テーマ:文学

フェルディナント・フォン・シーラッハ 『禁忌 TABU』  もやもやの核心をどうとらえるべきか?

飾り帯の宣伝文句には「ラストに明かされる衝撃の結末」とあり、前作の『犯罪』がとても魅力的な犯罪小説であったため期待をして手に取った。いくつかの出版社が企画した昨年度傑作ミステリーの上位にランクされている。 取りつく島のないもやもやの核心を読者としてはどうとらえたらよいのか?魅力的な文体に迷走させられながら、ゼバスティアン・フォン・エッ…
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滝口悠生『死んでいないもの』 なんともはやわかりにくい作品だがわかりにくいから芥川賞作品なのだろう

この作品、文体が奇妙なリズムを奏で、とらえどころのないストーリーの流れが、登場人物たちの織りなす意識の交錯を凹凸のない時空に描いて、なんともわかりにくい芥川賞なのだが、わかりにくいから芥川賞なのかもしれない。人は誰でも死ぬのだから自分もいつかは死ぬし、次の葬式はあの人か、それともこの人かと、まさか口にはしないけれども、そう考えることをと…
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追悼 ガルシア=マルケス 『百年の孤独』 17日、コロンビアのノーベル賞作家が亡くなった

1967年発表の長編『百年の孤独』は、架空の都市・マコンドを舞台にした開拓者一族の百年の歴史を夢幻のごとく描いて、マジックリアリズムの傑作とされた。ノーベル賞作家だから、難解であるとの先入観から敬遠していた作品だったが、チャレンジ精神とヤジウマ根性で2011年6月に読んでみた。その時の印象であるが…… 大作家の死を悼んで、再掲します。…
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藤野可織 『爪と目』 なにがなんだかわからないうちにジワリとホンモノの恐怖にすくみあがる

第149回芥川賞受賞作である。普段は掲載された月刊誌「文芸春秋」の発売を待って読むのだが、「ホラー」だとの評判に、ものめずらしさから、単行本を買って読んだ。そういえば、前回の『abさんご』も単行本を買ったっけ。あれは「ひらがな・横書き」が特徴になっているとのことで、「文芸春秋」の掲載ではそれがうまく表現できるかと心配だった。でも最初…
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桜木紫乃 『ホテルローヤル』 著者らしい切り口で現代の風俗を語る直木賞にふさわしい作品だった

桜木紫乃が直木賞を受賞した。いくつかの作品を読んでいたものだから、期待していたこともあり、早速手にした次第。『起終点駅 ターミナル』がそうだったが、短編集の構成には特に工夫を凝らしている作家で、本著もその工夫が充分に活きている作品だった。 > 湿原を背に建つ北国のラブホテル。「非日常」を求めて、男と女の扉は開く第一話ではこのラブ…
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小川洋子 『ことり』 著者は「小さな、ひたむきな幸せ」を小父さんに贈ることができたのだろうか。

小川洋子の作品を読むのは初めてです。映画の『博士の愛した数式』を見ただけですが、記憶障害の特異な人格とその家で働くシングルマザー。二人の交流を爽やかに描いたとの印象があります。映画ということでしたが、人間全般に優しいまなざしをもった作家だと思っていました。 飾り帯にはこうありました。 小さな、ひたむきな幸せ 世の片隅で 小鳥…
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高村薫 『冷血 下』 思索の人・合田刑事に真実は見えたのか?人は虚無の世界にどう生きるべきか?

井上克己と戸田吉生は歯科医の一家四人を惨殺し、キャッシュカードと貴金属880万円相当を強奪、ATMにて現金12百万円を窃取した。取調べに対して、事実関係は認めるものの、殺意と動機については 「殺すつもりはなかった」 「金が欲しかったのではない」 と一貫しており、肝心なところは皆目不明のままに取調べは推移する。 ぐっすりと眠り…
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高村薫 『冷血 上』 あの合田雄一郎はさらに深まる闇の中になにを見るのだろうか?

飾り帯には 「この身もふたもない世界は、なにものかがあるという以上の理解を拒絶して、とにかくある。俺たちはその一部だ。」 となにやら難しそうであって、それはいかにも高村の作品らしく、硬質の存在感を主張するがごときで、端からゾクゾクさせる鋭さで迫ってきた。そしてクリスマス前夜の『一家四人殺し』………数多の痕跡を残しながら、逃走する…
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高村薫 『黄金を抱いて翔べ』 高村文学の原点をここに見た

映画化され、11月には公開されるという。高村薫の作品で映画化されたものがあったろうかと首をひねる。これが氏のデビュー作であるにもかかわらず、わたしは読んでいなかった。 いまさらではあったが、途方もなく新鮮な衝撃を受けた。これほどリアルで暴力的でシリアスで魅力的な大型の犯罪小説だったとは知らなかった。しかも不条理の世界で生きる人…
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鹿島田真希 『冥土めぐり』   冥土で身悶える亡者が救われるとき………信仰の起源か

芥川賞受賞作であるが、エロ・グロ・バイオレンスを際立たせた最近作品とは違うことだけでもホッとさせられる。奈津子の夫・太一は結婚してまもなく脳を患い手術を受けた。奈津子は頭の働きが鈍麻し、四股が不自由になった夫を介助している。パートで貯めたお金で奈津子は一泊二日の小旅行に連れ出す。東京から新幹線で近い距離の観光地。一泊5000円の区の保養…
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カルロス・ルイス・サフォン 『天使のゲーム』 20世紀初頭、呪われたバルセロナを語る第一級のエンタメ

2007年に読んだ前作 『風の影』のバルセロナは1945年だった。嫉妬、憎悪、不信、裏切り、暴力のなかで、人々の善意、友情、愛の絆のたくましさを、繊細、流麗な文体で高らかに歌い上げていた。特にスペイン文芸文化の光と影を象徴するかのように人知れず浮かび上がる「忘れられた本の墓場」は強烈な印象を残した。「忘れられた本の墓場」シリーズとな…
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原田マハ 『楽園のカンヴァス』 絵画芸術を愛する著者の情熱が生んだ本格絵画小説の傑作

2歳の孫娘がマジックボードを持参して、アンパンマンの絵を描いてくれとせがむ。アンパンマンやドラエモンなどをかわいらしく描くことなんてできやしない。せいぜいヘヘノノモヘジかツルニハマルマルムシ。ジイジの絵はへんですねと毎度のことだ。とにかく子供のときから絵画芸術に関しては人並み以下のセンスでしかなかった。だから『楽園のカンヴァス』がア…
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桜木紫乃 『起終点駅 ターミナル』 どん底で生きる男と女が求め合う究極の安らぎとはなんであるのか?

桜木紫乃の『ラブレス』 『凍原』。私のようなまもなく70歳になろうかという年代にも共鳴できる作品だったので、最新作を読んでみたいと、ネット本屋で注文したところ、これは6つの短編集であった。本は読むものの短編はあまり読まない性質なのでちょっと気落ちした。だから第一話の「かたちないもの」を読んだ限りでは、仮想の恋愛ごっこで無理矢理「…
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高樹のぶ子 『マルセル』 距離をおいた親子だった。父とは?を知らない、その娘が辿る父という男の真実。

作家はいわゆる純文学で書けないものを推理小説に書くことがある、とだけいっておこう。これは大岡昇平氏の言である。『事件』で第31回日本推理作家協会賞を受賞した大岡昇平は古くからの推理小説ファンで、自分でもなんどかこのジャンルにチャレンジしてみたものの及第点がとれなかったのだそうだ。この受賞は意外だったらしのだが、それでも「やっと一人前…
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水村美苗 『母の遺産 新聞小説』 家族のしがらみを冷静なメスで暴き、しかも優しいまなざしが一貫する

