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zoom RSS 村上龍 「希望の国のエクソダス』アナーキーなエネルギーの爆走に希望を託せるか?

<<   作成日時 : 2005/07/11 21:46   >>

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『なんとなくクリスタル』という私などは薄っぺらいとぐらいにしか思わなかった小説で文壇デビューした男が県知事になって絶大な人気を集めている。しかし、有力支持者の中ですら「あいつはまだ作家にしか過ぎん。政治家ではない」と批判の声を大きくする人が少なくないと………、さもありなんと納得しつつ、一方で「ドラッグ、セックス、ロックンロール」とかいった安手の風俗を扱ったかのごとき小説『限りなく透明に近いブルー』で芥川賞を受賞した男が最近はインターネットの世界でわが国の政治・経済・社会構造を憂え、特に教育問題について一家言を有する存在となり、多くの層に対する情報発信者として、影響力も備えていて、最近『半島を出よ』がヒットしている。その村上龍がだいぶ前にに発表した同じく近未来小説『希望の国のエクソダス』を読むべしと、『されどわれらが日々』時代の友人にすすめられた。

近未来を描く経済小説・情報小説にも見える。だいたい元官僚とか、元日銀マンとか元アナリスト、元ファンドマネージャ、経済評論家とかの手になる、日本経済が沈没しそうな近未来小説(警世の書などと持ち上げられる)の氾濫がある。ブームの先鞭をつけた榊東行と名乗る覆面作家の長期信用銀行の破綻を描いた『三本の矢』、発売直後に読んだことがあるが、どうも現実経済の中で真剣に生きているものを冷笑しあるいは揶揄する、疲労感だけが残る後味の悪さがあってそれ以降この種の小説は敬遠するようになった。

『希望の国のエクソダス』もプラザ合意以降の日本経済の凋落を国際経済論、国際通貨論、あるいは国際資本市場の変貌、巨大投資ファンドの分析などから解説するのにかなりのページ数をさいている。そして円の強化策、円通貨圏の拡大、近未来下に日本を盟主とする新アジア共栄圏構想とアジア通貨基金の創設を実現するストーリーが一つの軸になっている。しかし彼はそのような戦略を否定も肯定もしていない。彼は自分が文学者であり、作家である立場を忘れていない。その限界の中で注目すべき「現代の寓話」を創作したのだと思う。そこで好感を持ってこの作品を読み終えた。久々に日本を語る、しかも明るい夢をみさせてくれる小説を読んだ。さっぱりした読後感を持った。私の敬遠する経済論はこの寓話を語るに必要な道具として意味があるにすぎない。

アジア諸国を取り込んだ円経済圏が成立したのを待っていたかのように巨大投資ファンドはアジア通貨をターゲットに猛烈な通貨投機を仕掛ける。やがて円は大暴落し日本は国家破綻の事態に追い込まれる、そのとき、登校を拒否し、インターネットで集合した80万人の中学生が膨大に集積した情報をもってこの通貨危機から日本政府を救うのである。彼らはネットビジネスで資金を蓄積し、国際的規模の情報網を構築していく。そして彼らは独自の通貨を流通させる経済圏を北海道につくり、移住、既成社会からのエクソダスをすすめていく………。

不登校生徒の蔓延や今も続くイジメ問題。希望を失った教育の現場。彼は真剣にこの問題を憂え、一般社会に問題提起をし、昔で言えば不良少年たちにあたたかい目を向けている文化人なのだろうと思う。彼の発信するネット情報がそれを物語る。その視点が強く反映した、よくできた物語である。

既成の秩序を否定する、政治が権力を実現する装置である事実を無視する、本源的欲望・見えざる神の手にゆだねる富の配分ルールを「公平化する」、それがこの寓話に登場する中学生のエネルギー源とされているようだ。アナーキーなエネルギーの爆走が希望の国を実現するおはなし?原始共同体では今さらユートピアを実現はできまい。昔々「全共闘」というエネルギーの暴走があったななどとうがった見方をしてみたくなる………そういうところもあってよけいに面白かった。

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
現在は18年前の「愛と幻想のファシズム」以降の作品を読んでいまして、実は10冊以上の感想が溜まっています。その中で「希望の国のエクソダス」が最も優れていると思いました。
これに匹敵するのは「五分後の世界」くらいでしょうか。
最新作「半島を出よ」は未読ですが、梗概を見る限り面白そうですよね。そのうち読みたいと思います。
読者A
2005/10/08 23:55
TBさせていただきました。
そして丁寧なコメントまで頂きまして、
本当にありがとうございます。

僕は村上龍氏に対しては、
とても真面目な方なのだなあ、
という印象を抱いております。

物事に対して真摯な姿勢で接して考える、
それがたとえSMや暴力やドラッグであっても。

作品中に登場する実質彼らが作った野幌市、
それがその後どのようになったか、
そのことにとても興味があります。

>アナーキーなエネルギーの爆走に
>希望を託せるか?

託したい気持ちはありますが…。
過去の失敗例もありますし…。

それではまた。
ごきげんよう。
T.Sato
2007/12/23 04:50
TSatoさん
コメントありがとうございました。
村上龍の作品はこれがはじめでしたが、とても好感が持てました。
『半島を出でよ』も過激な寓話でしたが読み応えがありました。
よっちゃん
2007/12/23 09:42

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