと気がつくころには、読者自身が小説世界の夢幻境に誘い込まれているのだ。

石川五右衛門の前半生が語られる中でいくつかの謎が提起される。
飾り帯から引用すれば
「天正伊賀の乱の真の目的は?」
「果心居士が操る幻術の正体は?」
「そして究極の存在『忍法煙之末』とは?」
そして最終章「十二」。すべての謎が解き明かされた。果心居士の呪縛を破り、冒頭の猿沢池畔、群衆の中に戻った文吾はつかのま気を失っていただけであった。そして二人の宿命的ともいえる死闘へ移り、ラストは興福寺五重塔の空中戦である。

とにかく面白かった。
ミステリアスな面白さであるだけにあまり多くを語らないのが作法だと思う。これは本格の時代小説ではない。ただこれまで読んだいくつかの傑作や懐かしいネタを思い出させてくれたのでその周辺をなぞるにとどめたい。

『荘子・斎物篇』 にある「胡蝶の夢」。
自分が夢で蝶になったのか、蝶が夢を見て自分になったのかわからなくなったという思索的お話。

『沈既済・枕中記』にある「邯鄲の夢
出世を望んで邯鄲にきた盧生が道士の導きで見た夢。彼は栄枯盛衰の人生50年を夢に見たが覚めてみれば注文した粥が炊き上がらない一瞬の出来事だった。これも思索的故事。

山田風太郎『柳生十兵衛死す』
能楽世阿弥と室町時代。二代の天皇をめぐる大陰謀に畢生の剣を抜く十兵衛三厳。剣の究極と能の幽玄美が融合する。いわゆる『忍法帳シリーズ』を超えて、異彩を放つ。さすが鬼才風太郎の奇想の極致である。

半村良『産霊山秘録』。
神に仕え、皇室の存続のためにある秘密結社・ヒ一族。彼らは超絶の秘術を使い闇で歴史を動かす。荒唐無稽といえばそれまでだが、圧倒される奇想天外なストーリーはこのジャンルの最高傑作にしてこのジャンルの原典といえよう。

秦の始皇帝が遣わした徐福から由来するこのストーリーの大風呂敷は大胆にして豪快である。最近このジャンルでここまでひきつけられる作品は無かった。おそらくこの作品の下地には山田風太郎『柳生十兵衛死す』、半村良『産霊山秘録』があったものと思われる………。その下地の上に玄妙な味わいを創造した、これは「本格伝奇小説」の復活である。「果心居士の幻術」ならぬ、「乾緑郎の操る幻術」に徹底的に幻惑されることを楽しむ作品である。

蛇足ながら
後に大盗賊と呼ばれる石川五右衛門が夢幻の中で回顧した大風呂敷の前半生記である………と解釈すれば読者も著者が仕掛けた幻術の呪縛から解放されるかもしれない。
続編がありうるラストになっているが、これ以上に魅力的な続編はかなり難しいだろうね。
                                        
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