日記風雑読書きなぐり

アクセスカウンタ

zoom RSS 篠田真由美 『アベラシオン』正統派のオカルティズムそしてゴシックロマンでもある

<<   作成日時 : 2005/06/23 23:07   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

画像
イタリア、山中の巌上にそびえる「聖天使宮」に圧倒される藍川芹。壮麗さの極致が破滅の運命を予感させる、この幕開けは緊張感をいやがうえにも高める。
『ダ・ヴィンチ・コード』を読まれた方には是非とお薦めします


輻輳するいくつかのモチーフがそれぞれ重厚で濃密に描かれさらに長編小説として全体調和が完成している。横軸には人間の歪んだ欲望、病的な嫉妬、異常な愛憎、時の流れを超えた怨念が組み込まれ、しかも謎また謎を追うエンターテインメントであるから、この作品、ただものではない。

時は1999年、世紀末。北イタリア、ミラノから遠い山中深くの巌上にそびえる大宮殿・「聖天使宮」。イタリア美術史を学ぶ日本人留学生・藍川芹はこの城館の主で若き美術エッセイスト・セラフィーノの招待を受ける。中欧を中心として広大な地域に君臨した家門、神聖ローマ帝国皇帝の出自であるハプスブルク家。富豪の事業家でもあるセラフィーノはその名門の血を承継する第一級の貴族である。そこには車椅子の少年、天使をおもわせる美しい彼の弟・ジェンティーレが幾人もの使用人にかしずかれて住まいしている。

芹は「聖天使宮」の建築美、広大な庭園の意匠、豪奢な邸宅、その内装や装飾品、調度品、さらにそこに秘匿されている絵画、彫刻、工芸品などの至宝とも言える美術品の数々に圧倒される。美術にはあまり縁のない私にとっても西欧文化史、芸術論、建築学の薀蓄を交えたこの詳述にいささかも飽きることはなかった。むしろ自ら貴族の出身であるルキノ・ヴィスコンティ監督の絢爛華麗な映像を髣髴させる語り口にひきつけられた。壮麗さの極致が、続く破滅の運命を予感させる。この幕開けは読者の緊張感をいやがうえにも高めるに違いない。

天上の光には地獄の闇がつきもの。壮麗な城館の深くには岩盤をえぐった大地下室がある。使用人の居住地区あり、隠し部屋に迷路あり、密室あり、大仕掛けの機械装置まで備える。さらに奇怪な………。この殿堂で繰り広げられる異様な連続殺人事件となればこれはまさしく正統派のゴシック・ロマンだ。あえて「正統派」と述べるには理由がある。最近の怪奇趣味ミステリーには「魔宮」やら「魔城」やらと、パズル型謎解きのために都合よくこしらえたリアリティのない建造物、まるで遊園地のお化け屋敷といった程度のまがいのゴシック風が幅をきかせているからである。もちろんこの作品の舞台設定も存在しようがない著者の虚構とわかっていても、建築、美術、イタリア文化に対する著者の並々ならぬ造詣の深さが子供だましのお化け屋敷とは異なる存在感を与えてくれる。

また芸術論に加え、これも正統派といえるオカルティズムの系譜がたどられる。これら衒学的趣向は作者のこの作品に対する力の入れ方を示すものであって、重厚感をくわえるものの勿体をつけた嫌味はない。錬金術、不老不死の霊薬、聖杯伝説、マグダラのマリアやキリストの末裔、ボティチェルリの「春」そっくりの絵画に隠された謎、異端の象徴「薔薇」などなどの本格オカルトノベルにはなくてはならないガジェットが燦然とちりばめられている。そう、ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』の薀蓄を面白く読まれた方ならおそらく本書もどこかに共通の楽しさを見出すはずです。

さらに陰惨な純血主義というナチズムの狂気がどす黒く貫かれている。ここは皆川博子『死の泉』と同様のモチーフがある。世界制覇のために歴史に隠された霊力の根源を探索する滑稽なナチスでもあってこれは「インディ・ジョーンズ」でもあり奥泉光『鳥類学者のファンタジア』の世界に通ずる。

決して付け焼刃で集めたパロディのごった煮というたぐいではない。読み手次第でさまざまな楽しみ方を見つけられる作品だ。かなり欲張った意匠をほどこした意欲的な作品だと思う。

ただ、終結がはなはだグロテスクである。いささかやりすぎではないか。
グロテスクではすまされない後味の悪さを免れない。
同じような読後感をもたれる方は多いのではないだろうか。
とにかくもっと話題になっておかしくない問題作である。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村




テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
篠田真由美 『アベラシオン』正統派のオカルティズムそしてゴシックロマンでもある 日記風雑読書きなぐり/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる