北方謙三『水滸伝』第十六巻「馳驟の章」大波乱の前兆か (再掲)

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「原典水滸伝」をうわまわる天衣無縫の大活劇はなくなってきたような気はするが

第十五巻に引き続き、新たな激動への転換を予知させる踊り場にあって、宋国、梁山泊双方とも軍事力を養いつつにらみ合いの均衡が保たれている。講和工作も虚虚実実のところは滲むが本格化する次巻以降が楽しみだ。宋国中枢を牛耳ってきた影の勢力青蓮寺、その首領袁明に対する梁山泊特殊部隊の作戦が第十五巻の見せ場になっている。宋禁軍の元帥童貫が最強の部隊を率いていよいよ表舞台に現れる。ただし、個々の豪傑たちのエピソードに精彩がなくなった。豪傑たちばかりでなく、宋側にある異色の人物がみなその強烈だった個性が薄らいでいく。なかにあって女真族への浸透工作を任ぜられた愛すべき英雄、武松と李逵の活躍だけが光っているだけだ。梁山泊の大義・替天行道、それは読者をも魅了したものであったが、いまや風化しつつある。

これまで読者を楽しませてくれたところの「原典水滸伝」を下敷きにした英雄豪傑たちの波乱万丈はもはや期待できない。物語は北宋崩壊に向けた歴史的事実に限りなく近づいていくからだ。満州からモンゴル平原を支配する契丹族の中央集権国家・遼。北宋時代に国境侵犯を繰り返す最強の夷敵である。その遼にあって王朝の支配に反目する大部族女真。女真族と連携を深めようとする梁山泊。いよいよ武松と李逵の前に女真族の若者・阿骨打(あくだ)が登場する。大波乱の前兆を見た気がした。

宋国にとっても梁山泊にとっても最大の課題は「外交問題」となって風雲急を告げる。ここで私は興味津々として「原典水滸伝」よりも北宋末の史的事実と比較しながらこの大河小説の帰趨を見つめていきたいと思う。

世界史の年表にはこうある。
1115年:女真族の阿骨打が金を建国
1125年:金、遼を滅ぼす。
1126年:靖康の変、金が北宋を滅ぼす。
武松と李逵とがよしみを通じた若者はやがてこういう人物に成長するのだ。

北方謙三の創作した梁山泊という集団は女真族へと合流して北宋を滅ぼすのであろうか。尊皇攘夷の旗の下に改めて結集し、外敵に立ち向かい北宋と運命を共にするのだろうか。
いやいや北方のロマンはそんなものではないだろう。
視点は変わっても面白さは変わらない。ますます目が離せなくなってくるぞ。


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