テーマ:文芸

松永富士見 『魂の一行詩 バレンタインデー』  10年の集大成に見る高校同期生の素顔

松永富士見さま 句集『魂の一行詩 バレンタインデー』の刊行、おめでとうございます。 素晴らしい十年の集大成ですね。 タイトルにある「魂」とは全人格であり、全宇宙のことでしょう。これを短い言葉で表現することは並大抵ではありませんが、あえてタイトルにしたところに、居住まいを正しあらためて俳句と向き合おうとする松永さんの気迫が伝…
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篠田節子 『長女たち』 どの家族にも起こりうるありふれた地獄

身近にある恐怖である。だから、どうしても自分や自分の家族を重ね合わせてしまう。70歳を超えた私と妻だけの家庭。まだ結婚していない40歳を超えた長女とほどほどの家庭をやりくりしている次女はそれぞれ独立している。お互いの母親はまだまだ生きられそうにして老人ホーム暮らしだ。老人ホームだと言って家族の手はかかるものであり、100歳近い私の母…
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桐野夏生 『だから荒野』 リアルで奥深い専業主婦論と現代家庭論

桐野夏生の2005年の傑作に『魂萌え!』がありました。家庭を守り子どもを育て、地域と仲良く付き合い、働く夫を支えてきた59歳の専業主婦。夫が定年になって突然死したことをきっかけに新たな人生をきりひらく決意を固めるという女性の自立を描いて、同世代の男性の読者ですらその潔さに敬服したものです。 今回の『だから荒野』も根っからの専業主婦…
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木内昇 『櫛挽道守』  幕末、木曽山中の宿場町、櫛職人の家族がそれぞれの思いに生きた感動の足跡

櫛挽の技の詳細が紹介されるが、口絵を用いた解説はないからはっきりとはイメージできないのだが、初めて知らされた世界だけに興味津々、俄然ひきつけられた。 舞台である藪原宿は中山道の宿場町である。現在は長野県木曽郡木祖村。ネット情報ではいまも特産品は「お六櫛」とされている。「くしひきちもり」、タイトルはあまり使われない言葉である。木製の…
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辻村深月 『島はぼくらと』 きらめく青春が夢みた離島再生のデザイン

1年以上も前になるが直木賞受賞作『鍵のない夢を見る』を読んだ。人間に潜む悪意や差別、嫉妬、異常、暴力などノワールな内面を今風に軽く、冗舌に描いたところが評価されたのかもしれないが、わたしのような年寄りには、夢と現実の区別がつかないバカモノたちの救いのない話で気分を悪くしただけだった。 ところが今回の『島はぼくらと』は「まぶしい故郷の物…
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梓澤要 『捨ててこそ空也』 事跡を丹念に積み上げ空也の実像に迫る

空也上人といえば念仏を唱える口から六体の阿弥陀仏が現れている鎌倉時代の写実彫刻像(表紙カバー口絵)を思い浮かべ、底辺大衆の救済を説く市井の聖………程度しか知らなかった。教団を組織した僧でもなく、自分の経歴や思想の記述も残さなかったので、学術的に分析が進んでいる人物ではない。全生涯を描いて空也の実像に迫った小説としてははじめての作品な…
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桜木紫乃 『無垢の領域』 緻密な構成に舌を巻く、二度読みして初めて浮かび上がるもうひとつの物語

さる10月末、日本美術界で権威のあるといわれる日展の「書」で有力会派に入選数を事前に割り振るスキャンダルが報じられた。毎年1万人以上が応募する国内最大の公募美術展なのだが、芸術界も内実は欲得がらみでこんなものなのかもしれない。 結果としてタイミングがよかったのだが、『無垢の領域』も「書」の全国公募展・「墨龍展」、その大賞受賞を…
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中村文則 『去年の冬、きみと別れ』 巧妙に紡ぎあげた叙述トリックと純文学性は両立しえたか?

