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zoom RSS 皆川博子 『海賊女王 上』 まさに大冒険活劇の大衆小説 皆川氏のこの瑞々しいチャレンジ精神に脱帽

<<   作成日時 : 2014/08/13 23:51   >>

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画像上下巻で1000ページをこえる長編小説である。
皆川博子氏、86歳とご高齢なのだが、この海洋冒険小説・海賊戦闘小説を文字通り血沸き肉踊るバイオレンス・アクション・サスペンス、まさに大娯楽作品に仕立て、さらに重厚な時代・歴史小説として完成させている………氏の筆力に驚嘆する。久々に出会った「理屈抜きに面白い」大衆小説だ。
『死の泉』の流れにある従来の怪奇幻想ではないし、最近評価の高かった『開かせていただき光栄です』のような上質の本格ミステリーでもない。氏にとって新しいジャンルである。作風としても新鮮だ。常に自らの可能性を超えようとする瑞々しいチャレンジ精神に脱帽です。

序章にあたる「イングランド−1593−」、わずか61ページだが、おろそかには読み飛ばせない、相当に濃厚である。当時イングランドは強国ではなかった。ユーラシア大陸の辺境に位置した後進的な存在にすぎず、大陸諸国の圧力のもとで国民国家としての自立の道を模索していた。スペイン、フランスという2大国間に挟まれて虚々実々、薄氷を踏むような外交を展開したのが実情であった。そのイングランドの女王・エリザベス一世、あまたの男達と浮名を流す女であったが、生涯独身を通し、権謀術数渦巻く派閥抗争の圏外に立ったのは賢明だった。判断の自由を留保する強い意志と抜きん出た知性をもった女性である。父ヘンリー8世の行状による血塗られた半生とその孤独が簡潔に表現されている。
さらにイングランドとアイルランドの抜き差しならぬ関係が素描される。

UK、英国、イギリス、大英帝国、グレートブリテン、イングランド、アイルランド、スコットランド、ウェールズ。ケルト、ゲール、アングロ・アイリッシュ、ノルマン人、アングロ・サクソン、ゲルマン。カソリック、プロテスタント、英国国教。現代に継承されているアイルランド問題等々。恥ずかしながら、これらの常識がないものにとって、この序章は緊張させられました。お蔭で関連する西欧史をいくらか勉強することが出来ました。それがまた読書の楽しみを倍増させます。信長と村上水軍の関係だって詳細はわかっていないのかもしれないが、それとこれとは理解のレベルが違います。

そして「請願の儀があり」と……野蛮なアイルランド地方の海賊女王・グラニュエルからイングランドのエリザベス女王に面会の申し込みがあった。イングランドとてスペインの商船を襲う海賊行為に免許状を与えている国である。両者ともに凄絶な半生の60年があった。請願とはなにか、相似形の女王二人が対峙し……いったいなにが起こるかと十分に引きつけられる幕開けである。

請願の内容はわからないまま、時は50年前のアイルランドに遡る。
裂帛の気合、稲妻が周囲を切り裂くように10歳の少女・グローニャ(グラニュエル・オマリー)登場がする。これから起こる血みどろのバイオレンスを予感させるこの展開はまた格別なものがあります。
16世紀、スコットランドの高地(ハイランド)に牧童として生れたアラン・ジョスリンは、17歳で戦士集団(ガログラス)に加わり、アイルランドに渡る。そこで出会ったのは、オマリーの氏族の猛々しくも魅力的な男たちと、赤い縮れ毛を短く切った、10歳の少女グローニャ。闘いと航海に明け暮れる、波乱の日々の幕開けだった。
最後までイングランドに屈しなかったゲールの女王。グラニュエル・オマリー。彼女が立っている限り、男たちは、勝利を疑わなかった。
独立したいくつもの氏族からなるアイルランド。グローニャ(グラニュエル)の父ドゥダラ・オマリーはアイルランド北西の小さな地域を支配するオマリー一族の長である。オマリーのようにアイルランド人の本流はケルト系ゲール人で、文化も共通するところが多いが、統一した国家を形成するに至っていない。逆にゲール氏族同士の流血の争いが日常化していた。交易と略奪。オマリー一族は海上輸送、海戦のための兵士、攻撃用船舶において他の氏族を圧倒し、頭目ドゥダラの優れた統率力は誰からも一目置かれる存在であった。
他の氏族との合従連衡、絆の強化と裏切り。そして海上での戦闘。女の武器を縦横に、しかし冷酷に使いながら、父親譲りの軍事才能を発揮し、優秀な男たちとの相互信頼関係を基盤にしてグローニャは成長していく。彼女の軍団は強化されていく。
上巻はグラニュエル32歳までだが、上巻の見所は海戦を主とした激烈な戦闘シーンだ。情け容赦なく血しぶきが上がる、その連続に圧倒される。しかも、同工異曲の安直な積み上げではない。そして戦闘にいたるまでの紆余曲折、調略、謀略が充分に魅力的なのだ。全体構成は緻密であり、細部には迫力がある。高齢の女性作家の手になるものとは思われないたいした剛腕ぶりです。

物語はスコットランド出身の傭兵、アラン・ジョスリンの視線で語られる。彼はグラニュエルを秘かに恋する男であるから彼女の意表をつく軍事政治戦略については常に心配性のお守役である。だから読者にはグラニュエルの虚実混沌の権謀術数について本音がどこにあるのかは知らされない。読者はアランの抱く懸念や不安に振り回されることになるのだが、のちにあぁそうだったのかとホッとする、上出来のサスペンスになっている。

グローニャの存在はイングランド支配からのアイルランド独立を象徴している。氏族間の争いの背後にイングランド貴族が見え隠れし、やがて武力と狡猾さでアイルランド全土の植民地化が露骨に進められる。アイルランドの氏族の中でもこの植民地化政策に同調するものが増え、グローニャたちは孤立していくように見えるが……。

ところで来月のことだが、9月18日にスコットランドで、英国からの独立の是非を問う住民投票が実施される。予想では賛成が4割もなく、実現はしないそうだ。この作品を読むまでは他人事であり、時代錯誤のお騒がせ程度の認識であった。この作品を読んだからといって、スコットランドのお国柄はよくわからないし、所詮賛否を云々する立場にはないことには変らない。ただ言えることは、文化活動面などで郷土意識の高揚が評価され、イングランド化や市場原理主義に反対する勢力も強いことを伺えば、グローニャの存在に時を超えたリアリティがあることを思い知らされた。

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