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help リーダーに追加 RSS 夏樹静子 『見えない貌』 ベテランのミステリー作家が描いた親子の絆

<<   作成日時 : 2006/12/12 22:59   >>

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夏樹静子さん、1938年生まれというからわたしよりも6歳先輩だった。そう気がつけば初期の作品『蒸発』を傑作だなと感じたことや『Wの悲劇』なども懐かしく思い出される。その後二時間ものテレビミステリーでしかお目にかからなくなったが、久々に5年前の『量刑』ではベテランの新境地ここにありと再び輝きを取り戻していた。

人妻、不倫、弱い女の心に潜む妖しさ、親子の情愛、これが夏樹静子なのだが、この類型はいまではマンネリミステリーの代表テーマかもしれない。 『量刑』もそうだし、この『見えない貌』でもこれがなお一貫している。しかしそれでも二時間テレビドラマのような使い古された退屈な作品になっていないところにベテランミステリー作家の持ち味を発見する楽しさがあった。

「メル友とつながっていなければならないほど寂しくて孤独だった」若き人妻・晴菜が殺害される。母は「見えない貌」への復讐を決意する。「母・朔子は殺人者を自ら追いつめるが………。思いもかけぬ第二の事件が待っていた!」「これが命を奪われた我が子への究極の愛」とうかつにはあらすじを述べられないので装丁帯にあるキャッチコピーの引用にとどめるが、それだけのひねりをきかせた全体構成からなる密度の高い上等のミステリーだった。

携帯電話だけでつながったメル友、出会い系サイトの怪しい魅力、その危うさへの警告という今日性を取り上げていること自体にそれほどの目新しさは感じないがまもなく70歳にならんとする女流作家の社会に対する実直な姿勢、またネットシステムに対する旺盛な研究意欲に敬意を表する。

それよりも第一の山場からの「思いもかけぬ」大逆転の展開がみごとだ。

さらに前半は朔子を中心とする心理サスペンス、後半を本格法廷ミステリーと硬軟の調和が実にうまい。

この後半では『量刑』と同じ作者の主張がある。神ならぬ生身の人間が真実を求めその結果が判決となるのだが、それがはたして真実なのかと。『量刑』では判事の立場でこれを描いていた。今回は弁護士であった。

弁護士の立場に立った法廷ミステリーの醍醐味は真っ黒な被疑者を無罪に持ち込むドラマチックな展開にあるがその期待は裏切られない。

「『親子の絆』の哀切を描く、夏樹静子5年ぶりの推理巨編」だと思う。

親子の絆なんてなんぼのものよと、親子の殺し合いが日常化するほど酷薄な関係になってしまったのが今だ。いまさらそれの「哀切を描く」のはノスタルジーに他ならないのだけれどこの物語にある子を思う親の気持ちに素直に同調できる私はそれだけの年代なのかもしれない。

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