速水敏彦 『他人を見下す若者たち』 時代遅れの発言と見下されても言っておきたいことがある

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ごく最近のことだ。滅多にないことだが、身近にいる若者の何人かと個人的な就職問題でいささか深刻な会話をした。その体験から本著を読んでみる気になったのだが、直後のせいもあってひとつひとつの分析結果がいちいちもっともだと思われてならなかった。
その後、ある大企業の部長職に
「最近の若者はキレるそうだが職場で実際そうか」
とたずねてみた。
「仕事上でキレて問題をおこすことはありませんね。結構一生懸命にやってくれますよ。ただし、相当なストレスがかかっているでしょうから、職場を離れたところでキレまくっていることはあるかもしれませんね。『2ちゃんねる』に上司やトップを名指しで『死ね』と悪口雑言、誹謗中傷をぶちまける社員は結構いますから」
と怖いことをおっしゃる。

「仮想的有能感」。
自分以外はみんなバカだといつのまにか思いこんでいるのだという。そう思いこむことで一時的に自分の体面を保ち、個を主張し、誇りを味わうことができる。厳しい競争社会についていけないものが身につけた必須の自己肯定感だそうで、哀れな心情と言えなくもない。ところがそのままに落ち着いてはいない。自分がいちばん偉いのだから罪の意識は希薄になり、劣等な大衆から気に入らないことをされると一瞬キレる、むかつく、さらには殺傷するところまで発展する。たしかに思い当たる事件は多発している。

「自尊感情」の低下が加わり、彼らにはヤル気がなくなっていることも指摘している。
子どもや若者たちが大きな志を抱こうにも、周りにモデルとなる大人が存在しない。現実には存在しているのかもしれないが、彼らが憧れを持つようなコミュニケーションがうまくなされていないのだろう
と大人には耳が痛い。
貧しさから豊かさへ。権威主義から民主主義へ。宗教の衰退。集団主義から個人主義へ。著者はこの日本文化の大きな流れがこれを助長していると分析し、その流れは変わらないのだから、このままに世代が進めば仮想的有能感が悪循環的に繁殖するだろうと危機感を訴えている。

仮想的有能感を断ち切る方法として著者は
「本当の意味でのしつけの回復」
「自分を価値のあるものと感じ、ありのままの自分を尊敬できるという、自尊感情の強化。具体的には一定の役割を与え、それを遂行させるという経験を積ませること」
「多くの人たちに直接触れ、実際に自由にコミュニケーションできる場を増やすこと」
をあげている。

さて著者の速水敏彦氏は名古屋大学の教授で教育心理学が専門である。
学者先生の著者はこの三つの解決方法を子どもの教育として家庭、学校に期待している節がある。ところが一方ではすでに家庭や学校がその能力を喪失していると実感しているのだから、提言は迫力が欠け、むしろ本書全体の印象は悲観的であった。
たしかに家庭や学校に期待するのはそれこそ、百年河清を待つであって時間切れである。

その教育をやれるのは企業しかない。
といえば、
「そういう人間を生んだ元凶こそ企業のビヘイビアではないか」
との反論があろうが、私は新入社員の教育にこそ三つの視点を組み込むべきだと思うし、それはいまこそ可能なのだ。

会社は一握りの投資ファンドのために存在するという市場原理主義の悪夢から覚醒した。今年の入社式、トップの発言では「原点回帰」「倫理」がキイワードだった。会社は社会のために存在する。働いている人間が誇りをもてる会社でなければならない。企業の価値は株式時価総額ではない、真の価値を追求する企業の社会的役割について再認識宣言である。

会社は人である。仮想的有能感を持つ新入社員には現実的有能感をもてる人間に育っていただこう。経営側がこの本を読めば、マニュアルで即戦力をつけるのはいいが、それだけではすまないことに気づかされる。そしてちょっとコストがかかるが、甘ったれの新入社員に家庭や学校が放棄した人格教育をその社内において叩き込むと覚悟せざるをえないだろう。

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この記事へのコメント

2006年04月08日 17:21
こんにちは。読者Aです。
思うに想像力の欠如もあると考えます。
こうしたら後にこうなるということを考える能力が欠けている。

尊敬する先輩に凄いですねと告げると、彼らが決まって俺なんて大したことないよと言われたことが多く、人は自分がダメだと思っているうちが花だと考えています。
わたし個人は最近同世代の40前後の人に頭に来ます。
地方ということもあって就職事情が大変なのか、若い子達は従順ですが(笑)。

2006年04月10日 10:02
コメントありがとうございます。
「国家の品格」とか「下層社会」とかこれも含めてあまり読まないジャンルなのですが、訳ありで読んだところ、あまりに悲観的な論調なので、ちょっと過激に書いてみました。
きちんとした自己評価ができないのは「若者」だけの問題ではないのでしょうね。
シロウト社会学者
2006年05月01日 06:17
この本おもしろかったですねえ。でも他人を見下すのは若者だけとは限りませんよね。
世のおばさん連中やオヤジ連中も他人を見下す人がいっぱいいますよね。
他人を頭ごなしに否定する人は大人や老人の中にもいっぱいいますよ。
いまの日本人の6割くらいの人々は仮想的有能感をもっているのでは? とわたしは考えるのですが。
2006年05月01日 09:23
コメントありがとうございました。
確かに私自身も他人を見下すと言うか、面罵する場合がありますね。自分ではこれまでの経験を踏まえて、きちんと自己評価した上での発言のつもりでいますが、うまい塩梅になっているとは限りませんからね。
ただ他人から非難されたからといって、消化不良のままにいわゆるキレルってことはしたくありません。
きゅうちゃん
2006年05月14日 16:23
私の知人の会社では「他人を見下す若者たち」を読んで感想文を提出しなければならないらしい・・・。しかし、数ある中でなぜこの本なんだろうか?私の知人は新入社員でもなければ、キレル人でもない。会社に貢献している一人であるが、その知人はこう言う。「仮想的有能感」の人は自分では気付かないと、記されているが、この本を選んだ上司がまさに「仮想的有能感」人物であると言う。

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  • 第37回「他人を見下す若者たち」速水俊彦

    Excerpt: たしかに他人を見下してるヤツ多いですね、僕らの世代は。根拠のない自信に溢れてます Weblog: 本読む知のコビト racked: 2007-04-11 17:26
  • 他人を見下す若者たち(書評)

    Excerpt: 他人を見下す若者たち (講談社現代新書)を読む。石原まこちんの漫画にひかれて購入したこの本。講談社と小学館のコラボレーションが一番のミソだった。 Weblog: blog50-1 racked: 2007-07-27 10:38