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zoom RSS 梶よう子 『ふくろう』 「千代田の刃傷事件」を素材に、武士社会の凄惨なイジメをリアルに描く

<<   作成日時 : 2012/09/09 19:08   >>

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「イジメ」「殿中」「刃傷」「敵討」と揃えば「忠臣蔵」しか思い浮かばないものだから、
江戸時代後期の「千代田の刃傷事件」は全く知らず、このテーマだけでも読んだ価値がありました。

連日、報道されるように、学校でのイジメがあとを絶たない。自殺にまで追い込まれる。陰湿さはエスカレートし、肉体への暴力行為だけではない。無視蔑視、罵詈雑言・誹謗中傷・流言飛語、責任転嫁で精神的にダメージを与えるものが増えている。よってたかって弱いものを痛めつけ、それを楽しんでいるのである。
こんな外道を許せない。文政6年、ついに堪忍袋の緒が切れ、彼は江戸城内にて非道のものらを討ち果たした。3人が即死、2人が重傷、本人は自刃。

現代のイジメの構図をそのまま江戸時代の武士社会に無理にはめ込んで作ったお話かと思っていたら、その逆であった。さすが、江戸の朝顔栽培という史実を軸に傑作『一朝の夢』を著した梶よう子である。「甲子夜話」等の古文書を考証し、当時の武士社会こそ典型的なイジメ社会だったという認識で書いたものと思われる。この史実を知らなかったわたしには驚きの物語だった。知る人ぞ知るである。芝居、映画にもなり、林不忘には『魔像』という小説があるようだ。
松平外記 
江戸時代後期の武士。幕臣、西丸書院番士。裃の紋に墨をぬられるなど、古参者のいじめにあい、文政6年(1823)4月22日殿中で刃傷におよび、本多伊織ら5人を殺傷し、自刃した。享年は33歳。18歳、27歳説もある。江戸出身。名は忠寛。(日本人名大辞典)
旗本には人気のあった就職先である。その西丸書院番に番入りした外記が古参のものから受けるいやがらせの数々が詳細に描かれる。読んでいていたたまれなくなるほど凄まじい。江戸後期ともなれば武士社会の綱紀は乱れ、書院番には武士道という矜持はなく、古参が新参を悪習の中に押さえつけ、ただ酷使する職場だった。身分が固定し、出世のチャンスは限られている。だが、外記は家柄がよく、剣の使い手でもある人格者、いわば見所のある清廉の士だった。だから、理不尽な悪意と憎悪、妬み、嫉み、蔑み、謗り、皮肉、嫌味、集団化したワルの仕打ちが集中した。現代でもそうだが、イジメは絶対に反抗できないものに対して行われる。反抗できないことがわかっているから、笑いながら他人を陥れて、涼しい顔をしていられるのだ。外記は反抗できない。外記にとってはまずお家大事である。そして妻と子を守ることであった。だから、満座の前で恥をかかされ、カネをふんだくられ、盗人といわれて、毎日屈辱にまみれながらも、彼らには決して逆らおうとはしなかった。それがまた彼らを増長させる悪循環。この病的で残酷な地獄図はまるで今のイジメの構図そのままではないか。

遺恨で彼が白刃を振るうことになればお家の断絶は避けられない。残された家族の行く末を思えば………。手にかけるまでの心理の綾が女性らしい細やかな筆致で綴られる。タイトルの「ふくろう」は外記が自ら彫刻した木製の根付けである。誰にも内心を見透かされず、事に及んだ外記。生まれたばかりの次男に遺したこの「ふくろう」がいくつかの場面で実に効果的に使われている。読後振り返れば、誰知らぬ心底を表現したのがこの「ふくろう」だけであったことに気づかされる。プロットはアナクロで平板な復讐譚なのだが、この絶妙なしかけがあってはじめて、外記の武士として人間としての深さに胸をうたれるのだ。

二十数年後、伴鍋次郎は両親、身ごもった妻と幸せな家庭にあったが、西丸書院番を拝命したある日、出生の秘密に触れて………。というのが実は物語のスタートで、「千代田の刃傷事件」の後日談がこの作品である。
生みの親と育ての親。身ごもった妻。家族愛、そして武士の一分。伴鍋次郎もまた葛藤のうちにある決意をする………と、これもおなじみの人情噺なのだが、最近の人情話は変化球が多く、ここまでストレートな家族の絆は久々だったせいか、著者の巧みな語りにホロリとさせられました。


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