中村文則の作品だから、いつものように、他人や世間や世界と折り合いつけられない屈折した人間たちを描いている。『土の中の子供』 『掏摸(スリ)』を読んでいるが、わたしはこういう病的傾向の作品は好みではない。 とはいえ、著者は 「芥川賞、大江健三郎賞受賞、LAタイムズ文学賞最終候補、ウォールストリート・ジャーナル2012年ベスト10小…
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佐藤賢一 『小説フランス革命11 徳の政治』 フランス革命の総決算というべき盟友同士の死闘

タイトルだが、「恐怖政治」といわれたロベスピエールの独裁と「徳の政治」という情緒的イメージが結びつかなかった。「徳の政治」といえば私らの世代なら孔子の政治観「徳治主義」であり、「法治主義」との対立概念を思い浮かべる。政治によって人民を教化し、法律によって人民を強制しようとする「法治」にたいし、道徳によって人民を教化し、礼によって人民を自…
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辻原登 『冬の旅』 現代という煉獄を彷徨するすべての人に捧げる鎮魂歌

時代と運命に翻弄されるだけで、私たちは、明日を選択する途が閉ざされているのだろうか。現代という煉獄をさまよう群像を描いて、救いはあるのかと大胆な問題を提起する。 2008年6月8日、5年の刑期を終えた緒方(1970年生)は滋賀刑務所を出所する。5年前、事件をおこした自分を確認するかのように、大阪のあちこちをせわしなく、徘徊する緒方。「…
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デニス・ルへイン 『夜に生きる』 凄惨な暴力を哀しく描いた実録風ギャングストーリー

アイルランド移民といえば当時は下層階級であるが、トマス・コグリンはボストン市警できわどい捜査活動も含めて警部にまでのし上がり、かなり裕福な家庭を築いた例外的な移民一世である。2008年に読んだ『運命の日』はその長男・ダニーを主人公に、アメリカの存在そのものにある矛盾を直接に語った社会史劇的な物語だった。そして最新作の『夜に生きる』は…
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熊谷達也 『烈風のレクイエム』 小説家は東日本大震災をいかに受けとめ、どう描くのか?

久しぶりの熊谷達也である。といっても『邂逅の森』と『氷結の森』を読んだだけなのだが、その作風があまりに鮮烈だったものだから、熊谷作品とはどんなものか勝手にイメージが出来上がっていた。人間もまた生きとし生きるものであって自然の摂理をありのままに受容すべきなのだ。自然を操作し支配しようとする人間の愚かさを忌避する主人公はいわば求道者であった…
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佐藤賢一 『小説フランス革命Ⅹ 粛清の嵐』 ますます面白くなってきたフランス革命の真実

サン・キュロットは多数者であり、貧しい。教養は低く、情緒的であり感情的である。富める者をうらやみ、買収や煽動を受けやすい。素朴で常識的で感動をよぶカッコイイ言葉には弱い。自分の言葉は持たないが、腕力だけはある。何が正義か不正義かを知らず、ただ直感的に「不正を正す」。近視眼的で付和雷同。烏合の衆と化して政策決定に多大の影響を及ぼす。 …
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佐藤賢一 『小説フランス革命Ⅸ ジャコバン派の独裁』  この内憂外患を共和政は救えるか?

パリのサンキュロットによる食糧暴動(1793年2月25日)から彼らの武装蜂起に至る同年5月31日までの詳細がこの一巻で語られる。バカバカしい党利党略に濃密な政治論が織り込まれて、興味はつきない。 内憂外患なんてなまやさしいものじゃぁない。複雑骨折で身動きができずまさに崩壊寸前のフランス国家である。その右往左往ぶりを笑い飛ばすように…
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桐野夏生 『ハピネス』 私が全く知らなかった「ママ友」の世界を皮肉たっぷりに切り込んだ快作

女性の自立………。 『柔らかな頬』 『OUT』 『ダーク』 『グロテスク』 『魂萌え』  『東京島』とこれまでもぎょっとさせるストーリーで女性の自己実現を描いてきた著者であるが今度はどんなタイプの女性かと興味津々で手に取りました。 どぎつい描写はないフツーの主婦の目覚めで、どちらかと言えば『魂萌え』系統ですね。でも「フツーの主…
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木内昇 『ある男』 明治維新とはなんであったのか?近代化の光が映し出す影絵の物語

