テーマ:ミステリー

船戸与一 『満州国演義9 残夢の骸』 氏の訃報と同時に読了した畢生の大傑作

満州国の誕生から崩壊まで。五族協和の夢が骸としてさらされるまで。侵略を美化する八紘一宇の驕りと欺瞞が完膚なきまでに叩きのめされるまで。「満州国演義」はここに完結した。3月には日本ミステリー大賞を受賞している。 読み終えた昨日のこと、日経紙夕刊に病床にあっても元気な様子の船戸与一さんへのインタビュー記事が掲載されていた。 今回も北…
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篠田節子 『長女たち』 どの家族にも起こりうるありふれた地獄

身近にある恐怖である。だから、どうしても自分や自分の家族を重ね合わせてしまう。70歳を超えた私と妻だけの家庭。まだ結婚していない40歳を超えた長女とほどほどの家庭をやりくりしている次女はそれぞれ独立している。お互いの母親はまだまだ生きられそうにして老人ホーム暮らしだ。老人ホームだと言って家族の手はかかるものであり、100歳近い私の母…
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黒川博行 『破門』 チンピラ二人組がボケ、ツッコミの凸凹漫才 気のきいたコンゲームかと思っていたら 

黒川博行の『悪果』は傑作だった。その黒川が直木賞ということで手に取った次第。映画製作への出資金を持ち逃げされたヤクザの桑原と建設コンサルタントの二宮。失踪した詐欺師を追い、邪魔なゴロツキふたりを病院送りにした桑原だったが、なんと相手は本家筋の構成員だった。組同士の込み合いに発展した修羅場で、ついに桑原も進退窮まり、生き残りをかけた大勝負…
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辻原登 『寂しい丘で狩りをする』 本編よりもエピソードが面白い 辻原の作品だからそれもよい

           『花はさくら木』『円朝芝居噺 夫婦幽霊』『許されざる者』『闇の奥』『韃靼の馬』『冬の旅』と読んできた。時代小説、文芸ミステリー、歴史小説、冒険小説、現代文芸。分類はあまり意味がないが、辻原登、常に新しいジャンルに挑戦して、その作品は読者の期待を裏切らない。 今回はクライムノベルだ。殺人の前科がある性格破綻者…
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坂東眞砂子 『瓜子姫の艶文』  瓜子姫とは?おかげ参りとは?伝承・伝習に翻弄される女の生

坂東眞砂子氏は今年1月、出身地である高知県の病院で死去された。55歳、早すぎる他界が惜しまれます。 氏の作品を初めて読んだのは2001年、『狗神』。日本に古くから伝わる憑物伝承をしっかりと消化して、現代の農村に甦らせた怪奇パニック物語。近年流行した都市伝説型ホラーやSF的ホラーとは一線を画して、日本的な土着型ホラーというべき傑…
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TBSドラマ『MOZU 百舌の叫ぶ夜』の緊張感、スピーディな展開がたまらなくいい

NHKドラマ『ロング・グッドバイ』も翻訳ものハードボイルドドラマとしては見逃せない連続ドラマだが、この逢坂剛原作の『MOZU 百舌の叫ぶ夜』もハードボイルド調の雰囲気が魅力だ。かなり前に読んだ原作だから、間違っているかもしれないが、ドラマよりは高度で複雑な伏線が仕掛けられていたような気がする。ドラマも登場人物のそれぞれの背景をフラッ…
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宮部みゆき 『ペテロの葬列』  生き延びるために嘘をつき、しかし、嘘を背負って生きてはいけないペテロ

この前に読んだ宮部みゆきの作品は聖書から引用した「ソロモン」で、実を言えば『ソロモンの偽証』の意味が不明だった。今回はやはり聖書ゆかりの「ペテロ」であるが「ペテロの葬列」の意味するところは作品中で示唆されている。 ペテロはキリスト十二使徒の筆頭であり、イエスの死後、パレスチナ・小アジア・ローマで伝道し、ネロ帝の迫害により殉教したと…
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京極夏彦『書楼弔堂 破曉』  明治という時代の憑き物を落とす傑作の短編集 まさしく著者の新ジャンルだ

