伊坂幸太郎 『ゴールデンスランバー』 初めて読んだ伊坂幸太郎
伊坂幸太郎の作品をはじめて読んだ。「ゴールデン スランバー」とは極上のまどろみを指すもの。子守唄でビートルズのアルバムにもあると解説されているが作品のテーマとどうかかわっているのか私の感覚ではわからなかった。
「戦後ほぼ一党独裁を貫いてきた労働党から離党し自ら自由党を立ち上げた………」
という一節をみて、労働党?自由党?コリャなんだ。首相は公選制?戦後初めての自由党首相が生まれる?そして凱旋パレードの最中ラジコンヘリから爆弾を投じられ暗殺される。暗殺の背景が各方面で推測され、そのドタバタ振りが描写され、これは佐藤賢一『アメリカ第二次南北戦争』の日本版で現代日本の政治を皮肉る内容かなと期待もあったのだが、実は著者はそんな社会的視点を持ち合わせていませんよとあえて宣言しているのだな。登場人物たちもどうやらそんなことはどうでもいい姿勢であって、読んでいてそのあたりのことが段々に判ってきた。
凱旋パレードのその時宅配ドライバーの青柳雅彦は旧友の森田森吾から、
「君は首相暗殺の実行犯に仕立て上げられる、すぐに逃げろ」
といわれる。その直後森田は殺される。首相暗殺犯にされた青柳は秘密警察から命を狙われる。狙撃命令が出ているのだろう追っ手は人ごみの中でやたらにショットガンを発砲してくる。街のいたるところに設置されている「セキュリティポット(精巧な盗聴装置つき監視カメラ)」の網の目をかいくぐり、訳のわからぬまま、とにかく逃げる、逃げる。追う側も追われる側も軽口をたたきながらの命のやりとりだから、ちょうどコミカルな香港製アクション映画のようだ。そのうちなんとかなるだろうってな調子だから読み手としてはなんとも緊迫感がないマンハントストーリーだ。「伊坂幸太郎のエッセンスを濃密にちりばめた、現時点での集大成」とうたい文句にある。なるほどこういう作風でベストセラーになっているのか。
青柳には森田のほかに小野一夫、樋口晴子の学生時代の友達がいる。卒業後八年になるが大学では「青少年食文化研究会」の仲間だ。
「ファーストフード店に集まってあまり意味のない雑談を店の奥で、だらだらと時間を費やしそれがとても意味のあることに感じられた。」
私の四十数年前だが似たようなところがあったなぁと思いつつ、でもあの時は端から意味がないのをわかっていて、無理にこじつけることなくそのままを楽しんだのではなかったか。生きていくってことにもっとギラギラ脂ぎったところがあって、青柳君たちとは大きく違っていたような気がする。………などとちょっと感傷的に、若やいだ気分になって読み進む。
友達の小野さん 樋口さんだけでなく花火屋の轟社長 同業の前園さん、見ず知らずのホームレスなどなどたくさんの人たちに助けられ青柳君の逃避行が続く。首相暗殺の容疑者を助けるのだから相当大きなリスクを抱え込むはずだ。しかし全員そんなことには無頓着に危ない橋を渡って青柳を励ます。そこで、浮かび上がるのが友情、信頼である。この絆を至高のものとするラストの盛り上がりは劇的である。
でも、本来、友情とか信頼で人間が固く結ばれるには一口では言えないいきさつがあるのだが、ここではそんな七面倒な経緯などは無しにして「人間が生きていくにはそれはとても大切なことですよ」と当たり前のことをひたむきに語りかけている。教科書的お題目と言えないことはないのだが、それでも語り口がうまいものだから、そうだそうだと実感して、感動させられる不思議な作品だった。
この記事へのコメント
よっちゃんコメントのさびこそ、彼の魅力と感じています。
ドスト/空海の風景/熊谷、またネット上でお会いしましたね!あらためて、宜しくお願いします!
アマゾンの書評は続けられていますか。
伊坂幸太郎はやはり若い人に受けるんでしょうね。三浦しをんの「さほろ便利軒」も最近読みました。これも足元が頼りない感じを受けました。近々アップします。
引き続きよろしく。
読み終わったら記事にしたいと思っていますので、遊びに来てくださいね。コメントありがとうございました。