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zoom RSS トム・ロブ・スミス 『チャイルド44』 あまりのサディスティックな描写に度肝を抜かれる

<<   作成日時 : 2009/01/01 00:21   >>

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盗聴盗撮装置を張り巡らし国民の私生活を徹底的に管理する未来社会。首相暗殺の犯人にでっち上げられた若者が警察に追われる。絶体絶命。危機一髪、友人の協力で逃れる。甘美な友情賛歌。伊坂幸太郎 『ゴールデンスランバー』は思想などとはおよそ無関係、饒舌の若者たちがドタバタする近未来ファンタジーであり、コミカルな香港製アクション映画のようだった。

国家権力によるでっち上げで犯罪者とされた男の逃亡劇としては似ているが、『チャイルド44』、これは激辛のリアリズム。スターリン統治下のソビエトを舞台にした身の毛のよだつマンハントチェイスストーリーである。これほどまでにどぎついサディスティックな描写が連続する小説にはいままでお目にかかったことがない。

冒頭の一節から度肝を抜かれる。寒村の飢餓地獄。もはや食物はない。ねずみはいない。猫もいない。一匹いた猫がこれも自分が食われると気づいて森へ逃げる。これを幼い少年が追い詰める。これを見ていた男が少年に襲いかかる。猫ではなく少年を食うために。スターリン統治下では飢饉により数百万人の死者がでたと聞くからそれはこんなこともあったはずだが、圧制の被害者である一般人を小説でここまで残忍に描かれると生理的に気持ちが悪くなるのは避けられない。

ジェイムズ・ボンドが罠に嵌ってどこまで真相を知っているかと拷問にかけられる、あるいは正義の一匹狼が悪党の指を切り落としながら金のある場所を吐かせる、これらはどんなに残酷であってもそれはそれだけである。だが『チャイルド44』は普通の市民を相手にしている。善良な人間を政治犯に仕立て上げるために加える自白強要の拷問シーンはスパイ冒険小説やハードボイルドサスペンスとはまるで違う。ここまでのリアリズムは必要ないのではないかとその惨さの表現に嫌悪感すら覚えるのだが、この捜査官、さらにその組織、そしてスターリン体制へ、読者としての憤りがいやがうえにも高まってくる。
恐怖政治 監視国家、秘密警察、密告システムなどなど知識としては持ち合わせているのだが、これらにより国民はお互い、夫婦、親子といえども疑心暗鬼、見ざる聞かざる言わざる、生きている心地がしない毎日………などが克明に描かれ、読めば肌でこの恐怖を実感することになる。

「犯罪は資本主義の欲望がなすものであり革命後のソ連には犯罪は存在しない」ゆえに44人もの幼児殺人事件はありえない。あると主張する人間は国家に対する反逆だ。………とする「国家と犯罪の理論」が成立していることが、このミステリーの大前提なのだ。が、いくらソ連だからと言ってやや無理のある前提ではないだろうか。だが、ミステリーには虚構の約束事は許されるし、まあいいだろう。

国家保安省(KBGの前身)の敏腕捜査官レオ・デミドフは彼を蹴落とし出世を狙う狡猾な部下ワシーリーの計略(レオの妻はスパイであるから告発せよ)にはまる。二人と彼の家族は生きていられなくなる過酷な状況に追い込まれるのだが、なぜか片田舎の民警へ追放されるにとどまった。だがそれは死よりも苦痛を強いるワシーリーのサディスティックな処置であった。レオは広域で少年少女が同じように猟奇的手口で惨殺されていることに気づく。だが殺人事件の存在しないのがソ連だから、これらはいずれも事故として扱われていた。
国家に対する反逆罪と烙印を押されたレオ。ワシーリーの繰り出す捜査網。見つかれば殺される絶体絶命の危機また危機。だがレオは訓練を積んだ有能な諜報員でもあり殺しのプロでもある。レオと妻は生き延びるためのあらゆる手段を駆使して逃げる、逃げる。そして連続殺人鬼に肉薄していく。

アクション冒険小説につきものの「痛快な」ではない。「過酷・冷酷な」バイオレンスアクションの連続技、リアル感も凄い。ミステリーとしての仕掛けも成功しており大いに堪能できた。


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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
よっちゃん、こんにちは。
「チャイルド44」と「グラーグ57」をいっぺんに読みました。どちらも面白かったですが、家族の話がメインだったので「グラーグ57」のほうが読みやすかったです。「チャイルド44」のほうがショッキングな描写が多かったですね。
「グラーグ57」の分はまだ感想を書いていないので、後ほどまたトラックバックします。
みのり
URL
2010/05/06 10:44
みのりさんこんにちは。
最近は過激な暴力を扱う小説が目立ちますね。そういう小説では『犬の力』がとんでもなく残酷でした。あまりお勧めしませんが。
よっちゃん
2010/05/06 16:33

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