わたしは京極夏彦の作品をよく読んでいた。読んだ作品を整理するとこんな具合である。 ① 妖怪変化がもたらすかのような奇怪な事件を「京極堂」こと中禅寺秋彦が「この世には不思議な事など何もないのだよ」と見えを切って合理的に解決する推理小説シリーズ。 『姑獲鳥の夏』(1994年9月)、『魍魎の匣』(1995年1月)、『鉄鼠の檻』(1996年…
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船戸与一 『満州国演義8 南冥の雫』 70年前になにがあったか?深く重くこの歴史を受けとめたい。

挿絵の地図を見れば一目瞭然、戦火は太平洋全域と東南アジアへと広がっていた。 昭和16年12月日本軍は真珠湾攻撃とマレー沖海戦により米英に打撃を与え、東南アジアの各地を急襲して太平洋の制海権と制空権を掌握した。昭和17年に入り、フィリピン進攻作戦、マレー侵攻作戦を皮切りに、半年間に西はビルマに至る広大な地域を占領した。そして次郎…
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桜木紫乃 『無垢の領域』 緻密な構成に舌を巻く、二度読みして初めて浮かび上がるもうひとつの物語

さる10月末、日本美術界で権威のあるといわれる日展の「書」で有力会派に入選数を事前に割り振るスキャンダルが報じられた。毎年1万人以上が応募する国内最大の公募美術展なのだが、芸術界も内実は欲得がらみでこんなものなのかもしれない。 結果としてタイミングがよかったのだが、『無垢の領域』も「書」の全国公募展・「墨龍展」、その大賞受賞を…
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中村文則 『去年の冬、きみと別れ』 巧妙に紡ぎあげた叙述トリックと純文学性は両立しえたか?

中村文則の作品だから、いつものように、他人や世間や世界と折り合いつけられない屈折した人間たちを描いている。『土の中の子供』 『掏摸(スリ)』を読んでいるが、わたしはこういう病的傾向の作品は好みではない。 とはいえ、著者は 「芥川賞、大江健三郎賞受賞、LAタイムズ文学賞最終候補、ウォールストリート・ジャーナル2012年ベスト10小…
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西木正明 『水色の娼婦』 第二次大戦下のドイツに仕掛けられた甘い罠のゆくえ

プロローグは、1990年。著者その人ではないかと思われる「わたし」が壁崩壊後のベルリンを訪ね、市民生活を取材するところから始る。「わたし」の出会った老女エヴァ・ミツ・ロドリゲスが語るのは第二次大戦下のドイツを舞台にした諜報活動の追憶であった。 父はアルゼンチンの海軍大佐、母は日本人の娼婦。日本で妊娠した母はアルゼンチンに渡り、19…
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堂場瞬一 『Sの継承』 彼は愛国者だったのか、それとも単なる狂人なのか、

堂場瞬一は警察小説の分野で大活躍中ですが、本著はこれまでの作風とは異なる新境地だそうです。わたしは初めて手にする作者です。50年の時を超え繋がる二つの事件 1963年、五輪前夜に人知れず計画されたクーデター。2013年、警察を翻弄する連続毒ガス事件 時空を超えた二つの事件を繋ぐミッシングリンク「S」と紹介されれば、これは大型のク…
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百田尚樹 『永遠の0(ゼロ)』 「小説」であったにしろ、これは語り継がれるべき戦争体験の「記録」だ

百田尚樹の作品はこのところ、刊行のたびに話題になるので目につくのだが、今まで読んだことはなかった。『永遠の0』は2006年の作家デビュー作で、いまなお高い売り上げを続けている。零戦戦闘員の物語で若い層にも読まれているようだから、ご多分にもれずゲーム感覚で空中戦を演じるカッコイイヒーローのお話と思い込んでいたら、ある人からそうではなく、と…
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長野慶太 『神隠し』 空港で子どもが消えた。大掛かりなトリックでうならされるが、その動機は?

