真保裕一 『デパートへ行こう!』 懐かしさあふれる涙と笑いの傑作の人情劇

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真保裕一らしからぬ、エクスクラメーションマークがついているタイトルからして軽いのりだなと第一印象!『ホワイトアウト』や『奪取』という代表作のイメージからすれば真保裕一の新境地である。そしてわれわれ初老族にとっては実に楽しい小説でした。デパートが子供の遊び場であったことを覚えている世代ならこの作品の絶妙な味わいをかみしめることができそうだ。

僕が田舎の小学生のころ、夏休みとかで東京にいる両親のところへ遊びにいって、母親にデパートというところへ連れて行ってもらえるとうきうきしていました。屋上の遊園地外国映画に出てくるような乗り物がたくさんありました。そのころはデパートの屋上は高くて東京の街がよく見えました。エレベーターでも制服の御姉さんがニコニコと、上がったり下りたり繰り返しても叱られなかった。そのうちエスカレーターという遊び場もできました。
あなたを待てば雨が降る、あなたと私の合言葉~~~フランク永井の『有楽町で会いましょう』が「そごう」のコマーシャルソングで、「そごう」の入り口は見えないカーテンとかいわれ、行ってみると、天井からの空気の流れで外気を遮断しているらしいのですが、なるほどと感心したりして。あの「そごう」は「ビックカメラ」に身売りしたんだった。

デパート産業が斜陽化してずいぶんと経つ。
別にデパート産業の盛衰と相関関係はないだろうが、人と人とのつながりの要となっていた「人情」が風化してどのくらいになるのだろうか。どうもこの作品は失われたものを懐かしく、しみじみと思いださせる働きがあるようだ。
曽祖父がこの地に呉服屋を開業して今年で百年。老舗百貨店として今なお皇室に商品を納めさせていただいている。店に品物を並べておけば、黙っていても端から売れていく時代はあった。が、もはや老舗の看板ひとつでは立ち行かない荒波のただなかにある
東京駅近くのデパート.鈴善が舞台だ。売り家と唐様で書く三代目。三代目の父で屋台骨が揺らぎ、4代目ボンボンの矢野純太郎はやがて吸収合併される運命を背負って社長にまつりあげられた。

46歳、格差社会の落ちこぼれ、妻子に見放されたホームレス。
なにからなにまで真っ暗闇よ、筋の通らぬことばかり~~~と哀れな男・加治川が死場をもとめたか、あの懐かしいデパートへ。

29歳、このデパートになにやら恨みをもったかの女性従業員。
女の女の女の意気地、捨てた夜空にひとり行く~~~とばかりに、真穂は途方もない復讐を企てているのだろうか。

高校生のコージとそのガールフレンドのユカ。
ちっちゃな頃から悪ガキで15で不良と呼ばれたよ~~~ではなかった、金持ち家庭のコージがなにかオヤジのことで頭にくることがあったらしく家出して、その面当てにハチャメチャしたいとデパートへ。

署の機密費に手を出した元警察官。
夢をなくした奈落の底でなにをあえぐか影法師~~~と、塚原はヤクザに刺され、血まみれでデパートへ逃げ込んだ。

47歳、矢野純太郎。
時世時節が変わろうとままよ、ジイサマたちは男じゃないか~~~と、鈴善社長の矢野は曽祖父、祖父のモットー「お客様第一主義」を念仏するが市場原理主義に基づくビジネスモデルは描けないまま、内紛と不祥事で追い出される寸前にあった。ところが大切なお客様の落し物?を発見して………。

47歳、反社長派の佐々岡祐也、このセクハラ野郎もまたなぜか深夜のデパートをうろつく。

警備員の下っ端・赤羽信。
男純情の愛の星の色、さえて夜空にただひとつ~~~と真穂ちゃんを慕う、、元は優秀な正社員だったようだが………。

そしてこれぞ警備員の鑑、まさに愛社精神の権化。戦災孤児だというから、アラコキというところか。
義理と人情を秤に掛けりゃ義理が重たい男の世界~~~を地で行く化石人間・半田良作である。

かくして深夜のデパートは大混乱という大型喜劇が幕を開ける。暗闇の中で誰かと誰かがぶつかり合うたびに上等の寸劇が繰り返され笑いが生まれる。
やがて、登場人物たちの哀しい過去が明らかにされ彼らの本当の人間性が見えてくる。そしてバラバラに見えた事態は読者の予想をこえた展開をたどり一点にフォーカスされ始める。

ラストも立役者・半田良作、浪花節的でグッとくる。
腕と度胸じゃ負けないが、人情からめば、ついほろり………としてしまった。

「デパート業界のあるべき姿を本書は示している」とか「企業再生を活写」とかそれはどうかな。現実はもっと冷酷でしょうからね。
失ってはじめて再生不能に気づく。
夢がない明日がない人生は戻れないだからお互いないものねだりの子守唄~~~であることがわかってしまった私たち世代の心には懐かしさがジワ~ッと染みてくる作品ではないだろうか。

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  • 真保 裕一 著 『デパートへ行こう!』

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  • デパートへ行こう!

    Excerpt: 舞台は鈴膳という創業100年を迎える老舗デパート。その閉店間際から翌朝までの半日の物語。つまりほとんどが閉店後の、本来なら人がいない時間帯のデパートでの一夜の出来事。そこに、リストラされたサラリーマン.. Weblog: 本読みな暮らし racked: 2010-02-15 17:45
  • デパートへ行こう<真保裕一>-本:2010-27-

    Excerpt: デパートへ行こう! (100周年書き下ろし)クチコミを見る # 出版社: 講談社 (2009/8/26) # ISBN-10: 4062157217 評価:80点 本当に真保裕一が書いたのだろう.. Weblog: デコ親父はいつも減量中 racked: 2010-05-04 09:21
  • 書籍「デパートへ行こう」今どきデパートって言われてもねぇ

    Excerpt: 書籍「デパートへ行こう」★★★ 真保祐一 著、講談社 (1,680円、378ページ )                     →  ★映画のブログ★                      .. Weblog: soramove racked: 2010-08-27 07:32