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zoom RSS 村上龍 『半島を出よ』下 私には受け入れがたいところがあった。

<<   作成日時 : 2005/12/26 14:15   >>

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北朝鮮軍の侵略に対し拱手傍観、ていたらくの日本に村上龍は暴力には暴力でと迎え撃つ二十人ほどの少年集団を設定している。20歳にも満たない少人数のシロウトが500人の軍隊を翻弄するのだから、この荒唐無稽の戦闘ディテールだけでも娯楽性たっぷりでひきつけられよう。

13歳で父が死体を埋める現場を目撃した少年は殺傷用のブーメランを操る。母親が父親を刺殺し、あずけられた施設に放火して4人を焼殺した少年は空調配管のエキスパート。手首が自傷痕だらけの少年はテロリストの研究家。同級生の女生徒を殺害し切り刻んだ少年。新幹線をハイジャックし日本刀で車掌を殺害した少年などなどが500人の軍隊に戦争を挑む。ここでも村上は<大量殺人を目的として国家が組織し鍛錬した暴力>と、もともと<人間性の根源にあるものを剥き出しにした因子としての暴力>を対比させている。
ところでこの少年たちはすべてわれわれ一般人の常識からは猟奇的殺人事件をおこすおそれのある変質者なのだ。薄気味の悪い若者の殺人・暴行へとむかうエネルギーがぐずぐずとたまっているのもいまの日本であろう。村上はこの妖しげなエネルギーを擬人化して集中発揮させる。殺人・暴力が制度として正義の行為とされる事態を人命は地球よりも重いとされる日本に現出させて若者たちの狂気の殺人エネルギーとぶつける、このひねった発想こそが村上龍の本領発揮であろう。
ここで北朝鮮の「邪悪の暴力」と日本の「正義の暴力」を対比させたなどと誤解する人はいないと思うが、センセーショナルな題材だけにちょっと心配になる。

心配になるものの、わたしは村上龍は 『希望の国のエクソダス』を読んだだけなのだが、「少年」にこころから大きな期待をかけている人間なんだと思う。それはごく当たり前の「大人」の期待なのだがホッとするものだ。『希望の国のエクソダス』でも既成観念を排除したいわば新型ニヒリスト少年群の理知と言おうか、テクノロジカルな才気が日本の危機を救うオハナシだった。
ここに登場する少年たちに対してもその暴力因子発症には彼らの親の人でなしの狂気が原因であることを描いて寛容だ。

そして北朝鮮の戦士たちに潜む<人間としての根源にあるやさしさ>が同時に書かれている。父親から教えられた命の尊さを忘れられぬ者がいる。思考や意思の働きではなく人間に共通した感性の働きに心は奪われるものだと気づく。遠い昔の家族団らんの幸福感にふとわれを忘れる。北朝鮮軍の非道を抗議する老人の高潔さ胸を打たれる心がある。そこには村上らしいヒューマニズムへの憧憬を見いだすことができる。
平和を念仏するばかりの民主主義国家にある「暴力性」と恐怖の独裁国家にある「人間愛」を摘出しているところを見逃してはなるまい。

ただわたしには神経を逆なでさせられる挑発的な印象はぬぐえず、受けとめがたいところが大きい。
なぜなら、北朝鮮、それは極東の火薬庫として今ある。 そして拉致問題、核開発、過去の清算と北朝鮮との国交交渉は膠着状態がつづいている。他人事で外交舞台を眺めている姿勢ではない。国民感情も喜怒哀楽に四分五裂しながら目をそらすことができず、だれもが日常にこの重たい事態を取り込んでいるからだ。

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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
ハラの座った自分なりの見解……村上龍はそんなものは持っていないと考えます。話題性を狙った、というのがわたしの意見です。
信じられないかもしれませんが、彼はこういう小説家なのだとわたしは思います。北朝鮮の脅威を利用して刺激的な小説を書きたかっただけ、ということです。
しかし、同時にこういうテーマを扱う小説家がいないのも事実です。
ノーベル文学賞受賞者の大江健三郎や、次期ノーベル文学賞受賞者と噂される村上春樹はこのような題材を取り上げることはありません(ノーベル文学賞取得に必須の『平和』をテーマにしたドキュメンタリーを書いたりはする)。
村上龍は良い意味でも悪い意味でも『バカ』というのがポイント。
保身や名誉には走らないが、受けを狙いたがるところがある。
日本文学界の問題児という印象です。
読者A
2005/12/29 16:56
村上龍の作品をたくさん読んでおられる読者Aさんからしかられたようです。ハラのすわった見解がなく受けを狙う作家だからこそこういう刺激的な作品ができる。そうでしょうね。
今年は政治をテーマにした小説では高村薫『新リア王』がありましたが、戦後60年の節目だったからでしょうか。失われたものを二つの作品が取り上げていて、印象的でした。
よっちゃん
2005/12/30 10:44
あまり重く受け取らないでください。
わたしはよっちゃん氏のエネルギッシュなブログのファンの一人ですから……。
むしろよっちゃん氏のコメントに刺激されて(「夏への扉」のことです)、来年はSFで行こう!と思っているくらいです。
来年も宜しくお願いします。
読者A
2005/12/30 20:20
ブログ見させてもらいました。面白そうな内容ですね。
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スターズ
2006/01/04 17:42
こんにちは。
他人と何一つ「共有」できない少年たちが、クライマックスで「恐怖」を「共有」するところなんかは、グッときました。
そして、エピローグで死んだ少年たちの名前が、カタカナではなく漢字になっているところは、彼らが、単なる「他人」ではなく「仲間」(は言い過ぎかな)となったんだな、という印象を受けました。
長編で苦労しましたが、読みごたえある大作でした!
最後に、「平和を念仏するばかりの民主主義国家にある「暴力性」と恐怖の独裁国家にある「人間愛」を摘出しているところを見逃してはなるまい。」というよっちゃんさんのご指摘。なるほど、と思いました。
さっと
2007/09/03 11:28

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