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zoom RSS 松井今朝子 『吉原十二月』 吉原遊郭案内の上級篇

<<   作成日時 : 2011/02/03 23:31   >>

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これであなたは最高級の花魁になれます。
吉原屈指の妓楼主になれます。
そして超一流のお客になって吉原の奥深さを味わい尽くせるでしょう。
実践しないで本を見るだけの読者にとっては五つ星の業界ガイドブックでございます。
容貌(きりょう)も気性もまるきり違うふたりの妓(おんな)。妓楼を二分する激しい嫉妬とつば競り合いの先に女の幸せはあるのか?
飾り帯にはこう記されております。
たしかに一月から十二月まで各月ごとの吉原歳時記をバックに、花魁ふたり(小夜衣と胡蝶)の競艶が見ものではありますが、「つば競り合いの先に女の幸せはあるのか?」という、そんな現代風な人生論はいさかかもありません。
超一流の花魁とはこういう遊女であると、大見得切って妓楼の主が語ります。
いわばテッペンを狙う遊女たちのために「花魁道」の真骨頂を紹介しております。

私などは吉原というのは格子から艶然とした女郎衆をよくよく観察し、懐具合と相談しながら気に入った女郎を指名して床あそびをする、そういう文化ゾーンかと思っていましたが、それは、二流三流のお客が欲望のはけ口とする吉原の一面にすぎない。花魁遊戯の真髄はそういう庶民感覚を超越したところにあったんだと気づかされました。いわば花魁遊戯の深いところを味わい尽くすために、超一流「顧客道」の奥義を伝える教化本であります。

これを語るのは大籬(おおまがき)・舞鶴屋の楼主・庄右衛門でありますが、よくよく見れば、このオヤジは業界屈指の「楼主道」を自慢している風情が感じられます。

吉原文化とはどうやら厳しい様式、作法、しきたりでもって構築されていることがわかりますね。花魁・顧客・楼主ともこの厳格な枠組みを厳守できなければなりません。それができるのが超一流の資格なんだ。

花魁は「容姿」はもちろんのこと、「唄」や「踊り」「和歌」や「書」の達人です。「囲碁」「将棋」の相手もできなければならない。楼主は幼い遊女候補者たち(禿 かむろ)の中からその天分を見出し少数精鋭のエリート教育を徹底します。先が読めない金のかかる大博打のようなもので、この楼主・庄右衛門さんはふたりの職を張る花魁を作り上げることができた、たいした人です。

花魁と馴染みになるにはかなりのおカネと手間隙がかかる。客は揚屋(高級料亭)で花魁道中を迎えいれ、若衆、振袖新造、禿、遣手ら道中一行と宴会に侍る芸者、封間等にご祝儀を配り、豪勢に花魁を接待するのである。一晩で30〜40両は軽く吹っ飛んで、これを三回やって初めて花魁と床入りができるってんですから、常人とは遊びのレベルに天地ほどの差がありますな。そのうえ花魁は気に入らなければスポンサーを袖にしてもいいという。
一度馴染みの花魁ができると客はほかの遊女と浮気するのは厳禁。
身請けには千両ほどはご用意願う。いったん身請けしますと離別するとなれば手切れ金に家屋敷を添えて渡すというのが身請誓文でございます。
なかなか花魁の「人権」も手厚く擁護されているんだな、などとしたり顔をしながら吉原作法の数々を学習する。別世界を学ぶ、このガイドブックの面白さがここにあります。
ところでこのお客さんは当然に名だたるお大尽。セックスをするとかしないとか、もてたとかもてないとか、四の五の言うケチな野暮天ではない。ただただ、この厳格なしきたりに通じて、散財することに喜びを感じ、それをステータスとして誇る人物でなければいけません。これが「顧客道」の奥義なんだなと納得したしだい。

とはいえそれぞれ超一流の花魁・楼主・顧客であっても時には思い違いもあるものだから、しきたりに外れて騒動が起こります。一応その事件がストーリーになっています。

それはそれとして、
胡蝶が初の道中に用いた裲襠は濃い萌葱の絖地で、細やかな刺繍をした黒揚羽の蝶があちこち飛んでおりました。片や小夜衣の裲襠は黒の綸子で右肩から左裾にかけて銀の縫箔で枝垂れ桜を大きくあしらってあります。共にふさは緋色で裾綿を多めにして、そりゃァ見るからに伊達な衣装でございました。
宵闇に溶け込んだ綸子の光沢が、化粧映えのした顔をいやが上にもくっきりと浮かび上がらせます。そのみごとな姿には今を盛りと咲く夜桜も顔負けしたようにはらはらと散り、花びらの降り注ぐ道中は、まさに夢路をたどる天女のごとくで数千人の女ヶ島に生まれ育ったわしでさえ、思わずうっとりと見とれてしまいました。
どうです、随所に描かれるこの遊郭情緒。松井今朝子ならではの一流の絢爛美描写でございます。まるで豪華版浮世絵の絵巻物を見ているようだなぁ。

まぁ、まるで役に立たない業界ガイドブックですが、読者としては超一流の花魁・楼主・顧客が吉原という虚構空間で役者を演じきっているこの芝居世界にのめりこむこと、これがこの作品を読むポイントでしょう。

「大籬」「禿」「お職」「内所」「呼出し」「昼三」「振袖新造」「番頭新造」「妓楼」「揚屋」「裏を返す」などなど業界用語が解説なしに飛び交います。これは吉原案内の上級篇。読者も上級ではないといけません。まずは『吉原手引草』をお読みになって、初級・中級を卒業してからがよろしいようで………。

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【吉原十二月】 松井今朝子
ご訪問ありがとうございます☆ ...続きを見る
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2011/02/12 20:24
「吉原十二月」 松井 今朝子
ふたりの花魁の半生を描いた「吉原十二月」 胡蝶と小夜衣、ふたりの異なる性格の花魁が妍を競い、蕾の禿(かむろ)時代から、華やかに大輪の花を咲かせるまでを、吉原の十二月の行事にからめて描いています。 いや、楽しかった。吉原の風景と花魁たちのの絢爛豪華な姿、そして最後は廓中を巻き込んだ大事件と華麗な結末。まるで歌舞伎や芝居をみているような臨場感がありました。 ...続きを見る
日々の書付
2012/06/02 16:42
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ふたりの花魁の半生を描いた「吉原十二月」 胡蝶と小夜衣、ふたりの異なる性格の花魁が妍を競い、蕾の禿(かむろ)時代から、華やかに大輪の花を咲かせるまでを、吉原の十二月の行事にからめて描いています。 いや、楽しかった。吉原の風景と花魁たちのの絢爛豪華な姿、そして最後は廓中を巻き込んだ大事件と華麗な結末。まるで歌舞伎や芝居をみているような臨場感がありました。 ...続きを見る
日々の書付
2013/06/29 01:23

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