このところ出版社がスポンサーとなった懸賞小説の応募が目立つ。本作も第4回日経小説大賞受賞作。著者の長野慶太氏は在米16年で、対米進出企業をクライアントとするコンサルタントだそうで、いかにも日経らしい受賞者だ。日米の法制度、習慣、風俗等多面的に両者の相違を紹介し、へぇ~そんなことがと、読者の興味をひきつける情報がたっぷり織り込まれている。…
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藤圭子の人生と『ラブレス』

歌手の藤圭子さんが22日午前、東京都新宿区のマンションの高層階から転落し、死亡した。62歳だった。 警視庁新宿署は飛び降り自殺を図った可能性があるとみて慎重に調べている。 赤く咲くのは けしの花 白く咲くのは 百合の花 どう咲きゃいいのさ この私 夢は夜ひらく 十五 十六 十七と 私の人生 …
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小野不由美 『残穢』 山本周五郎賞を受賞できるホラーとはどんなものかと興味があった。

小野不由美の作品は二作読んでいる。 『屍鬼』は現代の寒村を舞台にした作品であったが、日本の民俗信仰にはなかった吸血鬼伝説、ゾンビ伝説を大胆に取り込み、当時は新機軸の「ホラー」として充分に楽しめた。 その後、2001年に読んだ、 『黒祠の島』だが、「推理」小説と銘打った作品のわりには、横溝正史風の古臭いセンスで、現実感の欠落が目…
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辻原登 『冬の旅』 現代という煉獄を彷徨するすべての人に捧げる鎮魂歌

時代と運命に翻弄されるだけで、私たちは、明日を選択する途が閉ざされているのだろうか。現代という煉獄をさまよう群像を描いて、救いはあるのかと大胆な問題を提起する。 2008年6月8日、5年の刑期を終えた緒方(1970年生)は滋賀刑務所を出所する。5年前、事件をおこした自分を確認するかのように、大阪のあちこちをせわしなく、徘徊する緒方。「…
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真保裕一  『ローカル線で行こう!』  元気の出る企業再生小説のはずであったが………

真保裕一の代表作といえば『ホワイトアウト』『奪取』だと思っていたから、エクスクラメーションマーク「!」がついている 『デパートへ行こう!』 はタイトルからして、これまでのイメージからすれば新境地と言えた。そしてデパートが子供の遊び場であったことを覚えている世代はこの作品の絶妙な味わいをかみしめることができた。 『ローカル線で行こう…
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今野敏 『疑心 隠蔽捜査3』 あくの強い主人公、やや角が取れたら、ただの人

約束の時間よりもだいぶ早くに、待ちあわせ場所に着いたようなときに、手持ち無沙汰を読書で紛らわそうとしても、たまたま持参していない時がある。そんな時には近場にある本屋で買い求めることになるのだが、そういう場合の本は軽く読み飛ばせるものに限る。 隠蔽捜査シリーズは第一巻、第二巻を読んでいるので、その雰囲気はおおよそ見当がつくから、まさにこ…
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葉室麟 『蛍草』 軽快にすすむ娘の仇討、剣あり笑いと涙の恋愛人情噺でもあるのだが………

日経の書評欄で絶賛されていたのが記憶にあって、『蜩の記』以来、久しぶりの葉室麟だった。葉室麟は武士社会のしがらみから抜け切れない人物たちの織りなす文字通り命がけの恋あるいは忍ぶ恋など、峻烈の生き様に宿るぬくもりがじんわりとわたしら年代のものの胸に染み入る………大人の純愛を描いては数少ない名手でもある。 ただこの作品は 「『爽快…
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桐野夏生 『ハピネス』 私が全く知らなかった「ママ友」の世界を皮肉たっぷりに切り込んだ快作

女性の自立………。 『柔らかな頬』 『OUT』 『ダーク』 『グロテスク』 『魂萌え』  『東京島』とこれまでもぎょっとさせるストーリーで女性の自己実現を描いてきた著者であるが今度はどんなタイプの女性かと興味津々で手に取りました。 どぎつい描写はないフツーの主婦の目覚めで、どちらかと言えば『魂萌え』系統ですね。でも「フツーの主…
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奥田英朗 『沈黙の町で』 沈黙だけがすべてではないぞ。甘ったれるな子どもたち!

