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zoom RSS 皆川博子 『海賊女王 下』 同じ海賊女王でもエリザベスと違ってグローニャは孤独ではなかった

<<   作成日時 : 2014/09/06 10:35   >>

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後には全世界の四分の一まで領土を拡張した大英帝国も、エリザベス一世治下のイングランドはまだ三流国だった。植民地を持っていなかった。植民地といえるような地域はせいぜいアイルランドぐらいであった。むしろフランス、スペインに圧倒されていた。エリザベス一世はそのイングランドの国家としての独立を確実にし、近代イギリスの基点を築いた女王といえる。またエリザベス一世はイングランド貴族達の海賊行為を公認し、分け前を徴収していたのだから海賊女王ともいえよう。血にまみれたプロセスを経て王位を継承した女王は狂ったように男あさりをしたが、パワーバランスにたった権力行使には身を噛むような孤独があったのだ。
あの女を呼べ。彼女ならわかる。女王の孤独を
あまりにも面白いからといって、そして雑誌「小説宝石」の連載作品だからといって、これは単なる大衆娯楽小説ではないぞ。エリザベス女王の内心をフィクションとして深くえぐって、チューダー朝の真実に迫るものがある。わたしはイギリスの歴史に詳しくないし、ましてやアイルランドはまるで知らないから、基本的な史実を小当たりしてみた。………でその結果、これはやはり本格の歴史小説です。

もっとも主人公はエリザベス女王ではない。エリザベスを刺身のつまにしてもう一人の海賊女王・グローニャが浮き彫りにされる。グローニャはエリザベスとは違う。孤独感を持つことはあったかもしれないが、孤独ではなかった。
属国支配を強めるイングランドに対して、アイルランドの氏族は内輪もめを繰り返し、団結することが出来ない。息子を捕縛されたグローニャは、彼の釈放と暴戻な行政官の解任を要求すべく、ロンドンに向かう。毅然として時に妖艶な不世出の女海賊と、彼女の従者であり続けたアランを待ち受ける運命とは………
統一国家を目指す強い意志に部族社会が対抗しても、利害が錯綜して大同団結ができない部族社会は常に敗れる。そして日本でもそうであった。大和朝廷に敵対した奥州蝦夷、江戸幕府に反目したアイヌ。虐げられた善良なものたちが敗れるのが創作悲劇だがそれは冷酷な現実でもある。この作品でも変ることなく、それが歴史だと痛感する。そして現代はどうかと、著者は問題提起している。
平和。それを望まない者はいない。だが、平和を保つためには、力を持った者に虐げられても、虐げられたものが声を上げないことが要求される。押されようと踏まれようと、耐えていれば、平和だ。その代わり、圧力はますます強まる。いよいよ耐え切れずはね除けようとするときは、当初の数倍、数十倍、場合によっては数百倍の力が必要になる。
グローニャの分身、アランはその不条理に身もだえしている。

上巻は爽快、勇壮、意気揚々、順風満帆でグローニャとその仲間達は快走した。しかし、下巻ではイングランドが圧倒的な軍事力で侵略してくる。イングランドと現実的な折り合いをつけるべきか、スペインの力を借りても徹底抗戦するか。世界的視野で自分達をみるべきだ。ゲールの誇りはどうなるんだ。ゲールの明日を若い世代にまかせられるのか。部族間ばかりではない世代間でもまとまりがないまま、悲惨としか言いようがないのだが部族同士の殺し合いも熾烈化する。わからずやは族長ばかりではないのだ。グローニャやアランですらこの不毛の自問自答を繰り返している。

肝胆相照らす仲間が次々とこの世を去る。グローニャの夫たちが殺されていく。そして息子たちも。歳を重ねたグローニャの前には途切れることのない葬列があって、さらに上巻にはなかったことだが、彼女の「母性」の強さがゲールの「大義」を上回るものだから、やるせない哀しみで胸がいっぱいになります。

グローニャと仲間達は地の利を得た兵法でもって陸地戦でもさんざんイングランドを苦しめる。女性の筆とは思えない。北方謙三の「水滸伝」、高橋克彦の「火怨」に負けていない。眼を見張る集団バトルシーンが描出されます。凄い。
だが、………。

満身創痍のまま死地に赴く彼らをゲールの古き神々が嘉する、わたしにはそのさざめきが聞こえるようで、誇り高きものたちの荘厳な最終章でありました。


参考 下巻の最終に当たり、グローニャが参戦したアルスター地方の反乱。

平凡社世界大百科事典より
オニール家 (反乱の主導者でゲール最大の氏族)
アイルランド,アルスター地方に12世紀から君臨した族長の家柄。オドンネル家とともにノルマン人の侵略に,あるいはチューダー朝期イギリスの侵略に抵抗した。16世紀の指導者コン・オニールConn O’Neill(1484ころ‐1559)は,イギリス軍と戦った後,渡英してヘンリー8世に所領を献じ,再授封されてティロン伯となった。息子のシェーン・オニール Shane O’Neill(1530‐67)は,コンの庶子でエリザベス1世が相続人と認めたマシューを滅ぼし,イギリス軍との戦いを続け,しだいにアルスター全域を支配,完全な独立を目指したが,アルスターの支配をめぐって長く対立していたオドンネル家の軍隊に敗れ,味方だったマックドンネル家に殺された。コンの孫ヒュー・オニール HughO’Neill(1550‐1616)は第2代ティロン伯となり,エリザベス1世軍と戦って1598年大勝した。各地の反乱はこれにより激化したが,イギリス軍はマウントジョイ卿の指揮の下で,1600年にはその大半を鎮圧した。(グローニャたちの参戦)ヒュー・オニールは,翌年スペインからの援軍を得てマウントジョイ軍と戦うが大敗し,アルスターに逃れ,03年に降伏した。ヒューはこの後カトリックの礼拝を禁じられ,所領の大半を没収されて,07年に,他の族長と共に逃亡しローマに移住した。抵抗の拠点アルスターは,この〈伯爵の逃亡〉の後,イギリスの植民政策により一転して,親イギリス的なプロテスタントの支配する地方に変えられていった。なお,アメリカの劇作家ユージン・オニールもこの一族の子孫である。
      

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