テーマ:歴史小説

五木寛之 『親鸞 完結編 下』 善いも悪いも脇役が断然魅力ある五木流親鸞物語

南都北嶺のカネと権威と暴力、そして鎌倉幕府、さらには朝廷と既存の体制の総力を結集し専修念仏を根絶やしにしようとする覚蓮坊の陰謀。この奸計から親鸞を守ろうと死力を尽くす謎の女・竜夫人。若き日の竜夫人と青年親鸞の深い因縁とは?竜夫人を支える葛山申麻呂の血筋は? そしてついに再登場するサディスト。十悪五虐と自らうそぶき「信仰心などないこんな…
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五木寛之 『親鸞 完結編 上』 親鸞の悩みはさておき脇役が大活躍する痛快時代小説を楽しみましょう

これまでの仏教は、国を守るもの、朝廷の安泰を祈るものであり、貴族や高家のためのものだった。そして浄土に行けるものはチカラやカネのある者だけだった。ところが法然、親鸞は貧しい人や世間から卑しめられてきた人びとのためにこそ仏教はある、これまで救われない罪深い身だとされていたものにこそ仏の道があると説く。身分や財力にかかわりなく南無阿弥陀仏と…
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船戸与一 『満州国演義9 残夢の骸』 氏の訃報と同時に読了した畢生の大傑作

満州国の誕生から崩壊まで。五族協和の夢が骸としてさらされるまで。侵略を美化する八紘一宇の驕りと欺瞞が完膚なきまでに叩きのめされるまで。「満州国演義」はここに完結した。3月には日本ミステリー大賞を受賞している。 読み終えた昨日のこと、日経紙夕刊に病床にあっても元気な様子の船戸与一さんへのインタビュー記事が掲載されていた。 今回も北…
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皆川博子 『海賊女王 下』 同じ海賊女王でもエリザベスと違ってグローニャは孤独ではなかった

後には全世界の四分の一まで領土を拡張した大英帝国も、エリザベス一世治下のイングランドはまだ三流国だった。植民地を持っていなかった。植民地といえるような地域はせいぜいアイルランドぐらいであった。むしろフランス、スペインに圧倒されていた。エリザベス一世はそのイングランドの国家としての独立を確実にし、近代イギリスの基点を築いた女王といえる…
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皆川博子 『海賊女王 上』 まさに大冒険活劇の大衆小説 皆川氏のこの瑞々しいチャレンジ精神に脱帽

上下巻で1000ページをこえる長編小説である。 皆川博子氏、86歳とご高齢なのだが、この海洋冒険小説・海賊戦闘小説を文字通り血沸き肉踊るバイオレンス・アクション・サスペンス、まさに大娯楽作品に仕立て、さらに重厚な時代・歴史小説として完成させている………氏の筆力に驚嘆する。久々に出会った「理屈抜きに面白い」大衆小説だ。 『死の泉』の流…
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火坂雅志 『軍師の門 下』 一筋縄ではいかぬ官兵衛という人間の解釈

「調略」あるいは「調略する」とは策略をめぐらせて敵を自滅に追い込む頭脳戦のようで、正々堂々の横綱相撲とは正反対の語感がある。しかし、兵力の差がそのまま戦争の勝敗を決めるのであれば歴史に驚きはないし、まして小説としてはできの悪いものになってしまうだろう。 秀吉はもともと調略戦を得意としていたものだが、有岡城から生還した官兵衛を重用す…
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火坂雅志 『軍師の門・上』  中国地方攻略の詳細をわたしはあまり知らなかった。

この3月にサラリーマンを退職して50日が過ぎるが、なにが変わったと言えば、片道2時間の通勤時間がなくなったため本を読む時間がとれなくなったことだ。その分、なにやかやと忙しくなったが……。 わたしの古くからの友人に「小寺さん」がいるが、姫路の出身だから、官兵衛の主筋にあたる血縁かもしれない。 「軍師」といえば頭に浮かぶのは諸葛…
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船戸与一 『満州国演義8 南冥の雫』 70年前になにがあったか?深く重くこの歴史を受けとめたい。