この数年、小説あるいは映画、テレビドラマには、親・子や夫・妻を軸として「綻んでしまった不幸な家族の新たな出発」をテーマにしたものが溢れかえっていた。ほとんどの作品が再起、再生、明るい明日を展望する感動生産型のものであった。そこでは、やさしく暖かい「絆」という言葉が万人の心を癒す呪文のように共通して浸透しつつあった。そして東日本大震災…
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メルヴィル 『白鯨 モービィ・ディック 下』 エイハブVS白鯨。両者の見せる絢爛たる「悪」の競演

博覧強記で鳴るウンベルト・エーコの作品は「百科引用大小説」と言われた。ぼくにとってそれは百科事典を傍らに置いて首っ引きにしないと理解し得ないという、とんでもないしろものだった。 メルヴィルの『白鯨』であるが、とにかく鯨に関する種類、生態、分布などの分析的・分類的記載の詳述がいたるところに現れる。博物誌的な話題ばかりではない。解剖学…
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帰宅途中で夜空を見上げれば

金星と木星の間に三日月が入り込んで一直線になっていた これは珍しい現象に違いないと 家のベランダから最近買った一眼レフで撮影したみた 三脚はまだ買っていないので手振れ覚悟で いろいろな操作で試し撮り 一応こんな風に撮れました 18:56 しかし、我ながら下手ですね 目下読書中の『白…
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メルヴィル 『白鯨 モービィ・ディック 上』 イシュメールが語った酷薄の世界にわが国の混乱を見る

小学生だったぼくが読んだ『白鯨』は児童向けに模様替えされた作品だった。当時は日本人作家の手になるオリジナルの新作児童文学は影を潜めており、たいがいは海外の古い作品であり、その中に大人の読む小説を子供向けに書き直したものがたくさんあった。ほとんどは大人になってから読み直したものだが、『白鯨』だけは今になるまで手をつけることができなかっ…
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田中慎弥 『共喰い』 母親の実在感が光る性と暴力の芥川賞受賞作

芥川賞と直木賞の違いってのはなんなんだ? と飲み友達からきかれた。 純文学と通俗小説の違いだと思うんだが……… とあいまいに答えたら おまえもいい加減な奴だな、純文学と通俗小説に境目はないだろう。 と、もっともな反論がかえってきた。 そこで 芥川賞は文芸雑誌に発表された作品で、まだ単行本になっていない、つまり売れていな…
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五木寛之 『親鸞 激動篇』 「鬼神を敬してこれを遠ざく」の親鸞。専修念仏の布教の前に立ちはだかる障壁

死後の世界など無頓着であり信仰に救済を求めるなどまったく考えられない私ですが、実際には大勢の人が神仏に祈りをこめる向き合い方をしている。科学万能の現代でなお科学者のなかには真理の究極に霊的存在を認める方がおられる。身の回りを見れば、私だって墓参もすれば葬儀もあるという具合に日本人の生活様式に深く組み込まれている。また政治や国家、民族…
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皆川博子 『開かせていただき光栄です』 完璧な本格探偵小説と上等のユーモア文学が融合した傑作

皆川博子氏の作品は『死の泉』『薔薇密室』『伯林蝋人形館』を読んでいた。いずれもナチズムの狂気をエロチックにグロテスクに描いた耽美・幻想の世界で、あまり後味がいい作品ではなかったとの印象がある。 ところが、びっくりしたことにこのジャンルとはまったく違うのだ。今回の『開かせていただき光栄です』は上等の本格探偵小説である。18世紀ロンド…
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三浦しをん 『舟を編む』 ライトノベル風だが一気読みをしないで、辞書を片手に楽しもう

楽しい仕掛けがいっぱいあるぞ。ライトノベル風で一気読みはできるのだが、それではあまりにもったいない。辞書を片手に寄り道しながら、言葉の世界を逍遥しましょう。 玄武書房に勤める馬締光也。営業部では変人として持て余されていたが、人とは違う点で言葉を捉える馬締は、辞書編纂部に迎えられる。新しい辞書『大渡海』を編む仲間として。定年間近のベ…
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志水辰夫 『みのたけの春』 冒険小説の第一人者が円熟した筆で語る若者のいきかた