イジメが過激化すればたとえ少年とはいえ、もうこれは犯罪として処置することになってしまう。警察の出番!と、かつては隠蔽体質と指弾された学校だって、今はそうなりつつある。だから、暴行・傷害罪、傷害致死罪、脅迫・恐喝・強要罪、自殺教唆罪などなどで日常茶飯事のごとく新聞の社会面をにぎわしている。宮部みゆきの『ソロモンの偽証』では生徒たちの勇気あ…
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高村薫 『冷血 下』 思索の人・合田刑事に真実は見えたのか?人は虚無の世界にどう生きるべきか?

井上克己と戸田吉生は歯科医の一家四人を惨殺し、キャッシュカードと貴金属880万円相当を強奪、ATMにて現金12百万円を窃取した。取調べに対して、事実関係は認めるものの、殺意と動機については 「殺すつもりはなかった」 「金が欲しかったのではない」 と一貫しており、肝心なところは皆目不明のままに取調べは推移する。 ぐっすりと眠り…
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ダシール・ハメット 『マルタの鷹』 ジョン・ヒューストン監督 ハンフリー・ボガード主演の映画をみた。

つい先日のことです。NHKでジョン・ヒューストンが1941年につくった傑作といわれた白黒映画『マルタの鷹』を観ました。サム・スペードに扮したボガードは原作の雰囲気を出していました。 ミステリーなど読まない家内が 「かっこいいセリフを言うのね」。 「だいたいハードボイルドはこういうきざなセリフを使ってみたくなる男が好むミステ…
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高村薫 『冷血 上』 あの合田雄一郎はさらに深まる闇の中になにを見るのだろうか?

飾り帯には 「この身もふたもない世界は、なにものかがあるという以上の理解を拒絶して、とにかくある。俺たちはその一部だ。」 となにやら難しそうであって、それはいかにも高村の作品らしく、硬質の存在感を主張するがごときで、端からゾクゾクさせる鋭さで迫ってきた。そしてクリスマス前夜の『一家四人殺し』………数多の痕跡を残しながら、逃走する…
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横山秀夫 『64 ロクヨン』 組織の壁に立ち向かう孤独の魂、あの横山秀夫の完全復活だ

『半落ち』 『クライマーズ・ハイ』のエッセンスをさらに濃厚に味付けしたフランス料理のフルコースは腹にずしんとこたえます。 昭和64年にD県警で起きた少女誘拐殺人事件は「64ロクヨン」と呼ばれている。身代金2千万円が奪われ、少女が死体で発見された事件は未解決のまま、14年が過ぎた。 三上警視は刑事部・捜査2課の次席であった…
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宮部みゆき 『ソロモンの偽証 第Ⅲ部 法廷』 この世の不条理に少年・少女たちはどう向き合ったか。

中学校の屋上から墜落した男子生徒の遺体が発見され、警察は事故死と断定しました。ところが………とこの物語は始ります。それぞれが700ページを越える全三巻。とにかくミステリーとしては破格の長さで、重量級では圧倒させられる大長編小説でした。 「第Ⅰ部 事件」ではミステリーの核である謎のフレームワークが示され、謎解きのための条件が示されま…
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高村薫 『黄金を抱いて翔べ』 高村文学の原点をここに見た

映画化され、11月には公開されるという。高村薫の作品で映画化されたものがあったろうかと首をひねる。これが氏のデビュー作であるにもかかわらず、わたしは読んでいなかった。 いまさらではあったが、途方もなく新鮮な衝撃を受けた。これほどリアルで暴力的でシリアスで魅力的な大型の犯罪小説だったとは知らなかった。しかも不条理の世界で生きる人…
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宮部みゆき 『ソロモンの偽証 第Ⅱ部 決意』 中学生たちの無垢な正義感が燃え上がった?

「第Ⅰ部 事件」のラストは「そして学校は汚された。ことごとく無力な大人たちにはもう任せておけない!」と決意するところでした。ヒロインの文武両道で学級委員・藤野涼子ちゃんです。 「第Ⅱ部 決意」は「保身に身をやつす教師を見限り、学校内裁判を開廷する。期限はわずか15日」ということです。 悪いのはオトナ。良いのは子ども。ひどく単…
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