日記風雑読書きなぐり

アクセスカウンタ

zoom RSS 木内昇 『櫛挽道守』  幕末、木曽山中の宿場町、櫛職人の家族がそれぞれの思いに生きた感動の足跡

<<   作成日時 : 2014/03/16 18:00   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 0

画像櫛挽の技の詳細が紹介されるが、口絵を用いた解説はないからはっきりとはイメージできないのだが、初めて知らされた世界だけに興味津々、俄然ひきつけられた。

舞台である藪原宿は中山道の宿場町である。現在は長野県木曽郡木祖村。ネット情報ではいまも特産品は「お六櫛」とされている。「くしひきちもり」、タイトルはあまり使われない言葉である。木製の櫛の歯はその細かい隙間を鋸で引いて作られる。櫛挽とは櫛を作る職人・櫛師をいい、その職人芸を代々守り伝えるものを櫛挽道守(くしひきちもり)と称するのではないかと思う。

櫛挽の家に生まれた娘、16歳の主人公の登瀬が母の願いに背いて女だてらに櫛挽の道を選んで33歳まで、その数奇な半生を描いている。日本史的には嘉永2年(1849)で4年後に黒船来航という時期から長州征伐の途次に将軍家茂が逝去する慶応2年(1866)まで、幕末の大激動期に当たる。
そしていつの世にもある親子・兄弟間の確執と絆だが、ドラマティックにズバリ時代性、地域性、社会性をこの一家に象徴させて、冷静にしかし温かいまなざしで見詰める著者である。激動期に対立する「激変と不変」の緊張関係を独自の作風にした木内昇、『漂砂のうたう』 『ある男』に続きいまや絶好調である。

父は木曽一番、いや登瀬にとっては日本一の腕を持つ櫛師・吾助(40歳)、無口で偏屈ものだが………どこかに人間をひきつける重みを見せる。登瀬は家事をそっちのけにして櫛挽きの手伝いに没頭している。母はいわば封建社会の典型的女であり、家や共同体の秩序を守ることを専一に、娘の幸せは嫁入り先にあると思い込んでいる。妹は家や村落共同体の外へ抜け出し、外の世界にならある自由と幸せを夢見ている。父の後継ぎになれる才能を持ちながら早世した弟は………彼が何を言いたかったのか?最後まで謎をのこして、感動のラストを盛り上げてくれます。そして登瀬をめぐる二人の男。登場人物のそれぞれの個性が鮮明に際立っていて、とにかく素晴らしい。

一家の生計は。村の庄屋であり宿場の本陣でもあるお大尽の寺嶋家から素材の櫛木を調達し、櫛挽きして完成品を納め、手間賃受け取る。手間賃は一日精一杯働いて40枚の櫛が米1〜2升といくばくかの銭。母も妹も含めて代々変わらぬこの仕組みをあたりまえのこととして受けとめている家族だった。
しかし、時が変ろうとしていた。

動乱の幕末だ。誰もが流され、あるいは流れに乗ろうとした。いっぽう、櫛挽きの技の究極はリズムであり、体で覚える不変の繰り返しだと、登瀬は名人の父から学びとっていた。櫛挽の作業場である土間はそこだけが時間が止まっていた。藪原宿もゆっくりとしか時は流れていなかった。しかし、黒船、安政の大獄、桜田門外の変、皇女和宮降嫁、尊皇攘夷、天狗党の乱。同じ生活のリズムを繰り返す村落共同体にもひたひたと時節の変化が光と影をおとしてくる。

価値観が急速に変化し、多様化していく。


時代の流れに乗るということでなにがもたらされるのだろう?
古い枠組みを維持しようすればどんなことになるのだろう?
生きるとはどういうことなのか?
死んだ弟の思いがけない遺品はなにを語っているのだろう?
父は母は妹はそして男たちは?
不易と流転の狭間で彼らはどう生きたか?

どこか、先般読んだ京極夏彦の『書楼弔堂 破曉』に近いものがあるが、それよりもはるかに深く心に染み入る。

近代化、合理主義、国家としての統合、さらには欧化主義。これらなくして経済的繁栄はありえない。
いっぽうで、理屈ではないところ、人間同士の心のふれあいのありがたさ、ぬくもりを求める故郷への回帰、地方ならではの安定感、欧化への抵抗………もまた評価される。

登瀬の家族はこの緊張関係の中で生き抜いたのだ。

それは登瀬が生きた時代だけでなく、今を生きるわたしたちが直面する課題でもある。
だから、登場人物それぞれの個性に自分を重ね合わせることになって、涙を流さずには読み終えることができなかった。

これまでに読んだ木内昇の最高傑作の長編だ。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
なるほど(納得、参考になった、ヘー)

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
木内昇 『櫛挽道守』  幕末、木曽山中の宿場町、櫛職人の家族がそれぞれの思いに生きた感動の足跡 日記風雑読書きなぐり/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる