![]() 第五巻から第七巻までは武松と李逵のふたりだけを供に従えた宋江の逃避行を軸として梁山泊の新たな展開が記述される。青蓮寺側の暗殺者として抱きこまれた馬圭の手引きによる青面獣・楊志の壮絶な死、女真族との同盟工作に失敗し囚われた魯智深がみずから手首を切り落とす決死の脱出、青州官軍にあって勇猛で知られる将軍、霹靂火・秦明の梁山泊への仲間入りなどページを繰るのがもどかしくなるような緊張のエピソードが連続する。 しかし、このあたりから新たに読み応えがでてくるのは梁山泊軍と官軍の全面戦闘の模様であろう。 第五巻では宋江ら三人が川辺の料亭で江州精鋭軍、なんと一万の軍勢に包囲される。冒険小説ならではだがスリリングに危機一髪の脱出に成功したのもつかの間、川の中州の隠し砦にたてこもる。地元盗賊三百人に守られて二万に達する江州軍・青蓮寺との集団戦闘が開始された。さらに官軍は宋江一人の捕縛のため、全体で五万と増員する。青面獣・楊志の率いる三千人の部隊、豹子頭林沖の騎馬隊五百、ゲリラ戦用の特殊部隊・到死軍そして頭目・晁蓋の率いる梁山泊の本軍は、猛攻を受けている彼らを遅れずに救出できるのか。ついに梁山泊軍と官軍の最初の激闘が開始された。 一般に戦記物といわれる小説ではヒーローの一騎打ちなどに目の覚める格闘シーンを楽しむことができる。ところが戦闘を組織化された集団全体の動きとして描写することに成功している作品は少ない。開戦前夜の虚虚実実の駆け引きや局地戦における奇手奇策の工夫はあっても同時進行しているはずの全軍の作戦行動表現にリアルな迫力に欠けるきらいがある。最近で言えば池宮彰一郎『平家』の源平合戦に特筆するものがあったが、おしなべてこれまでの戦記物ではその描写は平板であった。こんな感じ方をするようになったのは、おそらくは近年の特殊撮影技法が進歩したスペクタクル映画に見られる迫真の映像表現力と比較してしまうからだろう。 もともと原典「水滸伝」が英雄豪傑の銘々伝の寄せ集めであって、集団戦闘はあっさりした表現のようである。高島俊男著『水滸伝の世界』(ちくま文庫)によれば 特に後半の戦闘場面の連続になると、うんざりするほど(大量殺人)が繰り返される。 とある。 北方版『水滸伝』ではこの集団戦闘の迫力がこれまでの戦記物とまるで違う。主力部隊も騎馬隊、弓矢隊、歩兵部隊、水軍など役割の異なるいくつかの部隊がある。総力戦ともなれば牽制のための待機軍も必要であり、兵站の確保、本拠地を守る部隊、逆に敵の糧道を断つ部隊、撹乱戦のための特殊部隊も必要になる。敵味方ともいくつもの機能が統合的されて激突するのだがその全体像が目に浮かぶような巧みさがそこにある。個々の部隊長の個性が生み出す血と汗と砂塵にまみれた戦闘シーンの迫力、攻めまた退くと使い分ける軍師の判断の妙、それらを俯瞰する総帥の働きと北方はまさに戦いが組織戦であることを圧倒的筆致で描写する。読者は血まみれの剣を振るう戦闘の真っ只中にいると同時に戦況全体をみつめる総帥の対場に立ってこの激戦に参加することになるのだ。さらに読者はここに至る長いプロセス、将軍たちの半生をおもいやって、危うい勝利を得れば安堵し、とくに親しんできた英雄の死ともなれば胸を詰まらせることにもなるのだ。 梁山泊の拠点は梁山湖にある本拠地から東に二龍山、清風山、桃花山、北に双頭山、西に少華山と首都開封を囲む布陣で拡充された。一方、官は新たに冷徹な策士・聞煥章を青蓮寺に送り込み賊徒対策を強化する。各拠点での戦闘は激化し、放浪する宋江一行には絶体絶命の危機が迫る。そして第七巻へ。 2004/07/14 |
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