明治維新とはなんであったか?当事者でないわたしらはなんらかの整理をしたうえで、あとづけの答えを出してみるのだが、そこに生きた人たちは整理する余裕などはなかったのだ。 分厚い農民層からなる社会を支配する核としての機構は「藩」であった。一般の人々からみれば一番えらいのはお殿様、一国一城の主であって、徳川家の将軍は眼前になかった。日…
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横山秀夫 『64 ロクヨン』 組織の壁に立ち向かう孤独の魂、あの横山秀夫の完全復活だ

『半落ち』 『クライマーズ・ハイ』のエッセンスをさらに濃厚に味付けしたフランス料理のフルコースは腹にずしんとこたえます。 昭和64年にD県警で起きた少女誘拐殺人事件は「64ロクヨン」と呼ばれている。身代金2千万円が奪われ、少女が死体で発見された事件は未解決のまま、14年が過ぎた。 三上警視は刑事部・捜査2課の次席であった…
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スコット・トゥロー 『無罪』 法曹のプロたちがしのぎを削る完璧なリーガルサスペンス

1988年に刊行された『推定無罪』の続編である。 と言っても、わたしは『推定無罪』を読んでいない。ハリソンフォード主演の映画は見ているが、実はこの記憶も定かでない。ただ、「推定無罪」という言葉に当時は奇妙な語感を覚えたが、このときしっかりと意味を認識したものだ。被害者の体内にあった精液の血液型がハリソンフォード演ずる主人公のサビッ…
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ボストン・テラン 『音もなく少女は』 不条理の世界を勇気で生き抜いた女たち

本著はふんだんに使われる比喩やアイロニーなどが抽象的で難解な言い回しであり、また直訳的硬さが気になる。そんな文体であるのだが、ゆっくりと進む物語によくあるいらだたしさ堪えながら、じっくり読んでいくと著者のメッセージの深い意味あいが見えてくる。 ニューヨークのブロンクスは現在でも治安の悪さが言われるところだが、この物語の1950…
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黒井千次 『高く手を振る日』 過去へとジャンプする老人の恋

読書好きの仲間の一人K君が酒の席でぜひ読むべしとすすめてくれた。宴席が終わって別れるときにも、長くないからすぐ読めるからと、手を振りながら念を押された。ところが作者の名前もタイトルも忘れてしまったのだが、執拗なまでの言い振りには何か理由があるはずだと気になっていた。たまたま「手を振る」だけは記憶にあって、本屋でそれを目にした時に、も…
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薬丸岳 『悪党』 被害者遺族はどうしても殺人者を赦すことはできないのだろうか。

裁判員制度がスタートしたからなのかどうか、最近の判決は被害者遺族の感情に寄り添う姿勢が色濃く反映されるという。このために従来よりも量刑が重くなる傾向があるのだそうだ。実際、被害者家族が裁判の席などで「極刑を望みます」との訴える報道を見聞きすることが多くなった。 本著『悪党』の原点にあるのが薬丸岳のデビュー作、江戸川乱歩賞受賞作であ…
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夏樹静子 『てのひらのメモ』 裁判員制度入門書として格好のリーガルサスペンス

今年の夏から裁判員制度による裁判が始まり衆目を集めている。『てのひらのメモ』は裁判員に選ばれた57歳の専業主婦・折川福美の視線で語られるリーガルサスペンスとして成功している作品なのだが、もし裁判員になったらどんなことになるのだろうかと考えている多くの人にとって、実際に役立ちそうな要点がいくつも盛り込まれている格好の裁判員制度入門書で…
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葉室麟 『秋月記』 地方小藩のお家騒動に見える現代の混乱