挿絵の地図を見れば一目瞭然、戦火は太平洋全域と東南アジアへと広がっていた。 昭和16年12月日本軍は真珠湾攻撃とマレー沖海戦により米英に打撃を与え、東南アジアの各地を急襲して太平洋の制海権と制空権を掌握した。昭和17年に入り、フィリピン進攻作戦、マレー侵攻作戦を皮切りに、半年間に西はビルマに至る広大な地域を占領した。そして次郎…
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山本兼一 『利休にたずねよ』 茶聖・利休の生臭さを堪能しよう

山本兼一の『いっしん虎徹』では、一振りの刀に命をかけた刀工が著者に乗り移ったかのような凄まじい筆力に圧倒された。ところが直木賞受賞作の『利休にたずねよ』は茶道=地味な文化との先入観があって面白くなさそう………と、ずっと敬遠していた。余計なことだが最近の小説は文庫本の場合、映画化されると表紙カバーが主役のスチル写真に変っていて、手に取…
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梓澤要 『捨ててこそ空也』 事跡を丹念に積み上げ空也の実像に迫る

空也上人といえば念仏を唱える口から六体の阿弥陀仏が現れている鎌倉時代の写実彫刻像(表紙カバー口絵)を思い浮かべ、底辺大衆の救済を説く市井の聖………程度しか知らなかった。教団を組織した僧でもなく、自分の経歴や思想の記述も残さなかったので、学術的に分析が進んでいる人物ではない。全生涯を描いて空也の実像に迫った小説としてははじめての作品な…
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佐藤賢一 『小説フランス革命ⅩⅡ 革命の終焉』 革命は未完成に終わった。が、いつか必ず春は来るのだ。

第一巻「革命のライオン」を読んだのが2009年の5月だから波乱万丈の史劇を4年半かけて楽しんだことになる。全十二巻の大長編であったが、1789年から1794年まで、たった5年間の出来事であったことに気づけば、いかにも密度の濃い力作であったと感嘆する。 骨格の史実をもてあそぶことなく、人間を生き生きとして描く。さらに現代を風刺的に浮きあ…
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西木正明 『水色の娼婦』 第二次大戦下のドイツに仕掛けられた甘い罠のゆくえ

プロローグは、1990年。著者その人ではないかと思われる「わたし」が壁崩壊後のベルリンを訪ね、市民生活を取材するところから始る。「わたし」の出会った老女エヴァ・ミツ・ロドリゲスが語るのは第二次大戦下のドイツを舞台にした諜報活動の追憶であった。 父はアルゼンチンの海軍大佐、母は日本人の娼婦。日本で妊娠した母はアルゼンチンに渡り、19…
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佐藤賢一 『小説フランス革命11 徳の政治』 フランス革命の総決算というべき盟友同士の死闘

タイトルだが、「恐怖政治」といわれたロベスピエールの独裁と「徳の政治」という情緒的イメージが結びつかなかった。「徳の政治」といえば私らの世代なら孔子の政治観「徳治主義」であり、「法治主義」との対立概念を思い浮かべる。政治によって人民を教化し、法律によって人民を強制しようとする「法治」にたいし、道徳によって人民を教化し、礼によって人民を自…
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佐藤賢一 『小説フランス革命Ⅹ 粛清の嵐』 ますます面白くなってきたフランス革命の真実

サン・キュロットは多数者であり、貧しい。教養は低く、情緒的であり感情的である。富める者をうらやみ、買収や煽動を受けやすい。素朴で常識的で感動をよぶカッコイイ言葉には弱い。自分の言葉は持たないが、腕力だけはある。何が正義か不正義かを知らず、ただ直感的に「不正を正す」。近視眼的で付和雷同。烏合の衆と化して政策決定に多大の影響を及ぼす。 …
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佐藤賢一 『小説フランス革命Ⅸ ジャコバン派の独裁』  この内憂外患を共和政は救えるか?

