連城三紀彦 『造花の蜜』  造花の蜜の妖しい香りとは?

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しっとりとしたムードが漂い、しかもトリッキーなひねりの新作ミステリーを読みたいと思っていたところで連城三紀彦の『造花の蜜』が目にとまった。

「造花」といえば技巧の美、虚飾であり、虚栄である。「蜜」といえば女王蜂であり男をとろかす媚薬である。「造花の蜜はどんな妖しい香りを放つのだろうか………」とあり、なんとなく期待にぴったりの作品に思われた。

小川香奈子へ、息子の圭太が蜂に刺されて救急車で病院に運ばれたと、幼稚園の女性担任・高橋先生を名乗る女性から通報があった。香奈子は父の経営する印刷工場の従業員・川田に運転を依頼し、幼稚園を訪ねる。それが偽電話であり、これが誘拐であることに気づかされる。そして本当の高橋先生から恐怖する事態を告げられたのだ。圭太クンはあなたに渡した。先ほど車で迎えにきた香奈子と川田へ圭太を渡したのだと。
事件の発端でこれほどトリッキーな謎の提起はめったにお目にかかれない。いったいこういう状況はどうしたらありうるのだろうと早くも私の頭はうれしくなる混乱に陥れられた。

察が登場し、周囲の人物から事情聴取が行われる。離婚した香奈子が現在同居している、父母、兄夫婦。元夫の歯科医、歯科医院の近隣住人などなど。そしてそれら登場人物が嘘を言っているか、あるいは本当のことを言っていないか、伏線とはまったく関係ない余計なことを言っているのか。刑事も含めて全員が怪しく思われてくる状況を著者は作ってくれる。やがて二重三重に仕組まれた身代金の受け渡し。誘拐テーマの最大の山場が待ち受ける。物語はその後いわゆる倒叙形式で、犯人側の視点で述べられ、ここに表面の犯行とは様相を異にする意想外の裏面が明らかにされていく。

読み終えて、著者の全体に仕掛けたトリックがユニークで緻密なものであることは理解できる。ただ、緊張が持続するのは身代金受け渡しのシーンまでであって、妖しい香りなどはどこからも感じられず、あとは論理のお遊びに退屈しながらつきあったとの印象が免れない。「造花」、あまりにも本物(現実)からかけ離れた作り物である。繰り返される警察の不手際も常識外れのひどいものだし、いくつもの偶然が重なれば、なるほどこんな「完全」犯罪もありうるかもしれないなぁ………と。著者のご都合主義の連続技に開いた口がふさがらない。

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  • 『造花の蜜』連城三紀彦

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