壮絶な死闘が繰り返されるエンタテインメントであるが、どうしても政治家たるものかくあるべしと現代に重ね合わせることになる、時代小説の傑作だ。 筑前秋月藩は独立した藩ではあるが福岡藩の支藩であって、藩政は折りにつけ福岡藩の介入があった。 冒頭の章は、隠居してなお隠然たる権勢を振るっていた間余楽斎が、藩主をないがしろにしたかどで流…
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山崎豊子 『運命の人 四』 歯切れの悪い幕切れ

山崎豊子の作品の『二つの祖国』と『大地の子』。それまでの業界内幕ものから大きく視点を変えた新ジャンルへの挑戦だった。二作とも「愛国心」が中心テーマだったが、無理強いされるそれではない。日本人であるがゆえに過酷な境遇にある者が祖国に抱く素朴な感情には胸を打つものがあった。そして不条理の中で信念を貫こうとする主人公がさまざまな困難に立ち…
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山崎豊子 『運命の人 三』 国家権力への怒りか?著者はいったいなにを訴えたかったのだろうか。

この小説に従って裁判の流れを追うと次の通り 1972年 5月 沖縄復帰。 1972年 6月 佐橋総理退陣、田淵内閣誕生 1972年10月 東京地裁、外務省機密漏洩事件初公判 1972年12月 佐橋元首相、ノーベル平和賞候補としてノミネート 1974年 1月 東京地裁一審判決。三木昭子元事務官、懲役6ヶ月執行猶予1年。  …
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山崎豊子 『運命の人 二』 これはモデル小説ではないとおっしゃるが………

毎朝新聞の弓成亮太は、昭和46年春、大詰めを迎えた沖縄返還交渉の取材中、ある密約が結ばれようとしていることに気づいた。弓成は外務省安西審議官の秘書・三木昭子事務官と「情を通じ」、彼女より極秘電文を入手、この事実を知る。公式にはアメリカが地権者に支払う土地現状復旧費用400万ドルを実は日本政府が肩代わりし秘密裏にアメリカに支払うと…
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山崎豊子 『運命の人 一』 10年ぶりの大作に飛びついた。

山崎豊子の作品はいつごろからか、新刊が出るたびに読むようになっていたから、この作品も内容はまったく知らないまま手に取った。 昭和46年、毎朝新聞政治部、外務省詰キャップ・弓成亮太。今でもそうだろうが新聞社では出世街道をトップで走る役職である。それだけの実績を上げている敏腕記者。昼となく夜となく、ゴルフだ宴席だ。相手の自宅で懇親の酒…
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篠田節子 『仮想儀礼』 宗教にある狂気と暴力

篠田節子の『弥勒』『ホーラ 死都』は宗教を通じた異文化コンタクトを扱った秀作だった。これは私たちの身近にある宗教をなまなましく描き出した異色作である。 作家になる夢破れ家族と都庁管理課長の職を失った鈴木正彦、不倫の果てに相手に去られホームレス同然となった矢口誠。すべてを失った男二人がネットで始めた金儲けのための新興宗教。古いマ…
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テレビドラマ夏樹静子の『量刑』が放映される。

2001年に読んだ。 来週 ドラマが放映される。 いまの裁判員制度ではない。 訴訟社会、判決主義、ますます多岐にわたりもめごとは裁判で白黒をつけることになる。 しかし、そこで夏樹静子『量刑』。殺人事件で死刑が無期か有期かを決定することが裁判長の理論構成しだいでどうにでもなるという恐ろしい状況を設定し、フィクションなら…
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三浦しをん 『光』 エロスとバイオレンスに新たなメスを入れた実験的小説

普段、読書とはおよそ縁のないご婦人から 「テレビで三浦しをんが過激な暴力とセックスで長編ミステリーを描いたと紹介されていましたが、読んでみたらいかが」 と無責任な注文を受けた。当人は中学生の異様に色気づいた描写の初めの十数ページが、ひどく現実離れしていて嫌気がさしたそうだ。かつての桐野夏生風、エロスとバイオレンスかな?と興味がひ…
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