パリのサンキュロットによる食糧暴動(1793年2月25日)から彼らの武装蜂起に至る同年5月31日までの詳細がこの一巻で語られる。バカバカしい党利党略に濃密な政治論が織り込まれて、興味はつきない。 内憂外患なんてなまやさしいものじゃぁない。複雑骨折で身動きができずまさに崩壊寸前のフランス国家である。その右往左往ぶりを笑い飛ばすように…
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安部龍太郎 『等伯 下』  天下一を目指した男のあらぶる魂が救済をうるまでの波乱万丈

信長、秀吉が天下をとったころ、安土桃山文化である。城郭は単なる軍事施設ではなく、覇者の富と権勢の象徴となった。雄大、壮麗な城郭を装飾する絵画は豪壮にして華麗なものとなり、金碧障壁画が盛んに行われる。その第一人者が狩野永徳であった。下巻は狩野永徳一門と信春(等伯)の命をかける抗争が縦軸になって展開する。 聚楽第のふすま絵を請け負…
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安部龍太郎 『等伯 上』 能登の片田舎、一人の絵仏師が天下一の絵師をめざして上洛する

長谷川信春、後の等伯(1539~1610)。実父は能登七尾の畠山家の家臣。染色業長谷川宗清の養子となり絵筆の技は養父に習った。長谷川家は法華宗で能登における菩提寺は本延寺。法華関係の仏画、肖像画などを多く手がけた。 20代ですでに絵仏師としても水墨画家としても一地方絵師の限界を超える力量を見せていたのだが、さらに狩野永徳を超える天下…
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伊東潤 『義烈千秋 天狗党西へ』 水戸藩はなぜ回転維新の先頭に立てなかったのか。

タイトルの「義烈千秋」には義公光圀と烈公斉昭の志は千秋に続くという意味が込められていると著者は述べている。 「千秋に続く」とは「永遠なれ」であろう。「君が代は 千代に八千代に………」と同意義かな。 幕末、明治維新。西南の雄藩では下級武士層から幾多の英雄を輩出したのだが、わが故郷の水戸藩からは一人の英傑も生まれず、血みどろの内ゲ…
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佐藤賢一 『小説フランス革命Ⅷ 共和政の樹立』 革命には流血がつきものだとはいえ………

カバーの装幀画では槍、斧を振りかざした群衆が罵声をあげながら示威行進している。 一人の男が槍先に貴婦人の生首を刺し、これ見よがしに掲げている。 この首はマリー・アントワネットの友人であるランバル大公妃である。 1792年、8月10日事件(テュイルリ宮殿襲撃)。 続く9月2日から6日までのいわゆる9月虐殺。 この絵は9月…
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佐藤賢一 『小説フランス革命Ⅶ ジロンド派の興亡』 いよいよ第二ステージに突入した革命の行方?

長編歴史小説でなお刊行継続中の大作を二つ読んでいる。2007年から始まった船戸与一『満州国演義』は昭和3年から最新刊の昭和16年まで、13年間をたどるのに7巻もかけている。2008年から始まったこの佐藤賢一『小説フランス革命』は1789年から最新刊の1792年まで、わずか3年を同じく7巻もかけて描いている。両者、驚くべき詳述の歴史小説な…
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船戸与一 『満州国演義7 雷の波濤』 戦争と人間の狂気を克明に描いた空前の侵略史、ここに頂点を迎える

昭和十六年。ナチスドイツによるソビエト連邦奇襲攻撃作戦が実施された。ドイツに呼応して日米開戦に踏み切るか、南進論を中断させて開戦を回避するか………。敷島四兄弟が岐路に立つ皇国に見たものとは昭和15年、ドイツがパリを制圧する。日本軍は北部仏印に武力進駐。大政翼賛会の発足。日独伊三国同盟。 昭和16年、日本軍は華北での治安強化を進める。ド…
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帚木蓬生 『日御子』 北九州の大地をカンヴァスにして描いた、この夢の楽園に瞠目せよ!

邪馬台国の所在をめぐっては、専門家はもとより、松本清張、高木彬光らミステリー界の大御所、郷土研究家を含め喧々諤々の論争は今なお続いています。ロマンあふれる魅力的な謎ですから、帚木蓬生もついに邪馬台国の謎に挑戦したのかと期待を込めて読んでみたのです。  「倭奴国王印」、教科書で習いました。後漢書にある、紀元57年、倭の奴国が後漢…
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吉村昭 『桜田門外ノ変』 史実を丹念に積み上げ、桜田事変の実相に肉薄する歴史小説の傑作

「桜田門外の変」とは安政7年(万延元年・1860年)、雪降る江戸城お堀端で水戸藩士たちが井伊大老を襲撃し暗殺した事件である………と。それだけでなく安政の大獄、無勅許の開国など独断専行に対する制裁だった………程度は誰もが知っている著名な事件である。 先日出会った山田風太郎『魔群の通過』はその4年後の1864年の天狗党の乱であったが、こ…
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山田風太郎 『魔群の通過』  鬼才風太郎が水戸天狗党の乱を描いた異色の傑作歴史小説

水戸の内戦は、まことに酸鼻なものでございました。内戦とはそれまでまったく隣人友人としてつき合っていた人間たちが敵味方に分かれて、同じ国の中で、いくさと言える時間と規模で相たたかうものであります。そもそも日本において内戦という状態にあるいくさは、元治元年の水戸内戦以外にはないのではござりますまいか。「魔群」のタイトルイメージからは忍者…
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辻原登 『韃靼の馬』 朝鮮通信使外交を詳述する歴史ロマンの傑作

李朝朝鮮とわが国の歴史的な外交制度である朝鮮通信使について、私が知ることになったのは2003年に荒山徹の伝奇小説『魔岩伝説』読んだ時だった。現在、わが国と朝鮮との間には様々な緊張関係にあるのだけに、対等な善隣関係を前提にした通商・文化の交流という重要な史実を知らなかったことはショックであった。どうして教科書にはのっていなかったのだろ…
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高橋克彦 『風の陣 裂心篇』  「裂心篇」は大長編の歴史ドラマの完結篇だが独立した小説として読もう。

もはや戦いを防ぐ手立てはない………。蝦夷の雄・鮮麻呂に決起のときが!陸奥の黄金を求め、牙を剝く朝廷に対し、蝦夷の首長・伊治鮮麻呂が起ち上がる。狙うは陸奥守の首ひとつ!北辺の部族の誇りを懸けた戦いを描くシリーズが、ここに幕を降ろす。 第4巻まで続いた『風の陣』もこの第5巻「裂心篇」でいよいよ完結だ。 全体の構成は大和朝廷…
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船戸与一 『満州国演義6 大地の牙』 昭和13~14年を多面的に描出した迫真の侵略ドラマ

第5巻が出版されて2年余りが経過した。この間に目先を変えた『新・雨月』を上梓したものの、どうなっているかと心配していたが、なるほど、これだけの豊富な素材を緻密に組み立てるにはそれだけの時間が必要だったのだと思わせる、期待を裏切らない第6巻だ。 満州クロニクル、大陸侵略史の断面。昭和13年~14年を750枚のボリュームで多面的に…
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安部龍太郎 『葉隠物語』 今、武士道が見直されている??? 小説好きの読者向け、葉隠れ入門書

「葉隠」については詳しくない。ただ、その語感にはつつましさに潜む熱い思いがある。いつのまにか失ってしまった日本人の美徳を象徴しているようで、引きつけられるところだ。時代小説では葉室麟が描いた『いのちなりけり』にあった葉隠には共感するところが多かった。 ところが一方で、最近評論家の語るあるべき国家論やあるべき日本人論のなかに、よ…
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高橋克彦 『風の陣4 風雲篇』 「義」によって結ばれた男たちのそれぞれの陸奥

国家とは?国民とは?政府とは?地方自治とは?こんな風に日本列島を眺める人はいなかった時代のことだ。ここに、あえて近代的国家観を持った男たちを投じ、悪戦苦闘させるのがこの小説の面白さである。けれども東北地方をどうまとめるかとなれば、この時期である、重苦しくなるのは私だけではないだろう。宇佐八幡の託宣を持ち帰った和気清麻呂によって、皇位…
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松本清張 『天保図録 下』 現代を髣髴とさせる権力群像に瞠目!

『天保図録 上』で登場し、鳥居耀蔵の手下どもを散々やり込めた颯爽の旗本・飯田主水正とその仲間たちの活躍はなりをひそめる。 中核は天保改革そのものに絞り込まれる。 天保の改革とはなんであったか?それがなぜ失政に終わったか。 水野忠邦の理想したところ、彼の失脚になにがあったか? 詳細な歴史分析を背景に有能な官吏・水野とい…
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