志水辰夫といえばハードボイルド・冒険小説界の第一人者だったのだが、このところ時代小説に転じたらしい。ダイナミックなこれまでのイメージとは異なって『みのたけの春』、相当に渋い。この作品を読んだあとで、1936年生まれと知ってびっくりした。私よりも8歳も年上のオジイチャンだったのだ。なるほど、「若者の生き方のひとつ」として、多分にアナク…
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吉田修一 『平成猿蟹合戦図』 あのなつかしいお伽噺を現代日本に再現すれば………

お伽噺「猿蟹合戦」といえば私たちの年代なら誰でも知っている懐かしい昔話です。 ところで私たちが子供時分はこのお話からどういうメッセージを受け取っていたのでしょうか。 また、仮に私たちが現代の子どもたちに向かってこのお話をする場合、どういうメッセージをこめればよいのでしょうか。 私は「弱いものたちが力をあわせて強いワルモノをやりこめ…
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桜木紫乃 『ラブレス』 流されるままの哀しい人生 昭和女の一生が最後に見せる真実とは?

時の流れに身をまかせた浮き草の人生、あまりに哀しい昭和女の一生………とお膳立ては古めかしいのだが。「しあわせ」の尺度をひくりがえしてみえてくる生きることの値打ちには、漂流する現代の精神に対する力強いメッセージが込めれれている。 馬鹿にしたければ笑えばいい。あたしは、とっても「しあわせ」だった。風呂は週に一度だけ。電気も、ない。…
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吉村昭 『桜田門外ノ変』 史実を丹念に積み上げ、桜田事変の実相に肉薄する歴史小説の傑作

「桜田門外の変」とは安政7年(万延元年・1860年)、雪降る江戸城お堀端で水戸藩士たちが井伊大老を襲撃し暗殺した事件である………と。それだけでなく安政の大獄、無勅許の開国など独断専行に対する制裁だった………程度は誰もが知っている著名な事件である。 先日出会った山田風太郎『魔群の通過』はその4年後の1864年の天狗党の乱であったが、こ…
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フェルディナント・フォン・シーラッハ 『犯罪』  異常な犯罪と向き合う弁護士が描く裁判制度の光と闇

弁護士の著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの哀しさ、愛おしさを鮮やかに描く連作短編集。文学賞二冠、45万部突破の欧米読書界を震撼せしめた傑作一生を愛し続けると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の息子。羊の目を恐れ、眼球をくり抜き続ける伯爵家の御曹司。彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれた…
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ヨハン・テオリン  『黄昏に眠る秋』 スウェーデン・エーランドの憂愁たっぷりの傑作ミステリー

スウェーデンのエーランド島。 地図を見れば、スカンジナビア半島を海龍に見立てたとき、デンマークを飲み込もうとする下あごの付け根にコバンザメのように張り付いて見える細長い島だ。現在、南部の農業地帯は世界遺産に指定されている。島の北部がこの物語の舞台になる。西に本島を眺望するいくつかの村落があるが定住人口は数少ない。ストックホルムの小…
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奥泉光 『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』 抱腹絶倒とはこのこと!なんでこんなに可笑しいの?

「にやにや、にたにた、くすくす、くすり、げらげら、ははは、ふふふ」 ページを繰るごとにこれだから、電車で読んでいるとつい周囲が気になる。これほどいくつものわらい方で笑える小説にはめったに出会わない。とにかく可笑しくてたまらないのだ。 ところでヒトだけが「笑う動物」だとの説があるそうだが、どういう場合に笑うのだろうかとふと考えると…
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G・ガルシア・マルケス 『百年の孤独』  廃墟と化したマコンドは復活するだろうか。現在の日本を予言?

いつかは読みたい、むしろ読んでおかねばならないと思うような重量級作品はいくつかあるのだが、手ごわい!と怖気が先行し、なかなか手が出ない。これはそのひとつだった。 コロンビアのノーベル賞作家。ラテンアメリカ文学ブームの先駆け。 「20世紀後半の世界文学を物語の奔流で力強く牽引した」 といわれる作品だと、この程度の知識しかなかった…
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